第06話 無限在庫だ!
状況を整理するために、私は食事の用意をすることにした。
なにせ、けっこうずっと何も食べていないのだ。さすがにお腹が減った。
腹が減っては良い案も浮かぶまい。
フィオナが言うには、私はかなり長い時間ドラゴンを見ていたらしい。確かにスマホの時間もかなり進んでいる。
ちなみに、アンテナは無反応。
ここがどこかは知らないが、救援を呼ぶのは難しいだろう。
いちおうホームセンター内の電話も試してみたが、こちらも不通。事務所のPCは起動できたが、インターネットはダメだった。
(細かいことは後でフィオナに訊くとして、今は腹ごしらえだな)
といっても、グラノーラとかで十分だろう。
日持ちしない牛乳やらヨーグルトやらは、さっさと消費してしまったほうがいいだろうし。
さすがに、この期に及んでお金がどうのとか言ってる場合でもない。
私がホームセンターへと行こうとすると、フィオナに手を掴まれた。
「ど、どこいくの?」
「どこって、ちょっとそこまで食料を調達しに行くだけだけど」
「私も行く」
そう行って手を繋いだまま、私たちはホームセンターへ向かった。
なんだか、突然懐かれてしまった。餌付けか? 餌付けの効果か?
「グラノーラ、グラノーラっと。どこだっけ?」
「ぐらのーらってなに?」
「……なんだろうな? 乾燥させた豆と雑穀?」
「あ~、ミュースリーみたいなもの?」
「私はそのミュースリーがわからないよ」
まあ、おかゆも食べれたし、グラノーラのほうが西洋風な食べ物なわけで、フィオナも普通に食べられるだろう。牛乳はどうだろうな? まあ、そこは試していくしかない。
「こっちは、病人食しかないし……ん?」
「どうしたの?」
「いや、なんか違和感が。なんだろ」
食料品コーナー。別になにも変なことなんて――
「……あれっ? おかゆってこんなにたくさん残ってたっけ?」
最初にフィオナに食べさせたときに、まあまあたくさんカゴに入れたから、残ってたとしても数個のはず。だが、今は棚にぎっしり詰まっている。まるで、誰かが棚入れしたみたいに。
おかゆ以外のレトルトおかずも見てみたが、そちらも元の状態に戻っていた。
「…………復活してる……ってこと? それとも誰かが補充した?」
「誰かって?」
「店員の亡霊とか……」
「亡霊ってゴースト? この階層には魔物はいないよ?」
これだからゴーストが普通にいる世界の住人は……。
まあしかし、電気が普通に来ているのだし、物が復活するのもありえることなのかも。
「実験してみるか」
おかゆをカゴに入れる。当たり前だが、棚からおかゆは減り、別に復活もしない。
「どうするの?」
「とりあえず、ここで見守ってみよう。店員の亡霊が来るのか、それとも……」
なにせ時間はあるのだから、解決できる謎は解決したほうがいい。
待つことほんの5分。
ポンッ、と。おかゆがいきなり棚に出現した。
「えっえっ!? なんで!?」
フィオナが戸惑いの声をあげる。
おかゆを手に取り、さっき私が取ったやつと比べてみる。完全に同一の品だ。
つまり――
「やったね、フィオナ! 無限在庫だよ!」
「ってどういうこと?」
「何年でもここで生きられるってこと! 衣食住が完璧に揃っちゃったね。私とここで永久就職するかい?」
「しない……」
がーん。いきなりフラれたわ。冗談だけども。
まだあのドラゴンより先のことはわからないわけで、この場所からずっと出れない可能性もあるわけだ。その時、どれだけ在庫があるといっても、やっぱり心細さがあったわけだけど、これでほぼ詰みはなくなった。
同一の品が補充されるということは、賞味期限も元に戻るんだろうし。
……いや、だからって死ぬまでここで暮らすつもりはないけどさ。肉体より先に精神が限界に達しそうだし。
とはいえ、バックアップは強力なほうがいいに決まっているもんね。
◇◆◆◆◇
無限在庫に沸いた私たち(主に私だけ)だったが、今はそれより大事なことがある。
腹ごしらえをして、フィオナから情報を引き出したりとか。
「はい。これがグラノーラだよ。ミルクとかヨーグルトとかはお好みで」
「かわいい! たくさんナッツが入ってておいしそう!」
「キラキラ女子みたいな反応だな……」
どうやらおかゆよりは見た目に馴染みがある食べ物だったらしい。
躊躇せずにパクパクと食べている。
私は歯に挟まるからあんまり好きじゃないかも。味はおいしいけど、和食派だからな。
電気はあるし、次は炊飯器でごはんでも炊いてみるか。
あ、そういえばフィオナに敬語を使うのもやめた。
理由は……ヤバそうな草をモクモクさせながら、だら~りとした姿を見てしまったから……かな……。
食べながらフィオナから情報を引き出す。
「私、あそこで倒れててフィオナに起こされたけど、倒れている間になにがあったの?」
「何があったっていうか……マホは突然現れたのよ? この建物ごと。正確には建物が現れて、中に入ったらマホが倒れていたというのが正確かな」
というと、ホームセンターが主で、私は副かな?
いや、その逆もあるか。だいたい、私の他に誰もいなかったという状況自体がおかしいわけだし。
「ちなみに、私は転移の罠に引っかかって、ここに飛ばされたんだ。ここの宝箱には、たまにそういう罠が仕掛けられていて。そのおかげで、私はここでもう3日も――」
「たからばこ? わな?」
(聞き馴染みのない単語だ。ゲームみたいな? フィオナも姫騎士みたいな格好だし……でもコスプレじゃないっていうし、ドラゴンまでいるし、それにこの場所だって――)
実のところ、私はこの時に至るまで、まだ、状況を――つまり、異世界転移してしまったということを、キッチリとは理解していなかった。
そういう漫画やアニメは見たことあったけど、そんなことが自分に起こるなんて想像もしていなかったし、それならまだ、死後の世界といったほうが現実的だ。
壮大なドッキリの可能性も…………さすがにそれはないか。
(う~ん? 結局なんなんだ? やっぱ夢なのかな……。だって、だってだよ? ホームセンターで気絶して、起きたらホームセンターごと異世界転移してました! な~んて、荒唐無稽とかいうレベルすら超越してない? 絶対、これ夢だよ。夢。だって、あんな立派なドラゴンがいるなんてさぁ~。古典的な頬ツネりなんかやれば、ほーれ痛みなんていたたたたたたた)
「ちょっと、聞いているの?」
「あっ、ごめん。考え事してた」
「考えことって……、自分の頬をつねり上げながら?」
「我が国の伝統的な判定法でございまして」
ジンジンと痛む頬をさする。
てか、普通に痛かったんですけど!
「それで、あなたどこから来たの?」
「日本から?」
「ニホン? なんで自分でも半信半疑な感じになってるのよ……」
「あ~、やっぱり日本って聞いても知らない感じかぁ……」
「それに、あの建物はなに? 商店……にしては大きすぎるよね?」
「あれはホームセンターといって……、見たほうが早いし、案内しようか?」
知識を共有するためにも、中を案内することにした。
なにか新しい発見があるかもだし、まだ調べてない場所もある。
フィオナは、意外とおっかなびっくりした感じに付いてきた。
見た目は姫騎士という感じなのに、案外小心者なのだろうか。
……いや、たぶん彼女にとっては、なにもかもが見慣れないものなのだ。それが、どういう品なのかわからなければ慎重にもなる。そういうことなのだろう。
フィオナに説明しながらも、私は状況の把握に務めた。
ホームセンター「ダーマ」は田舎のホームセンター特有の異常な広さを誇り、園芸用品や資材関係は当然として、ガソリンスタンドまで併設されている。
まだ確認していなかったトイレや屋上なんかも確認してみたが、私たち以外の人間は発見できなかった。
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