第05話 ふたりの感覚の差!
ガシャンと扉を閉めたフィオナは、私を降ろして床にへたり込んだ。
はあはあと息を切らしている。
「すごいですね!」
「なにがよ! ドラゴンのこと? それとも、あなたを運んだ私のことかしら!?」
「どっちもです! あ、写真も撮ったんですよ。これ見てください」
まさかドラゴンをこの目で見られるなんて!
あの立派なピカピカに輝く赤い鱗。おっきな牙。圧力すら感じる身体!
どうやって、こんな場所であの巨体を維持してるのかわからないけど、食事によるものでないのは間違いないだろう。糞らしきものもなかったし。
変温動物でもないんだろうから、なんだろうな? やっぱり神様的な存在で、不老不死だとか? そうであっても不思議でもなんでもない。あんな象より大きな生き物が、こんな閉鎖空間で寝てるくらいなんだから。
「この写真もいいでしょ? これ、鱗を接写してみたんだけど、光沢すごいよね。ほら、私の姿が映るくらい」
写真も上手く撮れた。スマホの電源もホームセンターで充電できるだろうし、デジカメを使ってもいいな。
アンテナが立ってれば、お父さんにこの画像を送って自慢したいところだった。残念。
「マホ……あなた、何者なの……? アレが怖くないの?」
「怖い……? あ~、そりゃ怖いよ? でも、ドラゴンに食べられて死ぬなら別にいいかなって」
うちの父親なんて、死んだら死体を海に流すか、鳥葬にしてくれって言ってたしな。
まあ、私は死んだ後のことなんてどうだっていいんだけど、こんな超常的な状況になっているわけだし、死ぬならドラゴンに食い殺されるのがいい。
あっ、でもアレって食事とかするタイプじゃないっぽいか。残念。
「私は良くない……。まだ、死にたくないし……」
「そりゃ、私だって死にたくはないけど。まあ、ちょっと夢中になっちゃっただけだから、次はもっと慎重にやるよ」
「次って……なんで、そんな無邪気にしていられるわけ? あれを倒さなきゃ脱出は絶望的なのよ!? ああ~、もしかしたら魔物がいない可能性も考えてたのに…………」
「まあ立派なドラゴンでしたもんね。私、あんなの初めて見ました」
「あ! 上への扉があったしあそこから上に行っちゃえばいいんじゃない!?」
「上に行ってる間に竜が起きたら戻って来れなくなりますよ?」
「そうじゃん! やっぱ倒すしかないじゃん! ああ~~~、もうダメよ。あんなの倒せっこない! 私はここで死ぬんだわ!」
地面に力なく座り込んだまま、うう~と
火はどうするのかな? と思いながら見ていたら、指先からライターくらいの火が出て、それでタバコに点火するではないか。
そのまま、モクモクと吸い始める。
「ああ~…………」
ガンギマリ顔で、涙を流しながらタバコを吸うフィオナ。
甘い香り。なにか、とてもヤバそうな草である。
姫騎士かと思ったら、想像よりずっとヤバい奴だった。
「うぇええええええんん。もうどうしようもないよぉ……。こんなとこに閉じ込められたまま死ぬんだ~~~~」
「フィオナさん、タバコなんて吸うんですね」
「ルクヌヴィス様、大精霊様、私をお助けください。ルクヌヴィス様、大精霊様、私をお助けください。あの邪魔なドラゴンをお倒しくださいませぇ~~~」
私の言葉を無視して、呪文のように唱えはじめるフィオナ。
ちょっとトリップしちゃってる感じだ。
いや、それより気になること言ったな。
「……ん? あの竜、倒しちゃうんですか?」
「はぁ~!? あなた、あのドラゴン見たでしょう!? あれは、竜王種というやつよ。あんなの倒せるはずないでしょ!」
「ごはんとかあげれば意外と懐いたりするんじゃないですか? あ、でも食いでがあるものはあんまないか……。いや、そもそも食事とか摂らない習性の可能性が高いから、その場合なんだろ……日光――明かりとか? そもそも、食事しないなら襲われる可能性自体が――あ、そっか。ナワバリか。そうなると厳しいかもな……そもそも、この場所だって――」
「なにをブツブツ言ってるのよぉ~。ごはんなんて……私たちがごはんになっちゃうに決まってるじゃない……」
「まあ、それはそれで本望というか」
「私は本望じゃないいいいいい」
地面に突っ伏しておいおいと泣き、ときどき御禁制っぽいタバコを吸ってキマるフィオナ。
私は、ため息をついた。
「しょうがないですね。生きてるものなら殺せると思いますよ? それなりに支度はいるだろうけど」
殺したくはないが、どうやらあの竜を殺さなければここから出られないというのなら、仕方がない。ドラゴン(竜)かフィオナ(人)かどちらを取れと言われて竜を取るほど血迷ってはいないつもり。
フィオナは、私の言葉に顔を上げた。
「そうなの……? 倒せるの……? マホって実は強い?」
「いえ、めちゃくちゃ弱いですけど」
「じゃあ、どうやって」
「どうもこうも。これだけの道具が揃っているし。ゲームで言えば、アイテムが無限にあるようなものですから。それに、どんだけ強かろうが生き物でしょ? そもそも、人間が倒せるようにできてるやつなら、こんだけ物資があれば楽勝でしょ。殺せる殺せる!」
生き物ってのはね。案外、簡単に死ぬものなんだよ、フィオナ。
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