第04話 なにやってんのよ! ※フィオナ視点
「……ん、あれ? 私……どうしたんだっけ」
目を覚ましたフィオナが状況を理解するには、しばらくの時間を要した。
寝ぼけ
十分な休養がとれた感覚があった。
身体の下には柔らかい寝具。
眠る前にはなかったはずだ。だとしたら、あのマホという少女が用意してくれたものなのだろう。
記憶を呼び起こす中で、マホに肩を抱いてもらいながらワンワン泣いたことを思い出して、フィオナは赤面した。
強くあらんと心に決めて迷宮に挑んだはずだった。だが、彼女の性根は未だに弱く脆い少女のまま。そのことがあっという間に露呈してしまった。
「……マホは?」
周囲には人影はない。
あの「ホームセンター」とかいう建物は、相変わらず煌々と光を放ってそこにあるが、マホの姿はどこにもみえなかった。
「マホ! いないの!?」
心細さがぶり返してくるのを感じ、フィオナはホームセンターの中を走った。
だが、どの通路の先にもいない。二階に上がってもいない。
どこにもいない。
「も、元の世界に戻っちゃったとか……? や、やだ。やだよ……!」
気付けば名前を呼びながら走り回っていた。
フィオナは腐ってもそれなりに場数を踏んだ探索者だ。
それなりに多くの魔物を狩ってきた、その身体能力は迷宮に順化していない人間とは比べるべくもない。戦士の加護を持ち、神との魔法契約すら果たした才媛である。
広いホームセンター内であろうと、くまなく見て回るのにそれほどの時間を必要としなかった。
だが、マホの姿は見えない。
「い……いない……。どこにも……」
本当にいなくなってしまった。
物資はありがたいが、また自分だけになってしまったことへの恐怖と悲しみで、フィオナはまた涙を流しかけたが、ふと視界に映ったソレに気付き、慌てて駆け寄った。
「開いてる!? なんで? 私がなにをしても開かなかったのに!?」
上の階層へ続く扉の存在は、もちろんフィオナとて最初からわかっていた。
だが、どうしても開くことができなかったのだ。魔法的ななんらかの措置が施されているであろうことは明白で、要するに詰んでいたのである。
「……もしかして、マホが開けたの……? 私が寝ている間に……? 私がちゃんと説明しなかったから!? でも、勝手に上に行くなんて……! この上には、たぶん――――」
階段を駆け抜けたフィオナは、ひとつ上の階層に出た。
「う……うそ…………」
そこにいたのは、伝承に聞く
フィオナも実際に見るのは初めてだ。それどころか、フィオナはドレイクもワイバーンすら見たことがない。
こんな巨大な魔物は、彼女が主に活動してた6階層や7階層には出てこないのだ。
(レッドドラゴン……! それに、これ……竜王種……!? 精霊色の鱗と、同色の竜皇気を持つ竜は、竜の中でも別格の存在だって……それが、メルクォディアのラストガーディアンだっていうの……!?)
お伽話めいた英雄譚に語られる、竜の王。
人語を解し、古代魔法を駆使し、灼熱のブレスを吐き、その強靭な爪で万物を引き裂く暴力の権化。彼ら竜王種のほんの気まぐれで、古代に繁栄した都市がまるごと壊滅したという伝説すらあるのだ。
今は眠ってるようだが――
うなり声はドラゴンの寝息だった。
そして、そのすぐ近くに、小さな人影。
「(あの娘――なにしているの)」
フィオナは足音を立てないようにマホの下へと向かった。
なにせ、ドラゴンがもし目を覚ましでもしたら、あっというまに殺されてしまうだろう。
当然、こんな最下層では蘇生も期待できない。
(怖い……! もう……! どうして、あんなとこに突っ立ってるのよ……!)
それでもなんとか、すり足でマホの下まで辿り着いたフィオナが見たのは、小さな四角い板を胸に抱くようにして、巨大な竜を見つめるマホの姿だった。
濡れた瞳。うっとりとした横顔。
まるで、長年の恋人を見つけたかのうような――
(な、なんなの……? 魅了の魔法にでもかかったとか……? でも、まだドラゴンは寝てるみたいだし……。理解不能……)
「フィオナさん、見てくださいよ。こんなに立派な生き物がいるなんて……。すごい……きれいですよね…………」
フィオナに気付いたマホが、感動に声を震わせながら言う。
その言葉はフィオナの理解の外にあったが、いずれにせよこんなところにいつまでもいるわけにはいかなかった。ドラゴンが何の拍子に目覚めるかわからないのだ。
「馬鹿なこと言ってないで……! 戻るわよ……!」
「え? まだ見たいところあるんだけど――」
「わ、わー、大きな声出さないで……! ほら、もう!」
「わわっ」
テコでも動きそうにないマホをフィオナは抱え上げ、そのまま部屋から脱出した。
ドラゴンは最後まで目を覚ますことはなかった。
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