第03話 ドラゴンじゃん!

(それにしても、どうして電気が来てるんだろ?)


 ホームセンター『ダーマ』の周りを一周してみたが電線は途中でちぎれており、この場所が外界から隔離されているのは間違いない。

 そのはずなのに、電気はある? 謎だ。


 でもまあ、電気があるのとないのでは全然違う。

 フィオナはここに「閉じ込められている」と言った。

 助けが来るまでにどれくらいかは不明だが、ここで過ごす必要があると考えるのが自然だろう。


 それにしても、これはどういう状況なんだか。

 フィオナに訊きたかったけど、寝ちゃったしなぁ。


 私はなんとなしにペットコーナーに向かった。

 いつもは店員さんが彼らの世話をしているわけだが、今は当然だれもいない。私がやらなかったら死んでしまうだろう。

 意外な責任が発生してしまった。


 私が近付くと動物たちが騒ぎ出す。

 最後にエサを食べてからどれくらい経ってるのか、ハラペコらしい。


「は~い、ちょっと待っててね」


 ホームセンターのちっこいペットコーナーだからか、そんなに数がいなくて良かったが、担当の趣味なのかなんなのか、犬に猫に魚にトカゲにハムスターと節操なく置かれているのは、どうかと思う。

 しかも、犬は「秋田犬」、猫は「ベンガル」、魚は「アロワナ」、トカゲは「フトアゴヒゲトカゲ」だ。ハムスターは普通にジャンガリアンだけど。


(まあ、犬猫はエサが楽だから不幸中の幸いか?)


 私はそれぞれにエサをあげて、糞尿の掃除をした。

 いよいよ出れないとなれば、彼らを解放してもいいが、魚だけはちゃんと世話をしないとすぐ死んでしまうだろうな。逆にハムスターは増えてしまうから、個別管理したほうがいいだろう。


 トカゲのエサだが、私は親がいろんな動物を飼育していたので、ある程度は知識がある。

 まあ、コオロギをまるごとあげるわけですけどね。コオロギたちは数に限りがあるわけで、ここで助けを待つ時間が長くなりそうなら、繁殖も視野に入れる必要があるだろう。

 こちらも、電気があるならそんなに苦労はない。


 餌やりの後、私は子犬(ポチと命名)を連れてホームセンター内部を回った。

 私以外の人間がいるかもしれないし、少なくとも状況の把握に努める必要があるからだ。

 

「事務所にもヤードにも、ガソリンスタンドのほうにも誰もいないっぽいなぁ」


 電気は来ているのに。

 まあ、こんな異常事態なわけだし、何人も巻き込まれてなくてよかったって思っておこう。


 駐車場全体が密室の中に入っているから、かなり広大な空間だ。

 私はポチをケージに戻し、外壁を一周回ってみることにした。

 壁をコツコツと叩いてみるが、石でできており、かなり硬く重そう。

 破壊するのは無理そうだ。


「で、出口らしきものはあれだけ……と」


 壁には一カ所だけ、大きくてゴツい立派な扉があるのだ。

 たぶん、フィオナの腕力ではどうしても開けられなくて絶望しているとかなんだろうが、なんたってここはホームセンター。どうにでもなる。


「フィオナが寝てる間に、出口を確保しておいてやろうか」


 高さ3メートルくらいの巨大な扉だ。

 錆納戸さびなんど色の金属製で、鉄の輪っかが付いている。

 普通に私が引っ張っても開きそうにないが、トラックで引っ張れば開くだろう。

 ホームセンターには配達用のトラックが数台置かれているのだ。免許はないが、オートマの運転ならなんとかなる。広大なスペースもあるから、練習したっていいしね。


「いちおう試してみるか」


 案外、かる~く開く可能性もあるもんな。


「よいしょ。ん?」


 ギィ~~~~~っと音を立てて、普通に開いてしまった。


「なんだ、開くじゃん」


 扉の先は外ではなく、長い昇り階段だった。

 一番上は見えない。


「地下ってことなのか? 大丈夫なのかな、ここ。酸欠とか、ガスとか……」


 そんな心配をしながら、私は階段を上っていく。

 空気の流れを感じるから、酸欠になることはなさそうだが、ガスやらなんやらはちょっと心配だ。

 目に見えない毒ガスでもあれば、即死だ。ホームセンターにガス検知器とか売ってたっけかな……。小鳥ちゃんでもいれば、坑道のカナリア代わりになったかもしれない。


「……それにしても、この音はなんだろ」


 ブオー、ブオーと地響きのような音が聞こえてくる。

 階段の長さはそれこそ100メートル以上もありそうだが、音はこの先から聞こえてくるようだ。


「わぁ……!」


 階段を登り切った先は、外ではなく、また巨大な密室だった。

 下とそれほど変わらない巨大空間で、天井も高いが、何本もの柱によって天井が支えられてるという点が、下階との違いかもしれない。


 ブオー、ブオーという音は、そこにいる生物の呼吸音。

 厳密には、いびきの音だった。


 艶々に輝く真紅の鱗。

 鋭く突き出た幾本もの角。

 太く鋭い爪。巨大な翼。

 

「…………うそ……。本物……だよね?」


 圧倒的な存在感で、それはそこにいた。

 際立つ異常。地球上には存在し得ない生命体。

 それはおとぎ話に出てくる伝説の竜。


「……ドラゴン」


 感動していた。

 ドラゴンは眠っているようだったが、その巨大さ、優美さ、力強さ、気高さ、そのすべてが、これまでに見てきた生命とは別格であり、ただただ美しかった。

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