第02話 とりあえず食事から!

 店内に戻ると、電気が煌々こうこうとついたままだった。外は石の壁で囲まれているし、どこから電気が来ているのかは不明だが、今は助かる。


「食料、食料……っと。たくさんありすぎて選ぶのが大変だな」


 お金は後で払えばいいだろう。誰もいないし。

 この状況が理解できているわけじゃないが、緊急事態には違いあるまい。


「3日も食べてないんじゃおかゆがいいかな? 確かレトルトのが売ってたな。えっと、卓上コンロと水と――」


 カートを転がし、カゴにあれこれ突っ込んでいく。


「おまたせ~」


 私はカートごと外に出て、フィオナと合流した。

 キャンプ用品のところで売っていた簡易テーブルを広げて、あれこれ並べていく。


「できるまでこれ飲んでて下さい」


 経口補水液とポカリスウェット。

 もしかしたら、すでにホームセンターの中のものを飲んでるかもだが、なんとなく彼女は商品に手を付けてないような気がしたのだ。

 

 ペットボトルを渡すと、フィオナは、不思議そうにそれを眺めて、振ったり両手で握ったりしている。


「どうしました?」

「えっと……どうやって飲めばいいのかわからなくて」


 へ? ペットボトルが開けられないとか、お姫様かなにかかな? 見た目は確かにそれっぽいけど…………って、ああ! キゾクって貴族か! なるほどね……って、なにがなるほどなんだか。


 ペットボトルを開けてあげると、フィオナは「おお~」とちょっと子どもっぽく驚いた。

 近くで見ると、すごい美人だが、けっこう幼さを残した顔立ちである。

 意外と年下の可能性もあるな。


 フィオナが次から次へとペットボトルを開けていくのを横目に、私は食事の準備に取り掛かる。

 卓上コンロに火を付けて、鍋で湯を沸かし、そこにレトルトのおかゆを投入。

 食器から何から何まで全部新品で謎の石室駐車場メシとは、人生なにがあるかわからないものだ。


「はーい。できた。召し上がれ。熱いから気を付けてくださいね」

「あ、ありがとう」


 おかゆに、缶詰、お菓子。

 おかゆのお供は、外人さんには梅干しは厳しかろうということで、鮭フレークにしてみた。


「これは……なに?」

「おかゆですけど? あ~、食べたことない感じですか? 別に変なモノじゃないですから、大丈夫ですよ。ごはんを柔らかくしたものです。3日も食べてないなら、こういうもののほうがいいですから」


 やはり外国の人なのかな。おかゆは確かに食べるシーンが限られるかもしれない。

 日本人でも、そう頻繁に食べる物ではないし。


「美味しい……!」


 ふーふーしてから、恐る恐る口に運んだフィオナだったが、やはり空腹には勝てなかったようで、一口食べると、すぐに飲み込むように食べ始めた。

 なにせ、3日も食べてなかったのだ。当然だろう。

 私だったら、2日目あたりで絶望して死んでるかもしれない。


「あ、慌てないで大丈夫ですよ。売るほどありますから」


 私は追加のおかゆを温め、どうやら胃腸の状態も良さそうと判断、他のレトルトも温めた。

 ホームセンターには薬局コーナーがあり、レトルトの介護食が揃う。栄養も十分だし、なにより手軽だ。


(肉じゃが、煮込みハンバーグ、麻婆豆腐、牛丼)


 フィオナの食べっぷりをみていたら、私もなんだかお腹が減ってきた。

 よく考えたら、朝ご飯を食べてから、けっこう経ってるかも。

 とはいえ、私まで勝手に食べるのはどうだろう? ジュースだけにしておくか。


「おいしかった……。う……ほんとうに…………たすかった……う……ううっ」


 食べ終わったフィオナは、身体を震わせポロポロと涙を流しはじめた。


「……もう……ダメだと思ってて……。このまま死んじゃうんだって……。だから……」


 たぶんお腹がいっぱいになったことで、安心して気が緩んだのだろう。

 まだ詳しいことはわからないけど、3日も食べてなかったということや、ここが密室であることを考えると、かなり壮絶な状況だったに違いない。


 私はフィオナの肩を抱いて、彼女が泣き止むまでそうしていた。


 ◇◆◆◆◇ 


「寝ちゃった」


 お腹も膨れて、わんわん泣いて、そのままフィオナは私にもたれ掛かったまま寝てしまった。

 ちょっとゆすったくらいでは起きないくらい熟睡だ。


 可愛い寝顔だが、目の下のクマの濃さが疲れを連想させる。

 ゆっくり寝かせてあげよう。


 私はひとまず地面にそのままフィオナを寝かして、店へ。

 寝具コーナーでマットレスと掛け布団を調達。


 地面にそのまま敷くのは抵抗があったので、ブルーシートの上に敷くことにした。


「ふ~む。鎧も脱がしてやるか」


 欲を言えば、服もパジャマに替えさせたいが、そこまでやるのはおかしいか。

 鎧はそこまで厳ついものではなく、胸鎧ブレストプレート手甲ガントレット脚甲グリーブ


(ふ~む。手作り感ある鎧だな。あっ、ここ壊れてる)


 鎧は革ベルトで固定しているが、バックルの一つが壊れていた。

 金具は一つ一つ手作りしているようで、形が歪だ。

 鎧の下には分厚いダウンベストのようなものを着ている。

 ともあれ、硬いものは脱がせたし、これならゆっくり寝られるだろう。


 気温は安定しているし、とりあえず薄い毛布でも掛けておけばいいだろう。

 この感じだとしばらくは起きそうもない。


 さ~て、私はどうしよっかな。

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