第38話

「僕が、この事件を解決に至った事の詳細の論文を書く、と聞いておられましたか?」

「はい、お聞きしていました。」

「その英語版も、世界的に書いて発表していて、それを読んだCIAから、健君とあかりちゃんに、CIA特例職員、として、スカウトがきました。」

「そんなことあるー?」

「例外の職員起用、アメリカ人となり、モグラのスパイ活動はせず、ホワイトハッカーの職員、としてCIAの諜報機関で働いてみないか、と。」

「大丈夫ですかね?」

「決して罠ではないことを誓う。CIAとして興味がある、君たちと共に過ごしてみたい、だそうです。」

「CIAからの、日本人スカウトなんて、論外ですよね?前代未聞の壁、突破ですよ!」

「もちろん機密事項。警視庁の他の職員にも内密。最初の時点で知っていたのは、福多警視総監と、僕のみです。僕たちも他言すればどうなるかわかりません。健君とあかりちゃんがOKした場合は、極秘で渡米。断った場合は、全てこの話はなかったことに消し去る、と。」

「そうでしたか。」


そして健とあかりは渡米し、CIAに入ることを決意。

「学びと成長を得たい、人生で二度と訪れないであろう、貴重な経験になる、と二人が。」

「そうか。」


阪ノ上は念を強く押した。

「警視庁の他の職員には、健とあかりがこの道を選んだ場合は、国際極秘事項なので、ホワイトハッカー課がなくなったと装うように、とCIAから事前に告げられていました。……ですが、996係とお別れを言えないことを僕は、不憫に思ったので、世間、メディア、警視庁内にも内密にするとCIAと交渉後の条件で、健君とあかりちゃんに、996係と一課の一部の方、極秘事項を約束した共に捜査したメンバーにさよならを告げることを、CIAに許可して頂きました。健君、あかりちゃん、さよならのあいさつを。」

「警視庁、ホワイトハッカー初日ですが、渡米してCIA、いってきます!」

「バイバイはカナシイヨー!デモ、私、決メタカラ、頑張ルヨ!マタネ!」


「いつでも帰ってきていいんですよ?ホワイトハッカー部署は、いつでも用意しますから!」


「心配ね。でも、あなたたちが決めた道!どーんと行ってらっしゃい!」


「やるだけやってこい!でも、死んだ、とかは許さないからな!」


「頑張りや!さよおなら、ぷ~、や!人間、別れなんて、他人はそんなもん!でもな、会えてよかった!ありがとな!」 


「行方不明になる前に帰ってきてくださいね。謎の多い場所に行くのですから。約束です。」


「不安も多いけれど、楽しんできなさい。人生は、巡り巡って、必要なひとや、もの、と逢わさるの。だから安心しなさい。幸せになりましょう!」


「別れの悲しさより、CIAに呼ばれたお前たちの成長のほうが嬉しいな。この事件、どうなることかと思ったし、結果は離れることになったけど、人間必ず別れは来る。俺はお前たちが羽ばたくのを見届けたぞ。」 


「あかり!健!おめでとう!俺もCIA行きたいなー!頼んだら無理っすかね?」


「呼ばれてないのに行ったら消されますよ!それくらいのところですー!」


「どんなに怖いんですか。まあ、アメリカ国家の諜報機関ですから、スパイのハッキングがバレて他言ともなれば即、消される可能性もありますね。」


「そんなところに行かせるんですか?やめといたほうがいいのでは?気がかりです。」 


「何かあったら、すぐ連絡くださいね。その、ハッキング?で!よくわからないですが!」


「まあ、なんとかなるっしょ!ひひっ!頑張れよ!じゃあね!」


「あー、いなくなるのかー。別れは仕方ないけど、また会おうね!どこかで!」


「寂しいー!あかり、健君、あなたたちはいい子だった。身体大事にしてね。」


「気をつけて行ってくるんだ!ありゃはおめぇたちを誇りに思うぞ!」


「このことは、決して他言無用、ですね。」


阪ノ上はもう一度。

「そうしてくださいね。」 





飛行場で、阪ノ上に見送られる二人。メンバーはマスコミにCIA行きの極秘事項がバレる可能性があり、警視庁で別れた。


「いってらっしゃい、あかりちゃん、健君。」

「ありがとうございます!」

「アリガトウ!阪ノ上センセイ!」




飛行場。

アナウンスが鳴り響き、阪ノ上とも別れの刻がきた。

「気をつけてね。いつでも待っているから。」

「じゃあ、頑張ってきます!」

「イッテキマース!アリガトウ!」





飛行機が飛び立つ、機内で。

「大切な家族になってくれてありがとう、あかり。」

「私コソ!」

「そういえば、今さらになったけど、あかり、家族は?」

「私は親モ兄妹モ行方不明ニナッテ施設育ち。自閉症デ、オカシナ子ダッタカラ、施設デモ、ズット、パソコンシテテ。自閉症ノ特性ガ強クテ、ノメリコンデ、ハッキングガ得意二ナッテイッタ。」

「それは僕もだね。待って、家族が行方不明、って、いつから?どこで?」

「ンー、オボエてナイノ。ショックデ、ッテ聞イテル。触レナイ方がイイミタイ。思イ出シタラ生活ニ影響ガ出ルッテ。お医者サンカラ。」

「そうなんだ。僕は、引きこもっているときからもう生きていくことが、考えられなかった。叔父さんが家族を殺して脅されたときは、もう死ぬことしか考えられなかった。どうせパソコンを開けて死ぬなら、それで、自分で死のうかと。もしこれが囮なら、賭けで開けて、爆破が嘘なら叔父さんを捕まえるチャンスだし、爆破して死んだとしてもいいや、って。でも、やっぱりこのまま死ねないと思った。叔父さんへの復讐のために。確実に倒すために、パソコンは開けなかった。そしたら、こうやってあかりと出逢えて人生が変わった。」 

「オオゲサダネー!デモ、私もたけるクンと出逢えて、シアワセダヨ!」

「ありがとう、あかり。」

「アリガトウ、たけるクン。」

二人は、頭をコツン、と寄せ、手を握った。




空に飛ぶ飛行機を警視庁から眺める薬丸。

「おい!あれ、あかりたちのじゃないか?」

「えー?どこや?」

「いたー!」

「本当ですねー!今頃出発の予定です!」

「俺らも、邁進するぞ!」

「薬丸警部!カッコいい言葉なんか使っちゃって!」

「うーっ。俺は二日酔いっすー。」

「脇谷さーん!しっかりしてくださいよー!」

窓際にそっと近づく木内。

「ふふふ!頑張ってきなさい……。ずっと私の心に、在り続けているわ……。」

「じゃあ、もう恒例の!『あなた』だ!いくぞー!あなたと~、ただあなたと~、」

続きは本家のバックミュージックが流れる。

「ザザザ……こちら警視庁捜査一課水野、ザザザ、996係、応答せよ!」

「あ、あゆたん!どぅーしたー!」

「事件ですよ!事件!……」

「事件か……。犯罪を犯して、ひとの命を奪い、多くのひとを傷つけ、そんなヤツに幸せは許されないもの、その気持ちは、よーくわかる。だがな、全てのひとが幸せになる権利がある。そして全てのひとが救われる権利がある。元がそういうスタンスで、心をケアしなけりゃ救われない心は、延々と同じ、犯罪を犯す心のままの病んだ繰り返しの、光がない道を辿る。残された遺族、犯罪にあった被害者。いたたまれない心のケアは、とても重要だ。それに反して、加害者側の心のケアはされているようで根本は、見放されたように、ただの悪者扱い。こういうのがいけないんだよ!心から、ホシに寄り添うこと。それが俺たちにしか、出来ない役目だ。切り捨てられた、ホシに希望と幸せをもう一度見させる、社会から目を背けられる役割を、俺らは本気で挑む。どんなひとにも、どんな状態でも、幸せを諦めないでほしい。それは、世界中、ひとり残らず、この世界に生まれた全ての命が生まれてきたアカシだ。ホシだって、人間。命終えるときまで、犯した罪、刑と真摯に向き合うためにも、心を救う。それは、加害者にも、被害者にも、世界中の平和と幸せのため、俺たちが出来ること、ちっぽけな第一歩だからな。」

「……ザザザ、薬丸警部……。いいこと言いますね!」

「ありがとな!あゆたん、事件か?」

「はい。捜査本部、立ちました!合流してください!996係も、もう一課と打ち解けましたね!」

「ああ!智恵ちゃん、みんな、心を込めて今日も行くぞ!」

「はーい!」


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「人情警察〜警視庁捜査課996係」 @hakanai_shinyu

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