第35話

「時効…………。ギッリギリセーフだ!」

「やっほーい!」

「やりましたね!」

「世界的に感謝されますよ!世界中で超悪質なハッキング魔ですからね!」

「そして、多々の殺人事件には、直接は手を下してはいなかったが、関与していて、容疑者の名前とアジトを自白した。」

「阪ノ上先生が、自らの最高裁判所長官名義で今回の事件の、解決に至った経緯の論文を書かれるそうだ。世界にこの事件の解決が広まることだろう。」

「ああ。詳細、詳しい話はそこに書くそうだ。早く見たいな。」


ダッダッダッ。

「福多警視総監!阪ノ上先生!マスコミが嗅ぎつけて会見を求めています!重大事件のヤマが解決した、って!」

「行きましょうか、福多警視総監。」

「はいっ!阪ノ上最高裁判所長官!」



思い出したかのように、一本杉はあかりに尋ねた。

「監視カメラ、って、防犯カメラとして、職員がつけた可能性は感じなかったのか?いくら怪しくても、一般的にはそうだろ?」

「ソウダネ。警視庁の職員サンが、ツケタモノダトモ思ッタ。デモ、ソレをハッキングしテイクト、足取りは途切レタケド、ドコカへ繋ガッテイタノ。」

「そうなのか。」

「途中マデノ経過カラ、ソノカメラは警視庁デハ見ラレズニ、アルパソコンで見ラレルヨウニ逆探知サレテイルコトガワカッタ。」

「なるほどなー。」

「途中マデ足取りが掴メタノハ、逆探知のハッキングを行ナッテいたカラ。途切れたノは、ハッキングの仕掛けが完了して、足取りを閉ざすシステムにそのパソコンの準備が整ッテ、ソウ仕掛けラレタカラ。」

「あかり、やるな!お!中継が始まったぞ!」


中継が終わり。

「おかえりなさい!福多さん!阪ノ上先生!」

「中継、観てましたよ!」

「いやあ、衝撃でした!健君の家での殺人事件で、健君が犯人の証拠を沢山作って、自分がいた証拠を全て消し、自分が捕まらないようにした。」

「そうですね。国際指名手配犯は今日で時効。健君に公にされる前に、通報される前にやむなく健君の家族を殺して、自分の証拠を消すことで、国際指名手配犯は時効になり、家族を殺した証拠は健君に被せて、自分は捕まらない、どちらの事件も証拠を消した、ということでしたね。」

「なんやよくわからんけど、健君の家族を殺した自分の証拠は全て消して健君に被せた。そのすきに、国際指名手配犯を時効にさせて、健君の家族を殺した証拠はずっと出ないままで、いつまでも自由にいるつもりやった訳やな。健君を苦しめよって!」

「健君がムショから出るぞ!迎えに行こう!」


一行は、健を迎えに、刑務所前に着いた。

「でも一番驚いたのって、十数年前に行方不明になっていた健君の実の叔父さん、が全てのホシだった、ってことよね。」

「十数年前に失踪したのは捕まらないように、逃げていたからなんですね。」

「叔父さんが小さいときに、健君にハッキングを教えていた、っていうエピソードも驚きでしたね。」

「だから叔父さんのやりそうな手口がわかっていて、疑って辿り着いたんだね。そして、叔父さん譲りのプロハッカーとして、悪事の証拠を取りまくった。」

「まあ、独学の方が暦は長いですけどね。叔父さんと一緒にハッキングに触れていたのは、小さいときですよね。」

「まだかなー、健君。あっ!」 


「湯上健さん、釈放です!」

「釈放、って、冤罪やんな!」

「ありがとうございました!」

「いやあ、よかったよかった!」

「ううぅ……。」

「どうしたー?健君!」


罪が全て晴れて、健はようやく両親と祖父母がいない悲しみに打ちのめされた。

「お父さん…お母さん…じいちゃん…ばあちゃん…僕を置いていかないで!あああぁー!ああぁー!あぁー!」

「気持ちを縛り付けて張り巡らされていた糸がようやく緩まったのね。ずっと受け入れられずに、自分の心に嘘をついていた。」

「仕方がない。こんなに辛い体験を、あそこまで飄々としていられるのは、心を殺すしかなかったんだ。」

「やっとこいつの心~、生き返ったな!」

「そんなに喜んでばかりいられないわね。この子は大切な家族を全て失った。あの現場状況から無残な事件現場も目撃したのよ。」

「そうね。肉親が血塗れになり、息を引き取っていながらも、その近くで耐えて生き伸びていた。」

「秘密をバラすと次は自分を消すと脅され、家族が殺されたのは自分のせいだと事実を突きつけられ、そんな重荷を、話せば消される、相当な重圧でしたでしょうね。」


健はフラッシュバックのように早口で話し出した。

「優しく風呂場へ手招きをした、と言って嘲笑っていた。僕は風呂が嫌いだから長い時間風呂場には行かない。それを聞いて利用したんだろう。風呂場で叔父さんが僕の家族を手袋をつけて家の包丁で殺し、手袋をしたまま包丁についた血を洗い流し、用意した皿と野菜くずと血を流し落とした包丁を洗い場に置き、家に潜んで僕が降りてきて洗い物を素手でしたあとを見計らって、警察に通報する前に僕の息の根を止めると言い残し、自分が来た痕跡を全て消して去っていった。叔父さんは手袋をしていた。洗い物を素手でしたから、ルミノール反応が出る包丁なのに、ついている指紋は僕だけ。」

「健君、大丈夫?私たちはあなたの味方よ。」

「すみません。ありがとうございます。」

健の顔に、我が帰り、また少し笑みが見えた。


新たな疑問を、なんとか落ち着いて笑顔になった健に問いかけた。

「そーいえばさー、なんで健君は否認から黙秘に変えたの?否認やめたら、ほぼ逮捕になるじゃん?」

「あー!叔父さんから身を守るためです!何も話さなければ、刑務所の中なら殺されにくい。割と、安全かと(笑)」

「だいぶ、やな(笑)」


健は叔父さんから殺されないように、あえて、安全な刑務所に、逮捕されにいったのだった。


「最初の、福多総監が健君を、監視官さんと外に出した頃。だったわよね。否認から黙秘、逮捕が決まったの、って。」

「でも、逮捕、って決まっちゃったら、もう犯人扱いで、罪になりますよね?」

「はい、その前に、おにぎりを食べていたあかりちゃんと出会って、話していて、信頼できる子だと確信したんです。そして、あとはあかりちゃんに全てを託しました。僕は監視官さんと交渉して、一人で警視庁内を探検、時間までに戻って来なければ僕が犯人と認めた、と、即逮捕、って。」

「どう、あかりちゃんに託したんだ?事件のこと、話せなかったんだろ?」

「はい。ストーカー犯ガサ入れ終わりの刑事さんとぶつかったときに盗聴器と、無線で繋がったイアホンを手に入れて、西井さんと一本杉さんがあかりちゃんについて話していた内容を聞いて、僕は盗聴器を図書室に仕掛けました。盗聴器に気づいたとき最初はあかりちゃんはアイツだと思って怖がっていましたが、僕だ、と、西井さんが阪ノ上先生名義で、代わりに装って持ってきてくれた刑務所でやり取りした手紙で伝えました。」

「そうかー!」 

「阪ノ上センセイ名義で西井さんが刑務所に持ってきてくれた手紙は、あかりとの手紙だったんです。あかりが叔父さんから疑われないように、阪ノ上先生名義で、西井さんが渡してくれるように、考えてくれていたんだと思います。あかりが面会時間で僕に聞ききれていなかったことに答えて、あと、僕からもピアノではさすがに多すぎて伝えきれてなかったことも、書き足して手紙を渡しました!それで、あかりちゃんに多くの情報が伝わった、ということです。」

「阪ノ上先生に頼まれたのは、あかりちゃんをホシに疑わせないためだったのね。」


健は鮮明に辿って来た道を話した。

「盗聴器と、イアホンと、否認から黙秘に。これってどう関係するんだ?」

「図書室に仕掛けた盗聴器で、西井さんと一本杉さんとあかりちゃんが来て話しているのを聞いていました。はかないしんゆう、宛の手紙、あったの、覚えてますか?」

「あー、覚えてるよ!」

「変わった手紙だったな。」

「なになに?」

「あかり!」

「はかないしんゆう、アレ、私のハッカーのコードネームなノ。モチロン英語ニシテアルケドネ。」

「そういうことかー!」

「モチロン、警視庁ノホワイトハッカーデハ、名前使ってナイヨ。」

「あかりのコードネーム、知ってたのか?」

「手慣れたハッキング界ではそのコードネームを知らないひとはいないよ。」


健とあかりは、顔も、素性も知らない、以前からの親交があったようだ。それがこの事件で、お互いに見える存在となった。


「でもどうして、はかないしんゆう、があかり、ってわかったんだ?」

「前に善意のハッカーで極秘チャットをしたとき、明らかなほどあかりの口調で、はかないしんゆう、が話していて。今回、懸けてみた。そしたら、図書室の盗聴器から、あかりが動揺しているような声が聞こえて。この文章を解読してくれた、そして動いてくれそう、あかりに託して、僕は安全な刑務所に行かせてもらったんです。きっとあかりの腕なら、刑務所から救ってくれる、って。それを聞き届けて、イヤホンは草むらに落とし、刑務所に行きました。」


健の推理によってホシは暴かれる道に進んだ。

「実際、私ノ腕ダケデハ難シカッタ。阪ノ上センセイがイナカッタラ、コノ事件は解決デキナカッタト思ウ。996係のミンナと、一課の仲間の刑事サンたちも、イナカッタラ、ホシを捕マエルコトは無理ダッタ。ミンナがイテクレタカラ!」

「まあ、世紀の大事件解決!良かった、良かった!」

「あっ!ホシの中継やってますよ!」


健の叔父、ホシは逮捕され、連行される中継映像が警視庁に流れていた。


そのホシの逮捕ニュースを警視庁で眺めている、岩田冬彦警視監を見つけたあかり。

「アッ!岩田サン!」



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