第31話
一緒に歩いていく阪ノ上とあかり。阪ノ上が小声で口を開いた。
「その服は最後にいつ着替えたの?」
「こまめに着替えているヨ。盗聴機が来るかもシレナイカラ。」
「さすがだ。その心配は減ったな。」
「デモ、ドコニ誰ガ聞いテルか、見テルかはワカラナイ。」
「外に出よう。盗聴と防犯カメラのハッキングが出来にくい。」
「賛成ダヨ。」
あかりも小声で答えた。
阪ノ上は、盗聴とハッキング、尾行の心配がないのを確認し、話しだした。
「素晴らしい。感動したよ。」
「エッ?」
「全て理解した。どうだ?僕を利用して
みないか?」
「スベテ、ッテ面会室のスベテ?ホントに?」
「君の仲間の刑事たちにも話すと、ヤツに漏れるだろう。なかなか、大き過ぎるヤマに突っ込んでしまったようだ。」
「アッ、ヤッパリ伝わってタンダ!協力、シテクレルノ?『ヤツ』が何者カモサッキノデワカッテルノ?」
「ああ。もちろんだよ。実に面白い。あかりちゃんひとりに、この事件は重すぎる。部外者の僕が後ろから手を回して動くのが最適な案だと思うのだが、どうでしょう?」
「ウン!私モ一人ではデキナイナ、ドウシヨウカナ、ッテ考えテタノ。阪ノ上先生!お願いシマス!」
「よし。決まりだね。作戦会議に移ろう。」
阪ノ上とあかりは、話し合いに入った。
「長くなるとヤツがどこで監視しているかわからないので、手短かに。」
「ハイ!」
「ところで、肝心の、そのー……。ピアノの術はヤツにはバレないの?」
「たけるクンが、知らない、必ず大丈夫、ッテ確信シテタカラ、ヤッタンダト思う。たけるクンはスンゴク用心深いカラ。」
「そうか。あの、『知ラナインダヨネ。』『うん。』はそういうことか。証拠は健君の念入りな調査。」
「ソウダネ。」
「僕は刑事さんたちに、指示を出すときに時々出てくる。あかりちゃんから連絡を入れると、それをハッキングする可能性があり、僕が訪れる。さらにその方が、996係に興味を持っているだけで、ヤツとは関係ないという演出ができると踏んだ。」
「ソレデ上手くいくカナ?」
あかりは不安気。
「僕を甘く見ないこと。裏で、全部知れる権利と、手さばきはヤツを超えているよ。僕は犯罪を犯していないだけで、あのヤツとも対峙戦には持ち込める力はあるつもりだ。」
「ウン!ジャア、シッカリ任せマシタ!阪ノ上センセイ!」
「あかりちゃん、気を抜かないでね。このヤツは、超、大捜査でさえも捕まらず、たくさんのひとを難なく殺している被疑者の参考人である凶悪すぎるやつだ。あかりちゃんも、この事件に足を突っ込むなら、命が危うくなる。それでも捜査する?」
「モチロン。たけるクンの無実の証明。ソシテ逃げキラレナイタメニ。イッパイのヒトを苦シメテ、罪を償ワズニは反対ダヨ。」
「そうだね。じゃあ、決まりだ。僕は時々、あかりちゃんたちメンバーさんそれぞれにヤツにバレず、役割を分けて証拠を根こそぎ取ろうと思う。いいかな?」
「ウン!私も捜査ヲ進めるネ。」
「慎重にね。僕はあかりちゃんの捜査状況を、知る術がないから、フィーリングでいこう。」
「ソコハ大胆ナノネ……。」
阪ノ上は、ふ、と話し出した。
「実は、僕もASD、自閉の仲間なんだ。あと、アルコール依存症と、タバコの依存症も患っていて、自力で治すのに三十四年かかった。大学に通っているときも死んでいるようだったし、鬱状態でもあった。今となっては、ASD、自閉も自力で緩和させて、お偉いさんをやっているけど、順風満帆なんかじゃなかった。だから、あかりちゃんの気持ちも、少しは理解できるスタンスでいるよ。」
「阪ノ上センセイも、ソウダッタンダ……。」
「長くなってきた。そろそろ木内課長の元に戻ろう。どこを監視しているかわからないヤツに怪しまれないように。」
あかりは安心し、心を決めた。
「ハイ!」
木内は幾分か経ったが、あかりたちは未だ戻らない。木陰で歩きながら待った。そしてしばらく経つと。
「智恵サーン!」
「おかえり!あかりちゃん!何話してたの?」
「阪ノ上センセイの、アリガタイお話!」
「こらこら!あかりちゃんに興味があって、ちょっとこってり話し込んでしまいました。今までのこととかね。」
「へー!阪ノ上センセイッテ、神様ミタイダネー!」
「賢くて、優しい、すごいおひとでしょう?」
「いやいや、ありがとうございます。では、僕はこれで。また警視庁も覗きに行きますね。」
「ありがとうございました!」
捜査を阪ノ上と協力することになったあかり。だが、これは表向きには内密。仲間に話すだけでもホシは勘付くと予測。
捕まえるための大きな捜査をするとホシが暴走し、住民たちに事件で危害が加えられたり、遠いところに逃げられる可能性を察知して捜査をするため、その『ヤツ』が犯人だということは、阪ノ上、あかり、健しか知らない。
そして少し経ち、阪ノ上は警視庁に足を運び、メンバーが集まる部署を見つけ、声をかけた。
「996係の皆さん、一課の方々、こんにちは。お元気ですか?」
「あっ!阪ノ上先生!何かありましたか?」
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