第26話
「僕は、やっていません。否認します。」
「うん!知ってるよ。」
「僕は、やっていません。否認します。」
「さっきも聞いた〜。わかってるって。ねぇ、わたしの話、聞いてくれる?」
「僕は、やっていません。否認します。」
「はいはい。何回言うの〜。事件のことはなし!私は悪いことは言わない。約束!聞くだけでいいから。聞きなさい。刑事さんたちに、いっぱい質問されたのかな?辛かったね。そうね、私の子供もあなたと仲間。障害がね。だからあなたが、上手に生きられない気持ちも、少しはわかる。警視庁にも、仲間の障害を持った子が、いるわ。面白い変な子だけど、その子も昔、逮捕されていたのよ。また逢えるといいわね。もう、あなたがしていない、って気持ちはみんなちゃんとわかったよ。君がまた刑事さんに問い詰められたときは、「996係」を呼んで、って言うといいよ。この、あなたの取り調べをしていた一課、のひとたちとも、刑事仲間で上手くやりとりできるわ。あなたには強くなってほしい。一課のひとたちも、良いひといっぱいいるのよ!いつかわかるわ。」
「お、お名前は?」
「初めて聞けたー!あなたの他の言葉!嬉しいよ!遅れてごめんなさい。私の名前は、西井、といいます。996係に所属しています。」
「996係、って当て字ですね!コ、コ、ロ、係。でしょ?」
「さすが!天才ね!なかなかわかるひとはいないわ!お喋りなところも、可愛らしい!」
「僕、上手くコミュニケーションが出来ないんです。ずっと引きこもって、自宅でハッカーをやっています。」
「楽しい?」
「仕方なく、です。でも、僕は、殺していない!」
「わかったって!しつこいよ!安心しなさい。あなたが否認している、それはもう決まったこと。あとは捜査が進むのを待ちなさい。それが罪になりかけても、私たちは最後まであなたのことを諦めない。裁判所で全てが決まる。それまでに、私たちは、めっちゃくっちゃ必死で捜査するから。その結果は、まだわからない。あなたが留置所にいる時点で、あなたが不利な状況にあるのはわかっているわね?」
「はい。どうか、僕が無実、冤罪であることを、証明して下さい!お願いします!」
「努力をします。約束をしたら、あなたが悲しむのが私は嫌だから、約束はしない。あなたがするべきことは、休んで、生活をして、ちゃんと生きること。あとは、任せなさい。あなたが楽〜に過ごしても、苦しんで過ごしても、結果は一緒よ。じゃあ、どっちがいい?じゃあ、私は行くわね。あなたの捜査に!失礼しました〜。」
「西井さん!さすがっす!」
「某CMかーい!」
「それ何ー?」
「えーっ!知らんの!有名やで!」
「関西でやってるCMですよ!」
「よく知ってるなー!尾野さん!」
「なんかあたし傷つくー。」
「西井の健闘はすごいぞ!落としのプロだったとは。」
「あの感じのタイプ得意なだけー。」
「でも、西井さんの発言って、ひとを動かす底力がありますよね。いつも思います。」
「あー、なるほど。わかる気がするー。」
一本杉は会釈をした。
「ありがとうな、西井さん!」
西井は少し照れたか?切り替えた。
「さて、これからどうする?」
警視庁996係部署、まだ朝。
「調べるのは、一課でさんざん調べ上げた。そして証拠が集まり、身柄を拘束。だが、強い否認と、決定的証拠を突きつけることは出来ず、留置所止まり。普通なら、もう逮捕、起訴、裁判、ムショ、となるところだが、この決まった警察のやり方に、俺自身も飽き飽きしてきてな!996係のおかげで!」
「他に調べるとしたら?」
「そうなんだ。ないんだよ。もう調べるところは調べ尽くした。心の捜査、をするにしても、それでは物的証拠、状況証拠を覆すことには至らない。」
「でも、このまま終わらしたくない、私は。」
「証拠が出揃っているのに、認めないのには何か訳があるのだろう。どれだけ否認してもその発言の力はミジンコなのはあいつもわかっていると思う。なのにどうして?か、だ。あそこまで否認するのは何かを抱えているんじゃないか、とあいつの心の憶測だ。そうだな。正当な捜査から外れて、穴場を掘ってみるか?」
「いいやん!」
「一本杉警部は、どう思う?」
「そうだな、智恵ちゃん。俺もちょっとおかしいとは思う。乗るぞ!薬丸!俺らに配置をくれ。」
ガチャっ。
「遅れましたー!」
「福多総監!」
「ほら、テレビついてて、見ませんでした?これです!今流れてるの!っていうかウチの話なんですけど。それの取材が私にも来てしまって。」
薬丸は答える。
「ああ。十数年前から始まった、未解決事件。国際指名手配犯。不法ハッキングならまだしも、数多くの殺人事件の参考人。そして世界中でハッキングによる悪事を犯し潜伏し続け、世界的に捜査されるも、未解決。それがあとわずかで時効。って話だろ?こればっかり。そりゃ警視総監に取材したいところだろうな。あっ!テレビ!阪ノ上先生じゃないか!ほら!」
小林は知らずに
「誰や?あの素人みたいな喋り方、でも優しー答えてるひとか?先生?」
木内がその素性を教える。
「阪ノ上悌司先生。経歴は、有名国立大学卒業、元刑務専門弁護士。そこから天才の頭脳と柔らかい性格で、たくさんの学会発表もこなす、同業者の中で超有名敏腕スターとなったの。思考もやり方も、神を拝む並の存在!そして今、あのひと、最高裁判所長官なのよ!実は!」
小林は驚く、
「えーっ!一番すごいひとやん!法律界のお偉いさん?」
一本杉は
「そうだな!そして、そのホシは悪に悪を重ねた犯行の数々。一課としては、俺も悔しくて仕方がない。だが、あとわずかな間に確保出来るなら、今までさんざん汗水流した捜査の苦労は存在しない。今現在、起きている事件に向き合うのが、適切な判断だと思う。」
「あと、実は、さっき留置所から一時的に、湯上健君を外に出す許可をお願いしてきたんです。それが通って。それもあって、遅れちゃいました。」
「そりゃあ、警視総監だからな!頑張ったもんな。ミッチー!」
「やめてくださいって!元同僚じゃないですか!それでですね、今警視庁の敷地内に監視官付きで出ています。一応、約束として、『逃げれば犯人とみなし即逮捕。』と伝えています。それくらい言わないと、逃げちゃいそうだと思って。全然思ってはいないですけどね。」
「いい判断だと思う、ミッチー。あいつも息が詰まるだろう。きっと深く、何かを抱えているんだ、と俺は感じる。」
「あかりちゃんは?」
「おにぎりの時間があるそうで。終わったらすぐに行く!と。いつものルーティンらしいですね!」
「マイペースなんか、律儀なんか、どっちやねん!」
「じゃあ、持ち場を配置する!今回は智恵ちゃんの希望だった、一課と996係のバリアフリー。混ぜてバディを組む!たまにかぶっとるところは許してちょ。発表する!」
「はい!」
「まずー、ぽんくんと西井!ーって思ったけど、一課と996係一人ずつで、意見が合ったやつとバディにしよう。いつまでも方向性が決まらない気がする。」
「そうですね。確かに。」
薬丸は、
「どこに何をしに行くかはそれぞれ相談し、自分らで決めろ!お前らは一課も含め、心のプロとして挑め!そして、定期連絡を智恵ちゃんに入れろ。必要なものと判断したら、智恵ちゃんは俺らに連絡をくれ。ぽんくんは、一課全体の業務もあるから、定期連絡は智恵ちゃんに任せる。」
一本杉、
「いいぞ。」
「あかりにはLINEで事情を送る。よし!これで、OK?智恵ちゃん?」
「OKよ!湯上健君。あの子が逮捕、起訴、確定に至るのは、時間の問題でしょう。それまでに!みんなにも徹底的に、頑張ってもらいますよ!いいですね!」
「はっ!」
警視庁敷地内の草道で、おにぎりを食べ終えたあかり。そこに近づく影が。
「ゴチソウサマデシタ!」
「き、君、ここで何してるの?」
「オニギリ食べタノ。いつもココで。ルーティンなの。塩オニギリダヨ!」
「塩かー!いいね!僕はツナマヨが好き!」
「私もツナマヨが大好き!なんダケド、ツナ缶の開け方がワカラナくテ。塩ノ袋ヲ、買ってキテ、破いテ、ドレクライ入れるノカ、で精一杯。今、ヤット塩オニギリ。今日ナンダカ、カライネ。」
「君、バカなの?あー、でも僕も同じようなものだけどね。」
「アナタ、名前ハ?」
「僕?湯上健。僕、時間がないんだ。だから、君とも少ししか話せない。コミュニケーションも苦手で。いいかい?」
「イイヨ!少しシカ、ッテ忙しいノ?」
「いいや。そういう訳じゃないけど。僕の知っていることも、警察に言うと危ない。」
「ソレ、なんとなくワカル。警察に言うと、全部筒抜けだもんね。報告義務がアルし、ソレニ真犯人ニ動キがバレル。」
「君、詳しいね!そうだ、君の名前は?」
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