第25話
「ザザザ……ザザザ、こちら警視庁捜査一課、水野。捜査課996係、応答せよ、聞こえているのか……。ってあれ?」
警視庁996係薬丸警部への水野の無線は、996係ではなく、警視庁一課部署前で鳴っていた。水野は声をかけるのをためらった。なぜなら。
「希少な女性刑事!一課で最後の、女性刑事だ!」
「全員知り合いなんですか。って数えてたんですね……。セクハラのすぐ手前ですよ。」
「中途で刑事になった子たちなんだ。」
「詳しいですねー。本当にー。」
「いたいた!おう!警察学校の同期で、仲良し組。中野、福岡、天野だ!」
西井も親しい。
「天野さんと、福岡さんは、産休明けなのよね。」
「はい。私が先で。」
「私はその後、帰ってきました!でもまた赤ちゃんお腹の中に。もうすぐお休みです。」
「私、コノ前話してもらって、ミンナと仲良くナッタノ!」
中野は薬丸に詰め寄る!
「なぁなぁ、私は産休じゃないのに、なんで呼んでくれなかったの?」
「そろった方が、パワーアップするじゃないか!超仲良いからな!」
「薬丸警部、中野さんに口負けちゃうからねー。」
「うるさい!誤解だ!」
図星のようだ。
「歳は、3人、一つ違いずつだったよな。」
中野が口を挟む。
「そこはシークレットで!女心のプロが言うことじゃないし!」
「もう薬丸警部の本性バレバレですね……。」
三宅も嬉しそうに、
「まあ、さらに楽しくなりそうですね!ひひっ!」
いつもテンション高く、楽しそうな三宅だ。
「薬丸警部!ずーっと無線、鳴ってますけどいいんですか?」
「あー、も、もしかしてあゆたん?ちょっち失礼。」
壁の角に寄り、影に隠れる薬丸。
ピッ!
「ゴホン!や〜あ、あゆたん!こちら薬丸さんだよ!今?捜査課996係部署ナウ。すぐ行くよ!もう仕事が忙しくって、忙しくって〜、刑事って大変〜。今度は何の事件〜」
ドカッ。
水野は、後ろから薬丸を回し蹴りした。
「よ〜くそんな堂々と嘘がつけますね〜!尊敬します!側でずーっと見てましたけど?」
「僕のことを!」
「バカですか!」
「僕じゃないの?」
「一課で最後の女性刑事に手を出していたところからですよ!」
「あ〜あ、めんごめんご!今は仲間に紹介をしてたの!手を出したのは、もっと前!テヘペロっ!僕、嘘がつけない正直者だから!」
「そこが警部のいいところですね。ってさんざん嘘つきまくっていたのはどなた?」
薬丸は、声を低くして。
「あゆたん、事件だろ?」
「話を逸らしましたね。私は構いませんが、お家でお嫁さん泣いてますよ。はい、事件です。強行凶悪犯、両親と、同居の祖父母を殺人の疑い、23歳男性。アスペルガー症候群を持ち、心を開きにくい様子。障害や心の病気に理解がある996係にぜひ捜査に加わって頂きたい。」
「そうじゃなくても捜査行ってるよ!あゆたん!コロシかー。任せてー!」
「乗るでー!」
「おー!」
「俺のな、個人的な目標はな、」
「世界の可愛い娘に囲まれて、オヤツを食べながら、タバコをふかすことですよね(笑)」
「可愛いかったら日本で十分!言語の問題があってー、いや、世界!いいなあー!って違う!うるさいっ!聞け!俺の個人的な目標は、障害があるから、心の病気があるから、犯罪を犯す怖いひとたち、という考えをこの世からなくすことだ。」
「おー。大きく出ましたね。でも、実際原因はそう、とも言えますよね?」
「刑務所の中にいる犯罪者の割合を、ほとんどが精神障害者、発達障害者、知的障害者、で締められているというデータがありますしね。」
「そうだな、原因のひとつに、障害や心の病気、はある。でもそれは、その原因を元にして、周りの理解に恵まれずに辿った結果が、犯罪、という行為なんだ。普通に生まれても、心を病んでしまうこともある。障害を持って生まれればさらに理解へのハードルは高い。普通でも、環境に恵まれなかったり、犯罪者にならせているのは、そのひとの周囲とも言える。障害特性にもよるが、個人の責任だけじゃない。絡みあって犯罪者になる。みんなそうなんだ。だから、怖い、遠ざけたい。その気持ちがひとを傷つけているんだ。」
「なるほどね。よくわかる。周りの理解が得られない、のは、そのひと個人の問題ではない。お互い、周り、世界が寄り添って、初めてわかりあえる、のよ。」
「よく言うやん?やればできる子、って。やらんだけの子と、努力しているのにさせ続けられる子、って、違うやん?何が言いたいか、って、努力の問題で済む話と済まん話があるっちゅうことや!それで苦しむ子もいるんや。」
「怖くないよ、大丈夫だよ、一緒に生きていこうね。それを、この世界の普通と呼ばれるひと、おかしいと呼ばれるひと、困っているひと、困っていないひとにも、みんなに俺は語りかけたい。」
「そうだね。」
「それと、最近アスペルガーがあると犯罪を起こす、とか言われてるよな。そんなの信じて、どれだけのひとが苦しんでいるか。」
「本当ですね。犯罪を犯したひとが、アスペルガーだった。それだけです。他のひとが犯罪を犯すケースだってたくさんあります。アスペルガー症候群の診断を受けているひとの割合と、割って比較しても。クローズアップされて生きにくくなるひとが多く、いたたまれません。」
「それに、診断があるなしに関わらず、特性、というものはグラデーションでみんな持っているものよ。濃いか薄いかの違い。」
「こいつが本当にやった、のだとしても、俺はこいつと向き合うことで、障害どうのこうのじゃなく、こいつの心をわかりたい。」
「そうね。全面的に合同捜査に乗り込みましょうか。この際、一課と996係を、混ぜてみたいわ!壁をなくして、刑事概念のバリアフリーに。私の希望。どうかしら?」
「いいですね!一課長に言っておきます。そうそう。福多警視総監と、あかりちゃんも、捜査に加わりたいそうです。一課の、996係と親しい刑事たちとタッグを組んで、やりますか!」
「私たちも加わります!」
「よしっ!取り調べ室へ向かえ!」
取り調べ室近辺に着いた一行。一課長の一本杉警部と落ちあった朝。
「おう!薬丸ー!ありがとな!あやつの取り調べさー。もう、『僕は、やっていません。否認します。僕は、やっていません。否認します。僕は、やっていません。否認します。』の一点張りでなー。俺ら、誰も無理だ、お手上げ。怖いのが良くないのかなー。刑事って顔怖いやつ多いしなー。」
「俺、絶対ダメじゃん!もっと無理じゃん!」
「水野さんとか、行きました?」
「はい、私もダメでした。声が張ってるからでしょうか?」
「兒玉、行け!優しいパンダ顔、ボソボソした柔らかい声!」
「僕!ぼ、僕には強敵へのテクニックがない。聞き出せないー。無理ー!」
「あたしもこれやしなー!ははは!」
「西井さん、どうっすか?」
「いいじゃないですか!」
「じゃあ、行きます!ダメなら帰ってきます。やるだけやってきます!」
取り調べ室に入室する西井。
「失礼します〜。」
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