第23話

病院にて、朝のこと。

 病院に駆け込む一部メンバー。

薬丸が問う。

「大事なこと、ってなんだ?あかり。今来れるやつだけ来たが。」

 あかり、そのモノを見せる

小林は、

「これ、って……。」 

西井が気づいた。

「村松さんの、指輪のサンダル?」 

薬丸が身を乗り出す。

「あかり、これ、どうした?」 

「兒玉サンの救命処置をしたトキに、ズボンから出て来たんダッテ。昨日、夜ニモラッテ、ミンナはセイカツがアルから朝イチバンでLINEシタ。兒玉サンは、コレを取りに行くタメに、海に入って、雨ト波デ溺れたミタイ。」

 薬丸、舌を巻いて

「ほーんとコイツー!バカなことしやがってー!相談しろっていうのに!」 

小林は笑い転げる。

「熱心なんか、やる気ないんか、わからんやっちゃなー!」 

尾野はふふっ、と吹き出す。

「心が出来ているひとなのでしょうね。普段は仕事外の仕事はしないひとなのに。」

西井も。

「兒玉っちは、いいやつよ、ほんとに!早く意識が戻ってくれるように願いましょう。」

小名呂。

「兒玉さんは、面白いです!」

「はっあ〜い!」

「おう!中口!兒玉の件、サンダル取りに行ったんだとよ!」

「バカじゃない?私には出来ないわ!これは最高の褒め言葉よ!有り難く受け取りなさい!」

 三宅、福多、早川、中村が来る。

「聞こえてましたよー!サンダル取りに行ったってー!ひひっ!」 

福多は、 

「状態の方は大丈夫なのかい?」 

早川は真剣に

「心配ですね。」

中村は、

「一課長は、一課の別の事件が酷くて来られないそうです。あと、脇谷さん?」 

薬丸は笑う。

「寝坊だ。あいつ寝坊多いし!」

 兒玉、薄っすら目が開く

あかりは喜び「エー!(兒玉、の手話)。」

全員、口々に黄色い声が飛ぶ。

「兒玉さん?兒玉さん!よかったー!」

「ア、アカリー……。そんな泣きそうな顔で……確かに特別なときだけどー、こっちが泣きそうだよー。ひーん。ひんひん。」

「悲しカッタヨ!今は嬉し泣きダヨー!兒玉サン!」

西井は些細な変化を見逃さない。

「あっ、戻った。普段バージョン、兒玉サンに。」

「兒玉もこりゃ、いい目覚めだな!目もぱっちり、大復活だな!」

「僕も、こんな起き方すると思ってなかったよ。」

中口がスマホを両手で若者打ち。

「脇谷君に電話。何番だったかしら〜?」

 プルルルル。

「ギーョイッ!」

中口はハッ、とする。

「……、あっすみません間違えましたー。」

 ピッ。

「私、どこかけたのよ〜。この前、間違って脇谷君の電番消しちゃったのよねー。今度は間違えずに〜。」

 プルルルル。

「ギーョイッ!」

中口は一瞬止まったが。 

「……、脇谷君?もう!驚かさないでよ!早く来て!兒玉君、復活よ!」

脇谷は待ってましたとばかりに!

「了解ーっす!」

 一課と思われる刑事が、颯爽とこちらへ、走ってきた。

「村松登美子さんのご主人が、この病院で亡くなられたそうです。村松さんに伝えましょうか。村松登美子さんも、一旦釈放する、との判断に。」

「ああ。行ってきてくれ。」


 病院、待合い室の朝。

「しゅじーん、しんだぁ!しゅじーん、しんだぁ!あーんあーんあーん!」

「本気で泣いてるやん……。」

「こりゃ、殺すつもりどうのこうの、より、死んでほしくなかった方が強いんじゃないか?」

「そうっすねー!」

駆け足で村松登美子と薬丸の元へ、脇谷。

「あっ!脇谷君!来た〜?も〜、マジで奇行よ〜!奇行!」

「中口さん、『すみません、間違えましたー。』って!」

「言ったな!言った。脇谷君、ホントに奇行!ホシと同じレベルよ〜。どこかの変なおじさんかと思ったわ〜。 」

 兒玉、難しい顔。

薬丸は気づき、

「兒玉、どうした?」

兒玉の推理が幕を開けた。

「わかったんだ。村松登美子は殺そうとしたわけじゃない、って。人口呼吸器を外して会話するやり方を、看護師がするのを見て村松登美子は学んでいた。重五郎が何か言っているのを見て、人口呼吸器を外してしまった登美子。重五郎は、窓の外を指差して、海に流れてゆくサンダルを教える。人口呼吸器を外すのは看護師でないと危険。それを重五郎と2人のときにやり、さっきの散歩でサンダルを置き忘れ、海に流れてゆくのを確認した村松登美子。登美子は視力が良い。人工呼吸器を外したことを忘れ、海に駆け出し、砂浜にあったサンダルが海に流れ、海に入ってゆき、深いところまで無我夢中で行き、海で溺れかけている命の危機のところを996係らに救われる。そしてサンダルを追いかけて、さらに深いところへ996係らの手を振りほどき向かいながら、「いくー!いくー!」と言った。それが、検事に人口呼吸器を外し殺人の後、海に自殺しに入り、止めた者を振り払い「逝くー!逝くー!」と言った、と取られた。誰も疑わない状況証拠もあり、そのまま裁判に進んでいた。996係らの心の捜査により、新事実が判明。海に流されたサンダルを視界で見て追って、取りに行こうと、そのために振りほどき、「行くー!行くー!」が正しかったんだ。自分が人工呼吸器を外したことも、人工呼吸器の存在すらも、記憶にないんじゃないだろうか。」 

薬丸は

「そうだな。確かに筋が通る。兒玉、お前、すげぇなぁ。」 

脇谷も、

「兒玉君は賢いっすよ!この答え、一本杉警部に伝えましょう!」



 警視庁一課で昼のこと。一本杉警部に、そう告げた。

「そうかー!兒玉君が!業務に追われ見舞いにも行けず、悪かった。そして、その話に疑いは全くない。裁判でも、そのままの結果となるだろうな。村松さんも、最後まで幸せに生きて欲しい。」

薬丸も、

「その通りだな。」

木内はみんなに

「ねぇ!兒玉さんも回復したって病院から聞いたの。最後にみんなで、海に行かない?一本杉警部も!」 

 全員口々、個性あふれる声が飛び交う。

「行こうー!」 

一本杉も、

「よしっ!行くか!」 

薬丸も、

「イェーイ!」 

木内!

「車、適当に分かれて!」 


 車1での、昼下がりにて。

一本杉はハンドルを握り語る。

「たぶん、人口呼吸器を外したのは、その後もずーっと記憶にないまま。重五郎は、サンダルを無くして泣く登美子を想い、登美子は重五郎からのプレゼントの結婚指輪を大切にする気持ちで、お互いが想い合い、この事件が起こってしまった。」

尾野がそっと呟く。

「思いやりの事故、ですか。」

 車2でのこと。

あかりが言い出す。

「昔、私が出会ったひとデ、あと死ぬダケの老人ヨリ、コレカラ未来へ成長する子どもたちを育てる仕事にやりがいがアル、だから保育士にナッタ、って言ったひとガいたノ。」

薬丸は、

「へー。わからないこともないな。」

「でも私ハ、今マデ頑張っテ来たおじいちゃんおばあちゃん二、最後まで幸せで旅立ッてホシイ、って思うノ。だから、介護は、スゴクいい仕事ダナァって思うヨ。」

小林も、

「それ、わかる。自分が老人になって、最後まで幸せであれる、って、あたしも願うもんやし。」


 間が空いて。

薬丸があかりに耳打ちをした。

「今日、下痢なんだよ〜。スーパーの売れ残りの安い巻き寿司食ったら、下痢がたくあんの匂い……。内緒だぞ!」

あかりは!

「ワカッタ!」

薬丸は内緒と言いながら歌好きが止まらず。

「下痢ピ〜下痢ピ〜♪下痢ピ〜下痢ピ〜♪」 (レットイットビーのオリジナル替え歌)

「薬丸サン!それ私のママも歌ってたヨ!」

「お前のママ、センスあるな!」

小林がツッコむ。

「それ、センスなん?」

 あかりは、脇谷の方を向いて

「昔、私と何回か出会ったの覚えテル?脇谷サン。」

脇谷は


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