第22話
警視庁捜査課996係部署、朝に全員揃ったメンバーたち。
薬丸は勢いよく!
「話をまとめるぞ!」
木内から。
「あの日、私たちが行く数時間前は海の波が高かったらしいわね。私たちが散骨しているときには波も天気も穏やかそのものだったけど。その後登美子さんを追って海に入るときはちょっと荒れてたわよね。」
薬丸が。
「海は天気が変わりやすいからなー。山ほどではないらしいが。」
尾野は
「そこも自然の面白さですね!」
小名呂が
「尾野さん、ポジティブシンキング!」
西井に変わり。
「デイサービスの支援員は、一回、覚えたことは以外と残っています。村松さんの場合は認知症が進行していますが、一度上手く頭に理解が入ったことは、記憶に比較的残りやすい傾向が見てとれます。すぐ忘れることは多いですが、昔のことも、よく覚えてらっしゃいます。耳も遠く、言葉は出にくく、単語中心の会話ですが、ふとしたときに、感じます。デイでも、そんなことは村松さんとよくあるので、とのこと。」
尾野も。
「村松担当の介護相談員は、検査では視力が良かったです。見覚えのある私を遠目で相談所内で見つけ、村松さんがいつも遠回りする場所を、私が椅子をどけて近道で横着していると、それを覚え、村松さんは堂々と近道するようになってしまって(笑)村松さんは、物忘れは多かったですが、良い意味で、要領がいいというか、吸収する力は早いひとでしたね、と。」
脇谷、
「そうっすねー!」
兒玉が、出てきた!
「結婚指輪を置き忘れて失くさない、重五郎のサンダルの工夫。昔の記憶がよく残っている。結婚指輪、結婚と主人を大事に思う。」
福多は。
「すぐ忘れる認知症特性で、指輪を置き忘れる、泣く、忘れてしまう。」
尾野が加える。
「一回覚えたことが残る、サンダルに一緒に指輪を付ける、印象付ける。そう聞いて、重五郎が考え、サンダルに指輪を付けた。重五郎が元気なころ、登美子と支援員とサンダルを履いて海に散歩に行き、登美子はサンダルを指差して微笑み、履くときも嬉しそうにしていたという。……その後、重五郎は身体が悪くなる。」
薬丸は。
「喋っていたゆえの事件の可能性。まとめはしたが、いまひとつ手がかりがないなー。」
一本杉に。
「一旦、解散しよう。同じ話の、堂々巡りになる。」
木内!
「そうね。これでも十分よ。」
警視庁捜査課996係部署、曇りの朝のこと。ひとり996係部署に残った兒玉。
「何かが気になる。」
兒玉は立ち上がり、部屋を出る。
車で海に着き、昼の曇り空。
海辺にいる兒玉。海を見つめている。
兒玉は巡る思考を、自問自答する。
「海に入る必要は、なぜあったんだ?一課では、無理心中のように言われてるけど、俺はそう思わない。歩いているとき、いつも指輪のサンダルを履いていた。あの時、波が荒かったらしい。もしかして、もしかしたらサンダルが流されて追いかけた?いや、待てよ。じゃあ、重五郎の人工呼吸器を外したのは誰だ?そういや、トミコの家の窓は、大きかったと聞いている……。うーん、わからない。」
兒玉は目を細める。
光る物が、少し遠く海に漂っている。
「あれ、トミコのサンダルか?そういや今、引き潮だ。いけるか、あの距離。」
兒玉、羽織りを脱ぎ海に入って行く。
盛り上がる音楽を背負うかのように。
泳ぐ兒玉。
「半分来たぞー。」
雨が降りかけた。雨が次第に強くなる。
波が荒くなってきた。
粘る兒玉。
「もうちょっと、もうちょっと……。」
兒玉、波に飲まれる。
「引き返そう。無理だ。もう無理。」
兒玉、溺れかける。
「た、助けて……。」
兒玉、溺れる……。
病院にて、夕方。外は雨。
メンバー全員が集まった。
兒玉のベッドの傍に医師とメンバーたち。
薬丸は驚きを超え、医師に静かに尋ねる。「こ、これはどういう状況で?」
木内も。
「兒玉さんは大丈夫なんですか?」
「水を吸う羽織りの上着を脱いで浜辺に置いて行ったようで、後からそこを通った方がそれを見て不審に思い、海の深く、遠いところで溺れているこの方を見つけて通報してくださいました。病状についてはなんとも言えない状態です。このまま意識が戻らない可能性もあります。ですが同時に、命に別状がない部分もあります。この方が持っている回復力次第、といったところでしょうか。」
あかりは涙ぐむ。
「兒玉サン……。」
脇谷が肩を抱える。
「あかり、泣くな。」
「私、兒玉サンが起きるまでずっとココにイルヨ。」
西井は諭す。
「帰ろう、あかりちゃん。」
「大丈夫、絶対大丈夫ダカラ!」
木内は西井に。
「西井さん、そうさせてあげましょう。」
「はい。ちゃんとご飯食べるのよ。」
「ワカッタ。」
病院、昏睡状態の兒玉が眠るそばにあかりは見つめる。
看護師がノックして入ってくる。
「失礼します。」
あかりが気づく
「ハイ。」
「すみません。救命処置をしたときにこの方のズボンの中から出てきたのですが、これはこちらで処分させて頂いてもよろしいものでしょうか?」
あかりは固まり、看護師に目を開く。
「コレ、大事ナノ!今返してクダサイ!」
看護師、戸惑い驚きながら
「はい!わかりました。」
看護師、急ぎ足でそそくさと部屋を出る。
「失礼しましたー。」
あかり、兒玉を見つめて泣く
「バカ、バカ、アリガトウ……。」
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