第21話

 昼の日差しを浴び、村松登美子が通っていたデイサービスの前。カチャ、っと建物内に入る。担当者と思われる人物に出会い、軽く会釈した。

「先程お電話させてもらった警視庁の福多ですー!よろしくお願いします。」 

「警視庁の西井です。」 

「小名呂といいます。」

「はいっ、兒玉ですっ。」

「こちらこそよろしくお願いします。村松登美子さんのことですね。まあ、上がってください。こちらへどうぞ。」 

 施設内の、個室へ入った。

「すみません、失礼します。」

「では、始めましょうか。」

「村松さんの、普段のご様子とかって、いかがでしたか?」 

担当者は、にこやかである。 

「耳も遠く、言葉は出にくく、単語中心の会話で、意思を伝えるのが難しい場面が多くありました。ご飯と、コップに、執着がありましたね(笑)」

「何か生活上、見守っていらっしゃって、気になっていた部分とかはありましたか?」 

「すぐ忘れることは多いですが、昔のことは、よく覚えてらっしゃいます。ご主人を大事にされていて、ですが認知症がかなり進み、大切な結婚指輪を失くしてしまうことが多々あったそうです。」 

 西井、福多、小名呂は小声で。

「やっぱり、事件の後に認知症が進んだ説は。」 

「無し、ってことですね。」 

担当者は続けた。

「そして失くすたびに泣いている登美子さんを見て、いつもはいている草履のようなサンダルに、結婚指輪をつけてあげたそうです。それを履いて、ご主人と支援者さんと登美子さんで海に散歩に行くのが、楽しそうでした(笑)サンダルを指差して嬉しい顔で意思表示をしていて、微笑ましかった、とその支援者から聞いています。」

兒玉が珍しく自ら口を開く。

「村松さんは、どんなお方でしたか?」

「可愛らしいひとでしたね。特徴でいうと、一回、覚えたことは以外と残っています。村松さんの場合は認知症が進行していますが、一度上手く頭に理解が入ったことは、記憶に比較的残りやすい傾向が、見てとれます。デイサービスでも、ふとした時に、私はそう感じました。」 

「そうですか(笑)」

「こんなものでよかったんですかね?」 

「とても参考になりました!」

「ご協力、ありがとうございました!」  

カチャっ。

小名呂は、

「こういうとき、兒玉さんって、シャキッと、ちゃんとしたひとになるんですよねー!腰は低くて礼儀正しい好青年!」

「荒波立てたくないし〜。面倒くさいから〜。」

西井、

「あっ!元の兒玉っちに戻った!(笑)」

福多、

「海だけに、荒波?(笑)」

兒玉は?

「残念!考えてなかった(笑)」


 同じ頃、介護相談事業所の外で。

 きょろきょろするあかり。

 スマホの地図を見て発見した小林。

「ここやで!」 

「行きますか。」 

「うーっす!」 

 尾野はインターホンを鳴らす。   


介護相談事業所内、お茶をいただく。

「お気遣いなくー!」 

「失礼しますー!」

小林と脇谷はこの言葉が事業所内最後となった。のちは、尾野と相談員との会話である。あかりは、落ち着かず、手足を動かしている。

相談員が問いかける。

「村松登美子さんについてですか?」 

「はい。お聞きしてもよろしいでしょうか。」 

「はい!いいですよ。」 

「村松さんの相談員をしておられて、何か僕らが知っておいた方がいい情報、ってありますか?」

「基本的な情報は、検査では視力が良く、聴力は低かったです。」 

「そうですか。ご主人の訪問看護や、デイサービスとも、連携がある、と調べたと聞いていたのですが、具体的に、どういったことを共有していたのですか?」 

「ご主人のお身体の状態が悪くなり、訪問看護師が医療ケアをしているのをじーっと見て、心配そうにしていたそうです。デイサービスとの共有は、一緒に海に散歩に行くことが出来なくなって、支援者なしでひとりで海に散歩に出かけることが多く見られました。それを危険なのでやめさせる対策を共有していたところに、事件があって……。もっと早くに動いていれば、早くにケアを介入していれば、と悔んでなりません。」

「そうでしたか。人間は何があるかわからないので、悪いかなんて決める必要はありませんよ。」 

「私が相談に乗ってもらっていますね……(笑)」 

「そうですか(笑)最後に、気持ちいいエピソードなんか、ありますか?」

「そうそう。見覚えのある私を遠目で相談所内で見つけ、利用者さんや村松さんがいつも遠回りする場所を、私が椅子をどけて近道で横着していると、それを覚え、村松さんは堂々と近道するようになってしまって(笑)村松さんは、物忘れは多かったですが、良い意味で、要領がいいというか、吸収する力は早いひとでしたね。」 

小林と脇谷とあかりは歩きながら。

「あたしら、何もせんかったな。」

「尾野さんが仕切ってくれるから、持て余しちゃったっす。」

「キンチョウしたー!」

相談事業所班、玄関先でお礼をする。

「ありがとうございました!」


 また同じ頃の薬丸はというと、一課の散骨メンバーに招集をかけた。警視庁捜査課996係部署。

資料を抱えて来た薬丸。

「資料、持って来たぞー!」

「またタバコ行ってたでしょー!呼ばれた私たちの方が着くの早いじゃないですかー!」

中村は打ち解けてきた。

「問題点、不可思議な点を、洗ってみましょうか。」

と、クールな早川。

「そうしよう。」

一本杉は帆を立てる。 


   フェードがかかった。


 警視庁捜査課996係部署の夕方。

小林は勢いよく駆け込む。

「ただいまー!」 


兒玉は毎度の。

「疲れたー!」 


木内、微笑み、

「帰りましたー。」


薬丸は声を張る。

「こっちも揃ったぞ!」


木内がまとめる。 

「報告会よ!」 


 警視庁捜査課996係部署の夜。報告が全部終わりくたばるメンバーたち。


木内は声を上げる。

「なるほどねー。新しい情報もいっぱい出たわ!共有、完了!みんなお疲れ様!」

薬丸がうなだれる。 

「資料の片付けが……。」

「あとは、任せてください!ひひっ!」

「さすが1年目!三宅君!僕がやりますっ!」

「はい!西井さん! やっておきます!」

「腹減ったー。そういや、昼メシ食っとらんなー。」 

「食堂も終わってますしね。売店で買って、食堂で食べますか。」


 警視庁、夜の食堂。

兒玉があかりに問いかける。

「アカリー、どうしたんだ?」

「あの席、空くの待ってるノ。いつもあの席ナノ。」

「残念だ、アカリー。夜、あまり来ないだろ?そういうことさ。アッチョンプリケ。」

「ナンデー。」

「夜来るんだ。あいつはケツがデカいから動かんなー。ケツがデカいは、ビッグなヒップ。よしっ、名言。 」

「私、ワカッタ!ケツ刑事と書いて、ケツデカ?」

「……ちっくしょー。お前の方が上手かったな。」

「ナイのにアル!アルのにナイ!」

「アカリー、なぞなぞか?そうだなー。上は洪水、下は大火事。これなーあに♪」

「ホント、このひと、いつもなんでこんな古い世代なの?若いのに絶対知らないって。」

「兒玉サンは中身昭和だからネ。20代ダケド。オタク!」

「答えは五右衛門風呂♪」

「正解ね!私でも古いですよー!」

「あの横に延命装置みたいなのついてるやつでしょ?それがあの例の、問題なところだね。」

「そうそう。そこまで知ってるんだ(笑)でも取ったら動かなくなるしねー。それを取る必要があるのに。」

兒玉と福多の何気ない会話にさりげなく問題に気づいた尾野。

「……そうか!それですよ!」

薬丸節!

「どうしたー!尾野君!」

「横の延命装置みたいなのを取ったのは!」

西井が!

「そうよ!」

小林は、

「どうよ?」

木内はわかったようだ。

「なるほどね。ご主人が何かを喋っていた〜ってことかしら。」

「ああ、じゃあ俺たちがやるべきことは?」

「……ですね!」


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