第20話
警視庁に出勤すると昨日のおばあちゃんがホシと身を変えていたのだ。
「で、俺らが取り調べってか。」
「ええ。996係に任せるわ。」
薬丸、木内はは招集をかけた。
「おーい!取り調べ室ー!」
「いくわよ!」
「はーい!」
取り調べ室。
ガチャ。
「何か言ってるわよ?」
老婆は不安そうに言う。
「ご、ごあん。ごあん。」
「ご飯?ああ、留置所でもうすぐ飯が食えるぞ!6時だ!」
「……ごあん、ごあん。」
「伝わってないんちゃう?」
「ソウダ!寺つや子さんに昔、教えテモラッタ手のサイン!エーっと6時は……。」
片手を開き、反対の手も一本見せる。
「……ろくじぃ。」
「おー!やったぞあかり!」
「すごいじゃん!」
「このひとにひと殺す心っていうか、能力ある?この反応、わざとでもなさそうだし。」 「殺しかけたあとに、認知症が進行したのかな。」
「探る可能性が多いにありそうね。心の捜査の出番よ!」
「意思表示が難しそうね。いざとなっても、抵抗できず死んでしまいそう。助かったとしても、それを伝えることはできない。」
「それでも、何とも思わないのかな。」
「いや、頭では何とも思わなくても、心はすっごく苦しいでしょうね。」
「僕らが守りましょう!」
「そうですよ!」
「じゃあねー!ご飯食べておいで!」
取り調べらしからぬして、気づきは得られた。
監察官についていき、去る姿を見て、リアクションが起きる。
「ちっちゃいし、小人図鑑に出てきそうな顔してない?ほら!」
中口は囃し立てる。
「だが、歩き方は、貫禄があるな。」
薬丸も乗る。
「ポケットに手を突っ込んで。(笑)」
脇谷は笑う。
「……習近平♪」
兒玉theユーモア。
「うわー、よく見たら、ほんまや!もう!笑かすわ!」
小林のツッコミは安定飛行。
「耳遠いんか?」
「難聴だけど、普段は口語らしいわ。一応、口語、単語に近いコミュニケーションは取れる。認知症も進行している、とね。」
「そもそもの、刑事責任能力あるのかな?」
「前後の行動で、確証となったのだ、と聞いています。」
あかりが乗り出す。
「私、手話、勉強シテるノ。」
「へーっ!」
「名前の手話、面白いヨ!」
「どんなんや?」
「タトエバ、『佐藤』は甘い砂糖の手話。『佐々木』は佐々木小次郎の剣の持ち方から由来してるノ。『宮本』は佐々木の持ち方の、二刀流版。」
身振りを披露する。
「でも、アカリー。表すのが明らかに難しい名前もあるよな?」
「友達同士で、伝わればいい場合は、創作するコトもヨクあるんだッテ。」
「私たちの名前もあるの〜?」
「中口サンは、『中』と『口』の手話で、こうやるノ。」
『中口』の手話を見せる。
「俺は?」
「兒玉サンは、創作しヨ!」
「えーっと、コダマ、で小玉。小さい玉、とかどうだ?」
「いいネ!」
「ちっちゃい玉、を握り潰せ!はどうや?」
「小林さん、それは別の意味に……。」
「わかってるわ!あえてよ!でもいいかんじの『兒玉』手話できたな!リズムもいいし!」
「えー!」
兒玉は頭を抱える。
「『兒玉』!『兒玉』!」
あかりは、手話と同時に「エー!エー!」 と声を出す。
「アカリー、サイン入っちゃったよー!その『エー!』って『兒玉』のサインのお供?」
「あかりちゃん、覚えたら律儀や。これはずっと言われるで。」
「今さらなんだけど、このひと手話は使わないわよ〜。老化による耳の遠さで、難聴だからね〜。」
「なーんだ。」
「俺のサインができただけかよ……。マイナス以下だ……。」
「服を作る先生してたんだって。今着てた服も、昔、自分で作ったそうです。」
「可愛いおばあちゃんでしたね!ひひっ!」
「でも、事件には、筋が通って捕まってるんですよね。」
「そこだ!まさにそこである。真実を暴き、あのおばあちゃん、名前は?」
「村松登美子さんよ。ちなみに85歳。」
「トミコ♪「クジラ」と一緒のイントネーション♪」
「なんでクジラや?」
「海で出会ったし!」
「そらええな!」
「……ごめん、後付け♪イントネーションがちょうど良かったから♪」
「なーんや。感動したのに。」
「残念、感動じゃなかったよ、思いつき♪」
「で?トミコが殺しかけたとの夫は?」
「村松重五郎。村松登美子から殺人未遂により、病院で意識不明の重体。でも、もとから延命装置が付いていて、気管切開もしていたようよ。落ち着いたら医療ケア付きの特養、特別養護老人ホームに行くって。」
「そう!真実を暴き、村松登美子さんを救い、心を楽にすることが俺らの使命だ。」
「そうね。」
「まずは、事件の詳しい経緯を。 OK?智恵ちゃん?」
「ええ!OKよ!」
「じゃあ中口、頼んだ!」
「任せておきなさい!」
人情警察〜警視庁捜査課996係〜
996係部署、昼のこと。
「エー!(兒玉サイン)好きなお菓子ハ?」
「アカリー!その呼び方やめてくれ〜!普段はー。早速だけど。っていうかこのくだり忘れてたよ。」
「大事ダヨ!特別なときはいいノ?」
「ものすごーく特別ならいいよ♪」
「ワカッタ!改メテ、兒玉サン、好きなお菓子ハ?」
「うーん。ボンタンアメ。」
「……兒玉さん、おじいちゃん?美味しいけどね。」
福多総監はツッコミを入れる。
「ガチョーン。」
「古っ!」
またしても笑う福多。
薬丸はあかりに優しく告げる。
「まず事件だぞ、あかり。中口から聞いた一課の捜査結果をまとめよう。」
「ワカッテルヨ、薬丸サン!エーット。」
「代わりに言うわね。夫、村松重五郎の人工呼吸器が何者かにより外されていた。その時間帯に自宅にいたのは二人きり、とのサービス支援者の証言。取り外された人工呼吸器には、触らないはずの村松登美子の指紋がついていた。『いくぅー!いくぅー!』と言っていたのは、夫を殺し、自分も死のうと、『逝くぅー!逝くぅー!」という解釈に至った、と。一課の調べによりね。」
あかりが戸惑うのに代わり、木内は一連を述べた。
尾野が口を開く。
「確かに海に深く入っていき、行く場所となればあの世、と考えられるものですよね。」
脇谷も。
「逝く、となれば、夫の人工呼吸器を外したのも、説明がつくっす。」
小名呂は、
「もっと他に、可能性はないのでしょうか?」
「例えば、人工呼吸器を外したのと、海に入っていった本当の理由がある、とか?」
西井は探る。
「メルヘンチックな妄想に捉われていたとかか?認知症もそういうことあるんか?精神的な病気は?」
小林の推論。
「いや、もっと現実的な訳があるんじゃない?」
兒玉は首を傾げた。
「一課ノヒトたちハ、ドコマデ調べタノカナ?」
あかりに木内は告げる。
「一課の調べとしては、十分してあるわね。でも、まだ探る余地がありそうね。福多総監、ここにいて大丈夫なの?」
「はい!総監業務はいつでも出来ますし、今日の分は終わりました!それより、996係の心の捜査ですよ!そうですね。私が思うに、村松さんと関わっていたひとから、情報を聞きたいです。」
「いいじゃないか!確か、デイサービスと、相談支援事業所を使っていた記録があったらしいな。そこを深くあたってみるか。どうだ?OK?智恵ちゃん?」
「もちろんOKよ!私は、一課にそれを伝えて、あの辺りのあの時の海の状況を調べてみるわね。何か手がかりになれば、って。」
「俺は、一課の資料を全部借りてくる。その後、一課のメンバーと合流し、さらなる可能性について考える。お前らは二手に分かれろ!そうだな。西井、兒玉、小名呂、福多はデイサービス。そして小林、尾野、脇谷、あかりは相談事業所。行ってこい!」
「みなさん、よろしくお願いしますね!」
「はっ!」
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