第19話

こちら薬丸警部の無線が、静かに音を立てる。

「ザザザ〜ザザザ〜捜査課996係?聞こえますか?」

「おー!あゆたーん!なんか無線の音、変わったの?」

「実は、今、海です。」

「おおおー!あゆたんからバカンスのお誘いが!」

「バカンスって……バカっスか!」

「あゆたーん。ベリーナイス!シクシク。って、おい!あゆたん、産休じゃないのか?」

「はっあ〜い!こちら捜査一課中口よ〜!私が誘ったの。」

「おー、中口!そりゃまたどうして?」

「一課長の願いが、自分が亡くなった後は海に散骨してほしい、と私物に記されていたのを見つけてね〜。」

「刑事だから、何があるかわからないもんなー。」

「海が好きだったようね。一課長の奥さんはしばらく前に亡くなっていたらしいわ。奥さんのも、一課長が海に散骨したんだって。一課長の親戚から散骨に、了承も得てるわよ。雨がふりかけだけど、その内晴れるわ!」

「薬丸ー!」

「ぽんくん!」

「福多総監と、あかりと、新996係乗っけてこっちこないか?俺らは一課長を特に慕っていた一課の刑事を誘った。準備満タンだぞ!」

「ああ、もちろんだ。お前ら行くぞー!」


 朝っぱらの潮風に吹かれ、海に迎えられた一行。

「着きましたね。」

「ああ、海、久しぶりー!」

「ミッチー、海似合う!」

「水着持ってきたらよかったわー。」

「小林さん、泳ぐ気っすか?」

 一課のメンバーが、小走りで。

「おーい、薬丸ー!」

「あっ、いたいた!」

 ゆっくり歩いて来たのは、いつもと変わり柔らかな印象の水野。

「あゆたーん!久しぶり!腹デカっ!」

「もう臨月なの。もうすぐ産まれるわ。」

「アカチャン!」

「太ったんだと思って言わなかったけど……。おめでとうな!」

「女心をわかってるのね。」

「でもあの大きさからの、この成長はすごいでしょ。スーパーベイビー♪」

兒玉も乗り気である。

「こんにちは。一課の早川です。」

早川華奈警部補(29)美人の一課の警部補。クールビューティ黒髪ロングを束ね「はやかわたん!」と薬丸に好かれる。声は小さめで大人しいが、仕事がデキる頼れる刑事。


「僕は、ほぼ、はじめましてですね!!三宅と言います!ひひっ!」

三宅達哉巡査(27)新人刑事。何でも率先してバリバリ仕事をこなしている。たまに少し惚気る。常になぜかテンションがすごく高い。いつも軽く高音笑いしながら楽しそう?


「一課の巣川ですー。」

巣川遥巡査(22)九州から上京して、その後警視庁に勤務。方言が出る若手刑事。仕事の仕方は、着実に、丁寧に。元は刑事を目指してなかったが、仕事への姿勢はピカイチ。


「お、同じく、中村です。」

中村香江巡査(34)小名呂と福多と大学の同期で仲良し。丁寧な喋り方。人見知りだが打ち解けるとフレンドリー。 いつも仲間と、明るく会話する。少し動きがぎこちない。


「はやかわたん!薬丸さんだよー!巣川と中村は捜査で前、一緒になったな。三宅君、よろしくな!」

「さあ、撒くぞ!」

「おー!」


 海に明るく、走ってゆくメンバーたち。

中口はあかりに後ろから駆け寄る。

「あかり!あんたも一生独身貫くわよね?」

「私も結婚デキナイだろうナー。」

「でも私ね〜、県警に好きな男がいるの。」

「エー!結婚するノ? 」

「子供には早いわね!友達以上、恋人未満ってやつよ。今日帰って出かけるのよ〜。」

「もっと教えテ!」

「子供には早い!もうこの話はおしまい!」

「私、オトナー!」


 遠くから皆を眺める木内。

「ウフフ!」

 福多、木内のそっと隣に寄る。

「ねぇ、木内課長?」

 一緒に腰掛ける。

「なあに?総監?」

「総監、なんてやめてくださいよ。なんか(笑)」

「えー?じゃあ、福多さん?」

「ありがとうございます。木内課長って、996係の課長なのに、 自分が目立って、引っ張っていく感じじゃないように見えます。」

「私は、裏方で管理者であったり、指示を出したり、996係の業務をまとめたり、そういう方が多いかもしれないわね。」

「メンバー、特に薬丸警部に、活躍させているようです。」

「表舞台で他の刑事と関わって捜査するのは、たしかに薬丸警部が活躍する主な仕事ね。」

「それはあえてそうしてるのですか?私の勘違いだったらすみません。」

「そうね。その勘は当たっているわよ。」

「どうしてですか?」

「私は、偉いひとが引っ張っていく、というより、メンバーがのびのびそれぞれの課題を乗り越えて、成長していくのを支えたいの。でも、メンバーが行き止まったら、そっと後ろで手を回すことは怠らないわ。厳しく叱ることも、実はあるの。」

「そうなんですか。」

「警視庁のルールや、そしてホシ。仕事が乱れることには私も怖くなるのよ!もうしばらくで私も定年だし、次期課長の薬丸警部に仕事を覚えて活躍していってほしいのもあるわね。でも、行動の後付けの理由、なのよね。私は元々こういうサポートの仕方、役割が合っているのかしら、思っているの。後ろからみんなを引き立てて、静かに見守るのが好きなのよね。私は好きなことして、見守ってるわ(笑)」

「いつも、課長と名乗らず、「木内です」とおっしゃっていますよね。それも密かに、私は尊敬しています。」

「そうかしら?私は、『なんちゃって刑事』なのよ!」

「すごいですね。木内課長を見習っていきたいです。」

「あら。あなたも私以上よ!総監でしょう!でも、あなたの褒め方は、純粋だわ。いつも警視庁のみんなは、そんなあなたについていきたいって思うんでしょうね! よく、あなたと刑事たちとの会話姿を見かけます。どんなひとにも、褒め上手。気持ちがいいわ!」

「えーっ!お恥ずかしい!」

「キャリア組、さらなる警視総監が捜査に出るなんて、ファンタジー、作り物って思われがちよ。でも、福多さんは、根っからの捜査好きなのがよくわかるわ!」

「事件を現場で解決したくて、ホシと関われる、そう!996係みたいな部署に憧れていたんです!でも、安全と安定のキャリアに落ち着いてしまいました。生活のこともありましたし。いいとこ取りして、申し訳ないですね。」

「いいえ、あなたがキャリアを選び、警視総監になってくれて私たちは安心して捜査が出来るのよ。それに、現場に一緒に出てくれる現実世界的にはファンタジー警視総監に、いつも和まさせてもらっているわよ!」

「そんな!ありがとうございます!」

 薬丸と一本杉が、遠くから木内に声をかけた。

「智恵ちゃーん!何話してるのー?」

「撒き終わるぞ!智恵ちゃん!」

「なんでもないわ!待ってて!」

 木内は、福多を見つめて。

「私は昔、元一課長補佐だったの。だから一課長に心からお別れしてくるわ。お話ありがとう、福多総監。」

「いえ、こちらこそありがとうございました!」 

 前一課長の散骨を終えて、一息つき、空を見上げた。

木内は

「なんだか天気が荒れてきたわね。」

尾野もポツリと。

「帰りましょうか。」

 帰ろうとするメンバーたちの前に、不可思議な情景が現れた。


 服のまま、老婆が海へ入ってゆく。様子がおかしいと、メンバーは目を合わせる。

「ちょっとー、止めるべきですよね?」

「そうでしょうね。」

「ばあちゃん、ヤバイって!ひひっ!」 

 メンバーは残る水野に傘をさし、全員走り、阻止するため、海に入っていく。

「いくぅー!いくぅー!」

 海に入ってゆく老婆を止めるメンバー、必死に止めながら巣川は語りかけた。

「おばあちゃん?このままいくとあの世にいくと?そなことしたら、みんな悲しくなるばい!」

「いくぅー!いくぅー!」 

「何が目的、って、この状況溺れ死ぬだけっすよね。」

「一見な。何か精神的な問題か。警察でなく、病院に行ったほうがいいだろうな。」

 老婆を岸辺に引っ張り上げた。

「巣川さんの方言、初めて聞いたー!」

「感情的になると、つい(笑)」 

 病院に送り届け、その日は安堵して帰路に着いた。だが……次の日、

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