第18話
「被告人は、多大なる過ちを犯しました。ですが、未来を与えるべきである、と私は考えます。よって被告人に、禁錮三年。懲役十二年の実刑判決を下します。」
「総監、見送ります。」
「私を見送るのか?いいさ。」
「いえ、最後まで送らせてください。」
「私は、本当の闇に包まれて手を下したくなかった。闇の中にいることを、受け入れたくなかった。だからいつも自分は、犯行は昼にしていた。自分の代わりに手を下させるときも同じ理由だ。」
「そうすると、心が楽になったんですか?」
「そうだな。錯覚というやつだ。思い過ごして、どんどん自分の手は汚れていった。楽になりたかった思いが、裏腹にな。」
「総監、辛かったですね。もう楽になっていいのですよ。」
「ありがとう。うぅっ、うぅっ……。」
「泣かないでください!総監!」
「そうですよ!」
「私が身勝手に作った996係は、こんなに素晴らしい成長をしていたんだな。996係がこんなに私を救ってくれるなんて、思いもしなかったよ。私もこの、ひとを救える996係のような刑事人生を歩みたかった。だが私の歩んできた道は酷くひとを傷つける結果となった。私が刑を終えたら、この996係に入れたらな、なんてな。こんな私に、そんなことは許されないが。私は消えるべき人間なのにな。そう、この世からさえも。」
「いえ、総監。僕たちは996係で待っていますよ。あなたもやり直せます。」
「そうだ。どんなひとだって、いつでもやり直せる。お前が私利で作ったのだとしても、この996係が出逢ってきたホシたちは、傷んだ心が救われた時、みんな前を向いて歩いて行った。こんどは総監。お前が前を向いて歩いて行け。悲しみに押し潰されても、苦しみから抜けだせなくても、自分を信じて前に進むんだ。」
「そうよ。何よりも大切なのはあなたの心。どんな時も、あなた自身を大切に、大切にしてあげて。」
「あたしらも、消えたくなる時はある。大きさも事情もみんな全然違う。あんたの悩みと一緒にせんといて!って思ったりするけど、
この世界に生きてるんや。みんなおんなじ、命の仲間なんやで!」
「総監。命は生きるために生まれてきたのです。あなたがどこにいても、幸せを見つけられた時。私たちは心から喜べます。」
「996係の皆さん。私はもう総監ではないが、これからもずっと、応援させてください。本当にありがとう。」
「私も、あなたを応援してるわよ〜!」
「総監、ありがとうな。」
「もう、大変だったんすから!」
「ありがとうございます!総監!」
「頼もしいやつらだ。私は憧れるよ、こんな刑事たちの心に。」
「総監……。」
「福多。長らくありがとう。秘書として君を引き抜いたこと、怒っているか?」
「いえ。総監には感謝しております。たくさん学べたことがありました。どうか、どうかお元気で!」
「ありがとう、福多。お前はずっと純粋だ。お前は誰にでも好かれる。後を任せたぞ。」
「そろそろ、行きましょうか。」
「みんな、本当にありがとうな。生きて戻ってこれたときは、仲間に入れてくれるか?」
「はい。生きて罪を償ったあなたを、僕たちは待っています。」
後ろで能見と寺。
「今回の事件も、被告、救えたかな!」
「そう。こうやって、命は前に進んでいくんだ。私らもな。総監の未来、良いものになるといいな。それは、刑に服していたとしても。」
「じゃあな。俺らは総監、お前を待っているぞ。頑張れよ!」
「もう総監じゃないさ。ありがとうな。また君たちと会えるまで、生き抜くよ!ありがとう!」
総監の乗った車が発車する。
「15年後か。私はもうおじいさんだ。もう死んでいるかもな。でも私は責任を持って、この命を全うする。996係に教えてもらった、幸せの形を道しるべとして……。」
996係部署、メンバーたちが集う。
「いつもの日々ですね!」
「さあ、これから総監がいなくなったら、996係、やっぱりなくなるのかしら……。」
「新総監も、必要ですよね。どうなるんでしょうか。」
「あっ!一本杉警部!」
「実は、新しく決まったことを、みんなに伝えにきた。」
「何ー?」
「総監の今までの警視庁の闇は、葬る方向になった。隠す、とも見えるが、捨てる、が正しいな。」
「そうですか。」
「それでよかったんじゃないかしら?これからの未来に、過去は関係ないわ!」
「そして、発表がたくさんあるぞ!」
「何ですか?」
「まず、新総監になりました、福多総監です!」
「えーっ!」
「福多の白さと明るさと腕は、上の幹部たちにも高評でな。秘書の前に元いた立場も上級で、新しい警視庁の総監職に適任ということも増し、大抜擢とされたんだ!新、警視総監の福多総監です!」
「お腹が痛くなったり、胸がドキドキしたりするの。もう、続けられるかしらー?」
「ミッチーなら大丈夫だ!」
「よっ!新総監!」
「警視庁の女刑事!」
「そして、新、一課長になりました、一本杉篤彦です!共に真っ白な警視庁を作っていきましょう!」
「は〜い。一課長補佐の中口で〜す。」
「お前ー!ってあゆたんは?」
「ああ。水野はおめでただ!一課の業務はハードだから、早めに休暇を取らせた。中口は一課に異動希望が通り、今回の活躍で昇進だ!」
「ということで、よろしく〜!」
「おう!」
「一課長からあずかった伝言があります。新総監の福多総監も承諾して大賛成しております!」
「はいっ!」
「読み上げます。996係、本格始動!新たに、交番巡査であった脇谷巡査部長と小名呂巡査を加え、心のプロとして、躍進せよ!以上です!これは、元総監も、望んでくれています。」
「そうなんだ……。」
「お疲れさまーっす!」
「おー!脇谷さん、スーツも似合う!」
「小名呂巡査、めっちゃ可愛いやん!」
「お、お前、また可愛いから、腹立つ!……だが、俺はお前がもう、嫌いではない。仕事もできてきたしな。」
「はいっ!」
「薬丸警部に、認められたわね!」
「わー!これから楽しくなりそう!」
「なんだかワクワクします!」
「よし、どうだ?OK?智恵ちゃん?」
「ぽんくん。それ、俺のやつ!」
「これ、俺も言うぞ、薬丸!これからはダブルで智恵ちゃんに絡むぞ!」
「あら、嬉しいわ!」
「嬉しいんかーい!」
「996係の、追いやられた狭い部署も、新しい部屋に移ります!」
「やったー!」
「新一課長になった権限で移すことができました。でも、一課長も、考えていたらしいです。」
「へー!あの一課長が。でも、本当の姿、最後にみえたよね……。」
「そして、あかりちゃんが、警視庁のホワイトハッカーとして、警視庁に勤務することに決まりました!これで、シャインホワイトの
警視庁ですね!」
「アカリー!おめでとう!」
「すごいやん!あかりちゃん!」
「アリガトウ!」
「紹介します。警視庁の幹部たちよ。あかりちゃん。」
「ハーヒフーヘホー♪ ばいきんまんだぞ!これ、あかりちゃん、好きだったから、また練習してたんだよー!昔よくやったね!あかりちゃん、久しぶり。僕は、警視庁の小栗旬です。」
「嘘だー!全然似てないって。戸田謙介さーん。」
戸田謙介は、近所の友達の明るいお父ちゃんのように優しい。
「現幹部たちはずっと、あかりちゃんの味方だったのよ。ねっ、岩田冬彦さん!」
「あかりちゃーん! 久しぶり!昔、一緒にいっぱい折り紙したの覚えてる?僕、あれから幹部になって、総監からあかりちゃんのこと、聞いてたよ。警視庁就職、おめでとう!」
岩田冬彦は、カピバラさんのように、ほんわかふんわりしている。
「総監と警視庁の闇に深く関わっていた一部の幹部たちは退任とされたわ。これから新しい警視庁の歴史を創っていきましょうね。」
「なんだか幹部さんたちも明るくていい感じだわ。こんな幹部さんなら、任せられそう!警視庁の新たなスタートね! 」
「一課長は、生きていたら、捕まっていましたかね。」
「一課長は、むしろ被害者だから、刑もそこまで重くはなかっただろうな。犯罪に手を貸していたのは事実だ。でも生きられたなら、生きることには代わるものはない。」
「そうね。一課長の儚い心は、今も生きていてほしかった。」
「一課長の存在を、俺らは決して、忘れてはならない。あの、警視総監のことも、警視庁の、葬った闇のことも。そして闇に隠されてたくさんの犠牲になった命のこともな。」
「996係は、総監の都合で出来た捜査係だけど、私はそれでも、みんなに出会えて良かったわ。」
「あたしは、最初に交番から996係に移動、って決まった時は、左遷なん?新プロジェクト?って思ったわ。あたしは心のプロってガラじゃないし、今でもいっぱい悩む。でも、あたしここに来て良かったわ。自分なりに成長できたかな、って思ってる。」
「そうですね。996係、これからも頑張っていきましょう!」
「おー!」
「あかりー!おめでとう!警視庁のホワイトハッカー就任!」
「アリガトウ。」
「お前も色々あったけど、今、お前は幸せか?」
「ウン!」
「心を込めて、俺も捜査をまた、やっていくさ。お前から教えてもらった、この歌を歌い続けながらな!じゃあまたな!」
あなたと〜♪ 歌いながら手を上げ去る
重ねてエンディング「あなた」いきものがかり 再生
人情警察〜警視庁捜査課996係名場面映像、歌に乗せて。
歌、終わって。 〜♪
「ザザザ……はあ〜い♪こちら一課中口で〜す。996係、応答しなさい!聞こえてるの?ちょっと〜。」
「はいはーい。こちら薬丸でーす。」
「水野さんにはデレデレしてるくせにっ!」
「なんでお前が知ってんだ?」
「それより事件よ!強行凶悪犯、心を閉ざし黙秘。放っとくとヤバイわ。これは996係の出番じゃなくって?」
「ああ、そうだな。俺らを呼ぶ、心の声がする。お前ら、行くぞー!」
「ああ、待って、場所は取り調べ室。現地集合ね!」
「おう、任せとけ!お前ら行くぞー!」
「薬丸警部、はりきってるっすね!」
「当たり前だ!楽しい毎日の始まりじゃないか!そして、全てのひとに楽しい毎日が訪れるように、俺らは心を、救うんだ。さあお前ら!行くぞ!」
「はいっ!」
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