第12話
「牛乳とあんぱん、張り込みの王道のお供だ!」
「ありがとうございます!」
「つぶあん?こしあん?どっち?」
「あー、そこかー。うん、全部つぶあんだ!」
「やったー!私、つぶあん派なの! 」
西井は静かに喜びの声を上げた。
メンバー、パンを頬張りながら話す。
「そもそもなぜ、犯人は刑事を狙うんですかね。」
「確かにな。根本的な問題だ。そこを心で捜査しようじゃないか。」
「率直に考えて、刑事に恨みを持っている、からじゃないー?」
「刑事を恨む人間、と言えば、過去に逮捕された被疑者ですか?」
「刑事複数を襲っていることを考えると、自分を逮捕したから、ではなく刑事全体を恨んでいるのかしら。」
「襲われそうに怯えている刑事がいる、ってあゆたんが言ってたな。」
「何か心あたりがある、っちゅうことか?」
「周りに怯えていても話せない何か、があるのかしら。それは後ろめたいことがあるからなのかな?」
「でも、刑事を恨む、心あたりがある。とすれば、裏を返して、警察内部も線がありますよね。」
「あっ。不審な黒服の人物が!」
「ナタだ!抑えるぞ!」
走る。
「くそっ!気づいて逃げられた!」
「大丈夫?警部。」
「スマホ落としていったね。」
「ちょっと待て。それに身元が書いてあるかも。」
「あー。でもパスワードかかってるわよ。」
「指紋を採取できないですか?」
「それでいけるやん!」
「鑑識に回すか。」
996係、部署。
「ザザザ……996係応答せよ……」
「あゆたん?どうしたー!」
「実は、刑事が出歩いた報告をしたじゃないですか。」
「うん。」
「その後、不審な行動をして、一課の部署から抜け出す長里裕也刑事を見つけて。」
「ホームセンターのアルバイト!まさか、そいつが……!」
「長里刑事の私物を鑑識に出すと、指紋が……一致しました。」
「マジで?」
「そいつ、確保するぞ!」
「それで、一課長に報告すると、996係に伝える前に、一課で向かう、と言われて。」
「今、どこだ?」
「長里裕也刑事の自宅前です。長里刑事は……自殺されていました。」
「えーっ!」
「俺らも向かうぞ。いいか?」
「はい。」
長里自宅前。
「私も中に入れてもらえないんです。」
「えっ、なんでや?」
「上の命令、と聞かされています。」
「おかしくない?この事件、全体的に。」
「ガードも固いわ。何かあるのかしら。」
「でも、何にしても、入れないのだったら、ここにいても仕方ないですね。」
「部署に戻るか。」
「深く考えると、ホームセンターから、くすねることも、こっそり買うこともできますよね。というか、写真に撮って記録していたのは、自己申告。自分で、どうにでもできますし。」
「そうだな。でも、それも含めて、調べられる可能性はあった。嘘をついていたら余計に怪しまれる。あえてリスクを冒すか?」
「リスクはきっと知っていたわね。だからこそ?」
「隠し通せないリスクを知っていて、あえてする、っちゅうことは?」
「写真やアリバイの手口を調べられても、バレない自信があったから、あえて、とかですかね?」
「写真を撮って、アリバイがあれば、確かに捜査線上から外れられるわね。そして、手口がバレないとすればなおさらね。」
「いやー、色々ツメが甘いって。」
「そういえば、あかりからメールが来てたよな。返信するか。あかりにちょっくら相談してみるかー。写真の手口を詳しく……。よしっ!」
「ピコン。この番号に電話してきて。」
「オッケー。ピッピッピッ。プルルルル。」
「久しブリ!薬丸サン、iPhone?」
「あかり!ああ、iPhoneだ。」
「じゃあワカリやすいヤ。」
「どうした?」
「私がよく解くパターンは、別の日に撮った写真をタップして日付を消しスクショ。もうひとつは日付を手動で設定して工作。バレるのを恐れて確実にやるナラ、コレかな。」
「えーっと、あかり。どういうことだ?」
「やってミテ。写真を適当に表示して。」
「ああ。これだ!家の犬のトイプー、ステラちゃん!」
「ステラばっかり!」
「可愛いだろ?俺が守ってやらなきゃいけない女だ。」
「はいはい。」
「できたぞ、あかり。」
「タップすると周りが黒くなるデショ?」
「うん。」
「それをスクショすると、違う日付に撮ったみたいになるヨネ。」
「おー!確かに!すげぇ、あかり!」
「でも、スクショの写真を比べると日付のところの色がちょっと黒っぽい場合があるノ。それは、全画面で写真を撮るときと、スクショするときで背景の色が違うカラ。説明難しいヤ。」
「うーん、なんとなくわかったぞ。もうひとつの、日付を工作、ってどういうことだ?」
「日付や時間は、オンラインだと自動で合わせられるカラ、それを使ってるひとが多いノネ。」
「おう。たぶん俺も。」
「でも、設定で、日付を手動にスルと、違う日付に設定した後に写真を撮ると、違う日付の写真が撮れる、って訳ダヨ。そのアト、今の時間に戻せばイイ。工作完了。」
「すごい……!けどそれ、自分で考えたのか?」
「だって、総監のよくやる手口ダカラ。コレで色々誤魔化してる、独特の技。総監は部下にもさせるヨ。私も総監の悪事をハッキングしながら、何回も解いテル。」
「もしかして部下の長里は、総監に雇われたんじゃないですか?」
「えっ?……まさかのここで総監出て来ちゃう系?」
「そうなら、全部繋がってたりして。」
西井は真剣な眼差しになった。
「あゆたんに長里のナタ購入写真送ってもらったよな。えーっと、あった!」
「ほんとだー!」
「もう、闇の総指揮者は、総監で決まりですね。」
「あかり、こっちにこないか?俺らは命をかけてお前を守る。味方についてくれるか?」
「いいよー。私も、そうしたかったトコ。」
警視庁、外。
「あかり!来たか!」
「あかりがいることバレない?総監が消そうと思ってるのに。」
「あかりは昔と見た目も違うし、総監はたぶん名前は知らない。ハッカーのコードネームは違ったよな?」
「うん!」
「早速、捜査よ!」
「長里刑事のスマホや。」
「スマホのパスワードなら、指の跡が光に当てると見えて、数字にぴったりタッチした跡が、ホラ。」
「おー。でも、順番は?」
「連打シテル指の跡トカ、思いつくままに解除ヲー、できた!」
「すごいじゃん!」
「みんなは心のプロデショ?私はコレのプロダヨ!」
「ひぇー、あかり!ハッカーって怖ぇー!」
「コレはハッカーの行動範囲じゃナイんだけどネ。」
「中身みるで。」
「あかりの言う手口、どっちも使われてるじゃないか。別の日に元の写真はあるわ、今の時間があってないわ。」
「日付まで合ってないー。よく使ってたな、この携帯♪」
「メールには総監とのやりとりも残ってるぞ。ピッ。」
「総監がやっていること、下ろしてくれないなら言いますよ。」
「そんなことしたら……どうなるかわかっているだろうな。お前も過去の刑事と、同じになる。」
「はー。バラそうとしたら、口を封じるために殺すぞ、ってことか。連続殺傷の黒幕め。」
「そらバラさん訳やな。」
「手を貸さして、都合が悪くなったら、使い捨て、か。」
「悪徳ですね。」
「長里がナタで殺そうとしていた刑事も、総監に雇われてたんだろうな。それで、バラそうとしたか、反抗した。そして総監は、長里にその刑事を消さした。総監が、長里に殺しを命令してたんだな。」
「堂々巡りじゃない。」
「一課長の名前も節々に出てますね。」
「一課長ともやりとりしてるぞ。ピッ。」
「僕は殺しを下りたいです。」
「俺もそうだった。でも、もう犯罪に手を貸している。今下りても、お前の望んでいる刑事としての未来を俺は保証できない。」
「でも、やってはいけないことだと思うのです。総監の言うことを聞きたくないです。」
「それに、下りたいと言ったりすると、すぐに総監に消されるぞ。上手く断ることしかできない。それは俺もだ。」
「一課長も、深く関わっているようね。」
「総監が、そこそこ権力のある手下として、一課長に指示してたって訳か。だから総監は表に現れなかったんやな。」
「一課長が上手く回って、今まで隠蔽できたのか。」
「すると、一課長もグルなんでしょうね。」
「いや、一課長は、総監の手下でありながら心はたぶんこっち側だ。一応、上司の言うことには従わなければならない。いちいち常に指示を細かく聞いたり報告しているだろう。あゆたんだっていつもそうだろ?でも、心はこっち側だからな。」
「なるほど。それなら一課長も、上手くいけば味方につけることができるね。」
「あっ、あの車に乗るひと。総監じゃない?嘘をすれば。」
「総監だけ車に乗って、見送った隣のひとは誰?」
「ミッチーだ。総監秘書のな。」
「福多サン?」
「あー!あかりちゃん?大きくなったねー!」
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