第13話

「福多さん?アカリー、知り合い?」

「そうなんです。私情で知り合いで。私の息子と、同じ幼稚園だったんですよ。」

「昔のコトは言わないデ。」

「それにしても、よくわかったね。」

「さっき、あかりちゃん、って聞こえて。もしかして、って見たら、あかりちゃんだったわよ!」

「福多サンは、変わってないカラ!」

「総監秘書の福多満子といいます。あかりちゃんや、996係が総監の敵のことも、よく知っています。秘書なので。総監が行った後でよかったわ!」

「そうみると、ミッチーは俺らを突き出すつもりはなさそうだな。」

「もちろんです。総監には逆らえませんが、秘密にしておくことは、できますよ。」

「じゃあ、また会おう!ミッチー!」

「はい、ありがとうございます!」


警視庁、入り口。

「脇谷?小名呂!」

「ちょっと警視庁に用事があって。」

「連続刑事殺傷事件の担当区域で?」

「そうですよー!」

「そういやお前ら、しばらく前に、交番移動したのに、また一緒になったんだったよな。よかったな!」

「まあ、何もないっすけどね。」

「この様子だと、また一緒に捜査できそうだね!」

「食堂、来るか?丁度メシ時だ。」

「はいっす!」


警視庁、食堂。

「脇谷、食堂来んの久しぶりだろ?」

「そうっすね!」

「あっ。交通課の中口じゃん。おーい、中口!」

「は〜い。生まれてから死ぬまで中口で〜す!」

「……合コン、諦めたらしいな。」

「結婚だけが全てじゃないっす。」

「ねぇ、中口さん。兒玉さんとかいいひとダヨ?」

「天パの男は無理よ。」

「脇谷さんは?カッコイイよ!」

「いや、普通に無理よ。あんなの無理。」

「うっさいわー、すっぴんブース!」

「聞こえてたごめん!かっこ悪ーいチビ!」

「仲良いノニー。」

「ミッチーって、歳、そこそこいってても、美人だよなー。」

「そうね。私には負けるけど。」

中口はサラリと。

「いや、あたしが世界一可愛いで。」

小林はキメ顔。

「本気ですね……。」

「その大きな自信は一体どこから湧き上がるのか……。」

「あかり、覚えときなさい。『ラブ・マイ・セルフ』よ。自分は自分で愛さないと!そして、この中口知美は、女子の世界で、ナンバーワンでオンリーワンよ!」

「ハーイ!」


「うーん。総監は極悪の人間か。どうしてそんな悪党になったのか、だ。」

「もともとそういうひとなんじゃない?生まれもった性格?」

「なんか、やってることから、総監の味方になれそうもないわね。」

「昼食食べてから考えますか。」

「そうだな。さて飯だ! おっ尾野愛妻弁当じゃん!」

「はい、妻が!」

「警部こそー!」

「おう、うちの嫁は味より愛だ!」

「私は昨日の夕飯の残りのうどんー。」

「あたしは食堂のメニュー。」

「私は自分で作ったお弁当!」

「兒玉は?」

「僕はうちに住み着いている座敷わらしのぐるぐる弁当ー。」

「兒玉、彼女のことか?っていうかなんでぐるぐる模様ばっかの弁当?」

「いやー、彼女はいないんだけどー。昔、ぐるぐる回って、誰にも受け入れてもらえなくて、辛くて、真っ当な人間から、今の姿になったってー。」

「そうか、それですよ!」

「どうしたー、尾野。」

「総監は、昔、ぐるぐる回って、誰にも受け入れてもらえなくて、辛くて、真っ当な人間から、今の姿になったんですよ!」

「ぐるぐる回って、っちゅうのは警視庁の闇に、回り回って今自分がしていることを昔されていた、とかなんか?」

「警視庁の闇か……うちのゲーしそうな病みのやつとは次元が違った……。」

「おーい、兒玉っちー。まだ言ってるん、大丈夫ー?また病んでるー?」

「はい。ひとは誰でも、理由なく悪党にはなりません。生まれたときから、大人になっても積み重なって、今の自分はいる。最初から性格が悪いひとはいません。」

「確かにね。全部周りのせいにするのはよくないけど、周りの影響は大きいわね。」

「あの総監も、苦しんで、苦しみすぎて今の姿になってしまった、っちゅうことか。」

「そうだな。今俺らが救うべき心は、総監の心だ。」

「酷く傷んだ総監の心、救ってみせましょう!」

「ミッチーを引き抜こうか。」

「それ、ええな。賛成。一番詳しそうやし、福多さんも何か抱えてそう。」

「福多秘書もだし、一課長も味方につけたいわね。どちらも、何か心にかなり重荷を持ってそう。心を救う996係としても、放っておけないのよね。」

「一課長は、心を溶かすのに、難しいかも。」

「そうですね。ポイントがありそうです。」

「ミッチーを引き抜くなら、俺らがミッチーのリスクを背負うんだ。ミッチーを護る覚悟がいる。それだけ、危険なことだ。 誠意を込めて、ミッチーを引き抜こう。いいな。」

「みんな、決まりね!」

「よーし、お前ら!早く飯食って作戦会議だ!」

「おー!」

「……なんか私たち浮いてるわね……。」



食堂、別の場所で。

脇谷と小名呂、福多は席についた。

「小名呂巡査は、ボートレースとか、どうっすか?」

「えー!あまり詳しくないですー。でも福多さんが!」

「福多秘書、ボートレース、行くんすか?」

「そうですね。大好きですよ!ファンの選手もいます!」

「今度一緒に行きません?小名呂巡査っ家、車止めれたっけ?」

「あー。裏に止めれます。福多さん家経由で行きましょか!」

薬丸登場!

「その話、俺も乗せてくれないか?」

「いいっすよ!」


996係、部署。

「ちょっち、ボートレース、仕事で。」

「嘘だー!っていうか警部今日、休日出勤でしたね。どうぞー。」

「お土産を必ず、持って帰ってくるぞ!」

「なんやいな。あたしも今日休みよ。もう、サボり警部めー!」


ボートレース場。

「今日、私の応援している選手が出るんですよ!」

「フクちゃん、男並みの嗅覚してるからねー!他の趣味も豊富!」

「そうそう!ナロちゃん!」

「仲良いんすか?仕事場では見ない二人の姿!」

「大学はフクちゃんと一緒の大学で、同期なんです。一課の中村香江ちゃんとも。でも私たちみんな中途なので、歳はバラバラです。フクちゃんは国家公務員採用試験、簡単に言うと、警察のエリートに受かって、キャリア組。警察大学校に行ったけど、私と香江ちゃんはその試験に落ちてノンキャリアです。でも、交番巡査は新人、ですけど、その前は私、一課にいたんです。脇谷さんが一課にいた頃ともかぶってましたよ!」

「へー!そうなんすね!」

「キャリア組はデスクワークや、幹部になって指揮をとって、ノンキャリアは現場です。フクちゃんが前、一課にいたのは、現場に出向、という形です。でも、私は、落ちて、良かったです。現場で楽しく捜査してます!」

「キャリアとか、ノンキャリアとか、関係ないわよ!場所が違うだけで、思いは一緒!」

「フクちゃんも全然、変わってないし、香江ちゃんも、大学時代の仲良しグループはずっと続いています!」 

「そうなんすね!知らなかったっす。俺の方が上司かと思っていたっす。」

「交番では、先輩としてお世話になってますけどね!」

「小名呂巡査、飲み物買いに行くっすよ。福多さん、何がいいっすか?」

「えー!ありがとうございます!何でも大丈夫です!」

「脇谷さんはいつもブラック!ブラック!」

「コーヒーのことっすよ!」

「もちろんわかってますよ!ありがとうございます。私は席取りしときますね!」

「助かるっす!走れ!小名呂巡査!」

「待ってくださいー!」


「よいしょ。ここでいいかな。」

「……おっ、ミッチー、隣いいか?」

「何かあるんですか?なんだい?」

「いや、大したことではないさ。ミッチーって、どうして秘書やってるんだ?」

「私は、元は一課の刑事に出向していて。いずれは指揮をとるデスクワークに戻る予定でした。前置きしておきます、自慢ではないですよ。私はキャリアとしてまあまあ上の位置にはいました。でも、秘書になったんです。どちらが偉い、とかじゃなく。わかって頂けますか?」

「ああ。それって、もしかして総監が?」

「……はい。浮気はしてないんですけど、一緒に食事に行った男性と、隠し撮りを総監にされてしまいまして。」

「やましいこと、何もないならいいじゃないかー。俺はやましいことだらけだぞ!」

「ちょっと、あったんですよね。仕方ないです、私モテるんで(笑)」

「それでどうなったんだ?」

「給料も上がる、と総監秘書に引き抜かれまして。総監に付き合って色々な場所にいくので、いい上司、と楽しんでいたら、その会話の録音や、撮られた写真をさらに握られてしまって……。」

「おい、最悪だな!総監!」

「秘書を辞めると、自分の未来が危ないし、このことを言えるひともいなくて、怖かったです。薬丸警部に今、話すまで。」

「そうか。伝えてくれて、ありがとうな。俺は嬉しいぞ。」

「これでよい?私も話せるひとがいなかったので、警部が聞いてくれて、良かったのかもしれないです。味方につくので、総監にはどうかご内密にお願いします。警部を信頼して話したのですよ。」

「味方にしたい、ってどうしてわかったんだ?」

「女の勘ですよ!秘書を長らくやっているとそういうことも、気づくのです。996係と協力して、総監を正しい道に、導きましょう!」


996係、部署。

「と、いうことだ!」

「それ、ほんまに言ってんのー?」

「ああ、ミッチーを味方につけた!固い場所や、いかにもお願い、って形だと、話しにくいかと思ってな。」

「さっすが、心のプロ!我らが薬丸警部!」

「いや、実はそこまで考えず……。正直、ノリで……。」

「ノリかーい!」

「まあ、良かったですよね!」


「さあ、次は一課長だ。」

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