第10話
取り調べ室。
「お前に話したいことがある。聞いてくれるだけでいい。いいか?」
「は、はい。」
「本当は殺したくて、本当は殺したくなくて。自分をわかってほしくて、自分をわかってもらえなくて。たくさんの心のざわめきの中で、お前は生きてきただろう。でもな、いいんだ。お前はお前の、そのままでいいんだ。今までのお前の苦しみは、想像できないほど辛かったろう。だが、自分を失うな。自分のことを認めて、大切にしていいんだぞ。お前は心が、優しいやつだ。」
「そうなんですか……。」
「さあ、お前はこれからの未来。未来をどう生きたい?」
「ぼ、僕がひき逃げ事件を起こしたんです。間違いなく僕がやりました。だからそんな僕に、未来なんてありません。あとは死ぬだけですよ。早く死にたいです。」
「溝口孝弥。ひとは生きるために生まれたのです。未来のないひとはいませんよ。」
「過去は辛いと思う。でも、大切なのはこれからの未来よ。」
「あんたの気持ち、わかりきれんことはわかってる。でも生きるんや。みんな、一緒やで!」
「今を。今を生きるんだよ。」
「いやぁねぇ。もう。しっかりしなさいよ。男の子でしょ。強くなりなさい!」
「楽に生きていいんすよ!」
「そうです。僕らもあなたが前を向いて生きていくことを願っています。」
「大丈夫です。あなたにも未来は、ちゃんとありますよ。」
「ポケーって生きていてもいいのよ!あなたが幸せに生きること。それは許されている。何をしてもいい。幸せになるのよ!」
「ありがとうございます。僕も、もっと頑張ります。」
「頑張らなくていいんだ!お前は頑張りすぎた。ゆっくり休んで、刑を終えたら、思いっきり好きなことをしろ!今までできなかった分もな!」
「はいっ。すみませんでした。本当に、ありがとうございました!」
「終わったね!最後の事件も……。」
「吐かない犯人を無理矢理に犯人としない。俺らの役割は、心を救い、ひととして寄り添うこと。そいつらひとりひとりにも、未来がある。最善の策を講じて、今日も奮闘するのさ。そして、今日が最後だ。」
「そうですね。」
「ただ目の前の傷んだ心を癒すこと。悲しみや苦しみを少しでも取り払うこと。そして、そうして心が笑ったなら、俺らはこんなに嬉しいことはない。うん。それが、俺たち996係の使命であった!」
「そうね!」
「じゃあ!ゴホン。それではシメは恒例の『あなた』。 これは元は家族の歌だが、俺が心のケアする時のテーマソングでもある!いくぞー!あなたと〜ただあなたと〜」
エンディングテーマ「あなた」いきものがかり〜♪05:58〜
03:48〜
「お疲れ様で〜す。」
「中口婦警!一本杉警部、一課長!あっ。小名呂巡査、髪切ったんだー!すごいイメチェンー!」
「お……俺はお前嫌いだけど、可愛いくなったから、腹立つ!」
「それマジで言ってんのー?」
「いや、照れ隠しでしょー!」
「そうだよー。」
「小名呂巡査!可愛いぞ!」
「堀田鑑識課長!」
「みんな集合だな!」
〜04:10
05:25〜
「薬丸警部、皆さん、大活躍ありがとうございます。」
「わぁー!あゆたーん!僕、頑張ったよ!」
「もう。はいはい。」
「お疲れさん。」
浮かない表情の一課長を見ながら。
「一課長は、ただの皮肉嫌味野郎ではないと俺は思う。」
「なんか抱えてそうやな、とはあたしも思うわ。」
「そうですね。一体、何に悩まされているのでしょうか。」
「一課長しか知らない何か、があるのかもしれないなー。」
「私たちの心の勘か。」
「996係、最後の事件は終わったけど、一課長をいつか、解き放てるといいわね。」
歌の後。
「ねぇ。どうしてこの歌を薬丸警部は歌うの?」
「それは昔、薬丸が出会った女の子から教えてもらった歌なのよ。」
「えー?数多くの彼女ですかー?」
「違うわよ!昔、事件で関わった、自閉症のハッカーの女の子。名前はあかり。」
「えっ?あかり?」
「あかりちゃん知ってるの?」
「アカリー知ってるんだね。」
「みんな知ってるの?」
「そういえば。昨日あかりちゃんからメールが来まして。アドレス教えましたかね。」
「私も昨日、そう!同じだわ!」
「しっ!実はあかりは上の秘密を握っていてな。ハッキングで証拠も持っている。このことが上にバレるとやばいぞ。あかりを消そうと上はずっと企んでいるからな。」
「もしかして、もしかしてですよ。996係が作られたのは、あかりちゃんが消えたころ。僕らが別の部署の時、僕らが親しい存在と知って、ハッキングをして連絡を取ることがあると予想して……。とかですか?」
「確かにな。俺らが996係として集められたのは?」
「僕らの動きを見張るため?」
「連絡がないから、そろそろ廃課?」
「動きを見張る、って監視カメラとか?」
「……どうやらそのようね。今一課長からメールが来たわ。」
「996係、廃課、無し。存続決定。」
「えーっ!」
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