第9話
救急車のサイレン。
「みんな、きたわね。」
全員集まる。
「……。」
「……救急車、全員乗らしてください。」
「すごく詰め込みでもいいです。」
「はい。もちろん。」
「お願いします。」
「みんな……。私は一課と合流しに行くわね。薬丸警部をお願いします。」
全員で静かに。
「はいっ。」
救急車、走りだす。
救急車内部。
しばらく、沈黙。
「警部……。」
「なんでですか……。」
「あたしらが喧嘩せんかったら……。」
「目を覚ましてよ……。」
〜♪ 歌が流れ始める。
♪ひとつになることでわかりあえるわけじゃない〜
「これってあの歌の2番じゃないですか?」
♪ぶつかりむきあいゆるしあえたら〜
「そうだ、そうだね。」
♪どうしてもやりきれないそんなよるには〜
「最後の事件で……こんな……。」
♪そのてをはなしてつたえてほしいんだ〜
「……警部。警部!起きてぇや!」
〜♪
「……。」
「あれ?歌、終わりましたね。」
「っていうか、そういえばなんで歌なったんや?」
「そ、そうだね……。」
「あっ!警部の携帯に着信。木内課長からたわ!」
「かけ直しましょう。」
プルルルル。
「木内課長?」
「みんな、聞いて。ホシを確保したわ。今、一本杉君と、中口婦警と、小名呂巡査と脇谷巡査部長と一緒。みんな、ホシの確保に奮闘してくれたわ。そして、996係と捜査することをとても望んでくれている。」
電話の後ろで張り切る声が飛び交う。
「この事件、薬丸警部のためにも、解決しましょう!そして、ホシのためにも。きっと薬丸警部ならそう言うわ!」
「はいっ!」
ピッ。
「薬丸警部。」
「安心していて。」
「僕らに任せて、ゆっくりしてください。」
「あたしらで、捜査、進めるで。見守っててな!」
みんな顔を合わせて目を見合い笑う。
薬丸、意識はないが、どこか穏やかに微笑んでいる。
警視庁。
「そうか。高嶋綾人は昔、溝口孝弥の恋人をひき逃げした。恋人は亡くなり、溝口孝弥は高嶋綾人の妻を今回の事件でひき逃げするつもりだった、っちゅうことか。」
「繋がりましたね。」
「それで、これで終わらせるつもりだったのね。」
「妻をひき逃げして、殺すことが目的だったのかな?何か違う気がする。」
プルルルル。
「あっ。木内課長!」
ピッ。
「みんな!薬丸警部の意識が戻ったわ!」
「えっ!すぐ行きます!」
病院のベッド側。
智恵ちゃんから電話で駆けつけた仲間たち。
「薬丸警部、復活よ!」
「みんな、ありがとうな。俺も本格的に捜査に出る。」
「大丈夫なの?」
「薬丸ー!」
「おお、ぽんくん!一課長も!」
「一本杉を、996係の応援に出す。とてもいい戦力だぞ。」
「プルルルル、はい、中口で〜す。オジイ、そうそう。今から996係を手伝うのよ〜。じゃっ、そゆことで、よろしく〜。」
「おー!中口!きてくれたのか!」
「交通課の出番じゃないのよ〜。でも仲間に入れて!」
「小名呂!脇谷!」
「来ちゃいました。」
「賑わってるなー!」
「薬丸警部、僕はホシが許せないです。」
「そや。薬丸警部を轢いた犯人なんかなんとしても吐かせたる!」
「僕も、懲らしめるべきだと思う。」
「薬丸警部の仇。私も手伝うわよ〜!」
「薬丸、ホシを裁こう。」
「そうっす!」
「決まりですね!」
「……いや。それではいけない。」
「えっ?」
「俺らの役割はホシの心を救うこと、それが俺らの使命だ。どんな状況でも、それは変わらない。吐かない犯人に寄り添って、心を救い、それでこそ、事件解決となる。」
「でも……。」
「ホシの心は傷んでいる。お前ら、俺たちは何のためにある?996係はどうするべきだと思う?」
「……ホシ、救いたいです。」
「心の捜査、出番だな。」
「私たちもやります!」
「よっしゃ。やるか!」
「そうね!」
みんな賛成の様子。
「よーし!ではこれから、ホシの心を救うため、本格捜査を始めちゃう!俺らの魂をかけて、ホシをの心を、必ず、楽にしてみせようじゃないか!」
「はいっ!」
996係部署。
「じゃあ、早速!ホシ、溝口孝弥の心を救う作戦会議を開く!」
「はいっ!」
「おーい。いたいた!」
「堀田鑑識課長!」
「実は、薬丸警部が轢かれた事件、先程の鑑識の結果!雨で流されかけていたが、ギリギリ、ブレーキ痕を調べると、一連の事件と同じで、遠くから走ってくる道の途中にも、急ブレーキ跡がいくつもあったんだ。そこから!全速力ではなかった。うん、そこを996係の力と合わせて、解決に導いてほしいんだね。それじゃあ、以上だ。んっ!」
「そうだな。やっぱりか。」
「一本杉警部?」
「いや、さっき一課でも疑問が出ていたんだよ。思いっきり突っ込んだのなら、いくら薬丸を見て急ブレーキをかけても、薬丸は死んでたんじゃないかって。」
「おー。」
「そんなことあるー?」
「良かったのですね。」
「殺すつもりがなかったのか、それか殺そうと思っていながら、怖かったのか。いや、きっとどっちもなのかも。」
「そうっすね、西井さん。両方の思いを、汲み取らないといけない気がするっす。」
「でも、一番は、受け入れられている、と感じることじゃないでしょうか。」
「そうだな。取り調べ、いけるか?薬丸。」
「一回、いってみるか!俺がいくぞ。裏で見ながら作戦を立ててくれ。」
「はいっ!」
取り調べ室。
バンっ。
「お前は、ひどいことをしたんだ。わかってんのか!」
「……。」
ガチャっ。
「代わります。」
「はい。」
ギーッ。
プルルルル。
「漫画〜?買うって揃ってないんだろ〜?我慢するセヨ〜!もう切るナリ〜!」
ピッ!
「すまんすまん。で、おめぇは誰だ?」
「……。あなたは衝撃的なひとですね。僕は溝口孝弥といいます。」
「あれだけ黙秘してたのに!」
「薬丸節だな!」
「で、お前のことは、俺は一部知っているつもりだ。だが、過去の出来事を調べたところで、お前の心の全て、いや、ほんのちみっとだって、わからないだろうからな。」
「僕の心ですか。誰にもわかりませんよ。こんなに辛い経験をしてきて、他のひとにはわからないです。」
「話してくれるか?溝口孝弥。」
「すみません。そんな気分にはなれなくて。」
「事件を解決することも、俺らの使命だ。だがお前の心を救うことも、俺の目的だ。話したくなったら、いつでも呼んでくれたらいいからな。じゃあ、今日はここらで失礼する。いつでもいいからな。待ってるぞ。」
ガチャっ。
「お疲れ様です。」
「無理させると、逆効果に感じたから、切り上げた。」
歩いてくる。
「そろそろ用無しなんだよ。996係はな。」
「今の誰ー?」
「しっ。警視総監よ。」
「上の命令ですよね。総監命令、996係の廃課は。」
「あたしらがせっかく、捜査頑張ってるのになー!いいんや。あんたが廃課命令しても、あたしらは最後の捜査を心残りなくやるだけやからな!」
「そうね!最後の996係の捜査。楽しんではいけないけれど……。楽しみましょうよ!」
「そういえば、溝口孝弥は、高嶋綾人と接触したことはあるんすかね。」
「確かあったと思う。恋人を亡くした直後に。一課でその話が、この前出ていたよ。」
「冤罪を被ったなら、何か考えがあったのかも。」
「そして、冤罪を被った程。心を救うべき相手ですね。」
「高嶋綾人の自宅、行きますか〜。」
高嶋綾人、自宅。
「どうぞ。」
「いいで。気ぃ使わんとって。」
「大人数でごめん。すぐ帰るさ。お前が知っていることを、話してくれるか?」
「はい。僕は五年前、溝口さんの恋人を……車を運転中に持病の発作が起き、溝口さんの恋人を轢いて殺してしまいました。」
「泣かないで。あなたは悪くないわよ。」
「僕を責めることもなく、静かに悲しんでいて……。」
「高嶋さんの奥様が、ひき逃げにあうことを、高嶋さんは知っていたんすか?」
「命日に事件が起きて、そんな気がしました。僕がどれだけ謝っても、余計に苦しませる。代わりに刑を被ろうと……でも……。」
「どうした?」
「溝口さんの恋人をひき逃げしたのと、僕が同じ刑に処されれば、溝口さんは妻を殺さないか、って。」
「そうか。お前は、だから冤罪を被ったんだな。」
「本当に僕は自分勝手です。妻を殺してほしくなかった自分のために。捜査にも支障が出て、すみませんでした。お願いします。溝口さんの心を救ってください。」
「ありがとう。任せておいて。高嶋さんも、もう苦しまないで。」
「はい。あなたたちのおかげで楽になれました。ありがとうございました。」
996係部署。
「これまででわかった、溝口の心の、重要な問題を上げる!」
「育ってきた過去の辛い体験。」
「自分の気持ちが言えてないのよ〜。」
「受け入れてくれるひとがいなかった。」
「きっかけは恋人をひき逃げされたこと。」
「しかし!だ。お前らはこいつを理解するために、何が必要だと思う?」
「あなたを理解した、って言っても、こんなに辛い自分の心をわかった気になるな!ってなる気がする。」
「あたしは、自分が受け入れられた、って思えることが溝口には必要やと思うな。」
「自己肯定感が低そう。認めてあげることが大切。でも認めてあげる、の『あげる』はネックかな。」
「今まで溜めてきたものを、発散させてみるのは?例えば、心の声を全部言わせて、受け止めるとか。」
「小名呂、甘いな。そう上手くはいかない。だがいい線だ。お前らの提案を合わせ、溝口孝弥。こいつを救うには『対等』。救ってやる、じゃないってことだ。」
「それが、認めて『あげる』じゃないってことね!」
「あたしらの言いたいことって、そうゆうことやったんや!」
「取り調べ、行くぞ。全員、取り調べ室でフォローしてくれ!」
「はいっ!」
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