第2話
「みんな戻ったかー!集合!」
「薬丸警部、遅いくらいですよ。」
「めんご、めんご。さあひとりずつ報告しよう!まず兒玉!……ってまた寝とる。取り調べ頑張ったのかな?」
「取り調べって録画してあるんやんな。みんなで兒玉の見てみるか、寝てるし。」
「失礼します。僕は取り調べをする兒玉といいます。お互いに不利益がないようにビデオで取り調べの様子を録画させて頂きますね。よろしいですか。」
「はい、いいですよ。」
「うーん、何から喋ったらいいんだろう……」
「…………。」
「け、刑事さん。どうしたんですか。」
「もうやんなっちゃうー、こまるぅー。」
「ま、ま、まさか刑事さんも?」
「え?」
「ぼ、僕もなんですよ!」
「なにが?」
「こ・れ。」
「えっ?た、高木はその、おねえ?」
「そうー!仲間だったのね!」
「僕は笑いを、そういう、違い……」
「嬉しい!ハグして!私の名前は山口紗里奈よ!おかしいのよね、私は純粋な女なのに、体は男なの。おねえ、とは違うのよ。でも、世間的にはおねえ、なのかしら。」
「ど、どっちでもいいけど、離してー!」
「そうね、今、どういう状況かしら?」
「高木、勘弁してくれ。状況はこっちが知りたいよ。」
「あら、私は高木じゃないわ。山口よ、紗里奈ちゃん!」
「紗里奈?もう訳がわからない、もうええて高木。もうええてー!」
ピッ。
「とと、途中停止する気になれんかった。」
「いや、なんかわかった気がする。」
「兒玉ー!よく頑張ったぞ!」
「出揃ったか?」
「西井さん、双子の弟が越してきて、殺してくれー!と叫び声、兄が救急車で夜中運ばれる。一課の身元調査と異なる証言。」
「尾野君もいい作戦だ。裏がないように見えて単純なやつでもない。心のプロとして、複雑な思いを証拠と共に落とす。」
「あたしは雑談で、高木が記憶が飛ぶって言うから、そんなん日常、って。」
「なんだか謎が深まりましたね。」
「あー、その話の後、夢に出てくる杉浦君に現実世界で間違われるんやて。友達なんかなーって言ってたん。」
「ちょ、ちょっと待て、杉浦?」
「また忘れてた!そこで例の杉浦よ!」
「これって、解離性同一性障害、つまり、多重人格じゃないですか?」
「俺もだ、尾野君。お前もそう思うか。」
「ふわぁー。」
「兒玉、起きたな。そうそう、俺の報告。交番の脇谷は高木を知らなかった。しかし、しかーしだ。まあ……私情で行った女装バーの写真を見せてくれてな。」
回想
「脇谷ー!俺だ、薬丸。」
「久しぶりっす!なんかあったっすか?」
「いやー、てこずってる事件があってな。お前んとこに手がかりがないか探しにきたんだよ。まあ、まずは一服するか。」
「ふーっ。」
「率直に、高木真広って知ってるか?」
「いやー、知らないっすね。」
「そうかー。お前は?彼女とか。」
「全くっすね。生涯、付き合ったりとかなさそうっす。」
「いい顔してんのになー。じゃあいつも何してるんだ?」
「女装バーとかに通ってみたり?意外と新しい発見もあるっす。」
「へー、お前そんな趣味あったのか。」
「いや、違うんすよ。友達に連れていかれて。これ写真っす、なかなかっしょ?」
「へーっ!いい笑顔だな!おめぇの隣の女装した彼女、ひとりだけ長袖じゃん。ん?壁に汚い落書きが。こういうの俺、綺麗好きで許せないんだよー。あれ?この文字に見覚えが……。拡大して、拡大。」
「はいっす。」
「『杉浦拓史』」
「こ、これ、店の前でか?俺の携帯に送れ!住所は?」
「え、ええっと、住所っすか。そうだ、名刺が。あっ、サリナちゃんの。」
「おめぇちょっと楽しんじゃねーの?ありがとな!」
「うっす!」
「こりゃあ、ちっとは進展か?」
「外壁になんとだ、杉浦拓史、と名前が落書きされていた。それがこの写真だ。」
「おー!確かに!はっきりわかるわ!」
「その女装バーに何か手がかりがあるんじゃないか、と俺は踏む。」
「で、どこにあるんや?」
「ええっと、住所がかいた名刺、名刺。」
「サリナ、へえ、可愛い名前ね。」
「サ、サ、サリナー!ひーっ!」
「どうしたー、兒玉!」
「夢で元カノにでも会ったんじゃないん?」
「兒玉は彼女っ気ないよー。サリナ?」
「あーっ!ほら!兒玉っちの取り調べのおねえの名前が!」
「山口紗里奈!サリナ!」
「やはり、もう一回見ますか。」
「智恵ちゃん、いいね?」
「もちろんOKよ。」
見終えた後
ピッ。
「高木のこの角度から見た、この笑顔、女装バーのサリナに似てないか?」
「やはり高木とサリナは山口紗里奈を通して同一人物やった訳やな。」
ピッ。
「ど、どっちでもいいけど、離してー!」
「そうね、今、どういう状況かしら?」
ピッ。
「どういう状況かがわかっていない、ということはつまり、高木と紗里奈は別人格ということか?」
「その可能性がありますね、むしろ高い。決定でもいいでしょう。」
ピッ。
「高木真広には別人格がいる。杉浦拓史と、山口紗里奈。サッリーナである。ラスボス杉浦を白状させる、あくまでもそれがこの事件の求められた目的だ。だがしかし!俺らの目的を忘れるな。」
「心を救う、心しかわからないという僕らの取り柄を生かしてですね!」
「そのために、まず紗里奈を救うわよ!」
「兒玉!お前は唯一紗里奈に会った。その時に何か感じたことを、全て言え!」
「えー、高木やと思ってたしー。見た目ではー。いや、ちょっと待って。」
「どうした?」
「僕の最初の聞き込み、高木を見かけたはず、でも住民が見た高木は、杉浦、紗里奈に人格が変わっていたから証言が食い違っていたんだ。」
「なるほど、それでどんなこと聞いたの?」
「ごみ出しをする半袖の高木を見かけた時に、遠くから挨拶すると逃げた。」
「夜中に女物の服をきて出歩くのを見かけた。暑い中いつも長袖を着ている。」
「お母さんのことを聞くと仕事に行く、と冷たく去った。前はもっと優しかった。」
「母親の介護をしているし、仕事はしていないんじゃないか。」
「おー、結構聞いたんだな。」
「どれもどうでもいいし、つじつまが合っていないデタラメかなと思っていたんですけど繋がりました。」
「でも気になった証言が、夜中に血まみれで立っていて、交番に通報した、とか。」
「あっ!それ西井さんの話と繋がる!」
「兒玉ー、もっと早く言え!」
「兒玉っちそのとき寝てたからー。」
「救急車は記録が残ってるだろうな。交番に通報か、なぜ脇谷は高木を知らない?」
「そこでまた、杉浦と紗里奈なんですね。」
「高木ではなく杉浦か紗里奈、どちらかの人格で救急車で運ばれた、か。」
「ここで西井さんの聞き込みですね。双子に見られていた。同じ顔でも違いがわかる程の明らかさ、ということです。」
「兒玉の証言と繋げるぞ。半袖の日、ごみ出しで逃げた。夜中に女物の服で出歩く、いつも長袖。仕事に行く、と冷たく去る。母親の介護中のため、仕事はしていない。」
「夜中に女物って紗里奈とちゃうん?」
「そうですね。出歩く、ということは女装バーに行って勤めていた、ですかね。」
「いつも長袖。これは高木も、よね。」
「仕事に行く、と冷たく去る。これは俺が思うに、杉浦なんじゃないか、と。」
「確かに高木っぽくないわ。」
「だが問題の反対の証言。母親の介護中で仕事はしていない。こっちが高木か?」
「関わり方も、行動範囲も全く違って逆に生活が成立していた、のですかね。」
「交番に通報。脇谷は高木を知らない。つまり杉浦か紗里奈と変わっていた。」
「夜中に紗里奈を見かけた住民がいた。紗里奈ではないでしょうか。」
「……それにしても暑くないー?」
「うちの部署は追いやられてるからなー。換気が悪い。上着脱げ!」
「クールビズですね。僕も長袖脱いでいいですか?あっ、二の腕にやけどの痕が……。」
「おう!ん?ちょっと待て……!」
「高木は暑いのにいつも長袖でしたね。」
「え?何かあるん?」
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