第3話

「腕の傷を隠すため、とかだったら……?」 

「半袖の時逃げた、に繋がるわ!」 

「ごみ出しの時、誰にも見られないと思ったからか。見られたら困る、まあ見せたいもんじゃないわな。これで引き出せるか?」  

「まだ早まるな。俺は脇谷に真相を確かめに行く。そして救急車の件の情報を得てくる。お前らは一課の情報になかった紗里奈の職場と、杉浦の仕事についての情報を二手に分かれかき集めよ!OK?智恵ちゃん?」

「OKよ!私は紗里奈が運ばれた病院を記録から探して当たってくるわね。」 

「はっ!」 

 

「おーう!みんな戻ってるかー?」 

「薬丸警部が最後ですよ!」 

「どうだった?さあ報告だ、まずそうだな、兒玉と森!」 

「兒玉、任せたで!」 

「はい。僕たちは女装バーで……〜」

 回想 

「いらっしゃい!あら、クルクルパーマでお腹出てる割にいい男ね。もしくはお仲間?」 

「こんにちは!突然ですが、サリナというひとが働いていましたよね?」 

「ちょ、直球すぎるて……。」 

「ええ、あなたは女ね。それで?サリナの何なの?」 

「何かサリナさんについて知っていること、全部教えてください。今、サリナさんは捕まっているんです。」 

「サリナが?なぜ?だから仕事に来る明け方前でも連絡がとれないのね。」 

「私たちはサリナさんを助けたいんです。どうか些細なことでもいいので。」 

「そうね、あの子は自分から言わないし隠していたようだけど、腕にひどい自傷をしていたわ。切った痕のようだった。」 

「そうだ、抱きつかれたとき、ちらっとそんな傷が……。」 

「早く言えよ!……でも、確定したな。」 

「それで他には?」 

「よく、更衣室でサリナが電話をしているのが気になって。男の声が聞こえたの。杉浦拓史、といってたわ。」 

「す、杉浦?」 

「電話の相手かしら。でもそれにしては大きく聞こえたわ。覗きはしなかったけど。」 

「どんな内容の話かちょっと、少しでもわかりますか?」 

「仕事。解雇。何度目だ。と言ってたのが聞こえたわ。間違いないのはそれくらいね。」 

「杉浦か。ちょっとわかってきた。」 


「そやな。」


「お?女装バーにいるのは紗里奈じゃないのか?」 

「紗里奈と杉浦は同一人物。相手とは考えられない。杉浦が電話していた、かな。」


「サリナさんのことよく見ていらしたんですね。」 

「いつも長袖で目立ったから気づいたの。それからも気をつけて見てたから。でも知っていることはもうないの。真っ直ぐなあなた、気にいったわ。クルクルパーマの彼は、また遊びにいらっしゃい。」 

「ありがとうございました!」 


「そやそや。」 

「そのうるさい合いの手いらんて。」  

「うん、よくやったぞ兒玉、森!!」 


「次は尾野君と西井!」 

「はい。手がかりゼロで、考えました!」 

「ほう、頭脳戦か!」 

「そうね。課長が集めた資料の通帳記録に疑問、杉浦が働いている。そこから介護の時間と紗里奈の働く時間を省いたの。」 

「智恵ちゃんナイス!それで?」 

「杉浦の思考を予測し、合理的に考えると紗里奈の職場の近くに杉浦の仕事場があるのではないか、と。」

「夜は時給、金も高いしな!」

「はい、紗里奈の職場から通りを抜けると工場がたくさんあって、渡り歩いていたの。でも信頼がなく近場ということもあって最近は転々としながら解雇され続けてた。」 

「あっ、仕事、解雇、何度目だ、がここて出てくるやん!」 

「仕事があった。違う考え方をすると、仕事が途切れないように必死。かなりの苦しさがあった。そして事件に至った、と。」 

「杉浦と接したひとは、冷たく、グレているような感じだと言っていたわ。」

「ですが、心の中では上手くいかずに悩んで葛藤してるようにも見えた、と。」 

「事件を起こし、高木にすっかり代わっている。この点から計画的犯行かしら。」 

「そうだな。確かに。」 

「あと、女装バーの落書きは、杉浦自身の名を残したい心理的欲求ではないか。」 

「聞き込みをした時、殺してくれー!と聞こえたと。死にたい、でも自分で死ねない。つまり死刑判決を望んでいたのかも。」 

「なるほど。あたしらでは手に追えんわ。」 

「それを確定に近づけるのが、今の杉浦なんですね。」 

「高木が出て、利益……名を残し死刑判決!不利益こそが杉浦の求めるものか!」 

「そうだね。高木に任せておけばいくら否定しても自然と罪となる。精神鑑定とかも逃れてしまえるんだ。」 

「そこが目的やったんや!……どゆこと?」 

「わかってないんかい!つまりだ。死刑判決をただ静かに待っている、苦しみながら。」

「そら、早よ動かなあかんやん!」  

「尾野、西井、ありがとうな!次は俺だ。」 


回想

「おう!脇谷!」 

「どうしたっすか?」 

「近頃、交番に通報がきて救急車で運ばれた山口紗里奈、って知らないか?」 

「ああ、あったっす。それも自分が夜勤が当たった日に。」 

「そうか!夜中に血まみれ、と聞いているんだが?」 

「腕を切ったようだったっす。名前を聞くとヤマグチサリナ、口頭で聞いたっすね。」 

「そうか。やはり山口紗里奈か。身なりとかはどうだった?」 

「暗かったのもあって、名前からして女か、と思ったんすが服装は男物で。声も身体も普通に男だったっす。」 

「ん?紗里奈らしくないな。」 

「どうかしたっすか?」 

「いや、率直に言うと、山口紗里奈の手がかりを探してるんだが、その話の内容が山口紗里奈っぽくないんだよ。」 

「そうっすか。自分の知っている範囲では救急車を呼んで病院に送っただけっす。自分は救急車には乗らなかったっす。」 

「何か気づいたことはあるか?」 

「そうっすねー。自分が現場に着いた時は、ぶつぶつひとりごとを言ってたっす。違う名前の給料明細を持ちながら。」 

「その名前って、杉浦、とか?」 

「そうっす!なんでわかるんすか?」 

「よし!脇谷、ありがとな!今度コーヒーおごるぞ!」 

「まじっすか。あざーっす!」 


「おかしいですね。」 

「ねぇ、話をちょっと割り込んでもいいかしら?」 

「どうした、智恵ちゃん!」 

「私も記録から病院をあたったの。そして山口紗里奈の運ばれた病院へ行ったわ。」 

「それでそれで?」 

「山口紗里奈は治療が全て終わる前に逃げてしまった、と。」 

「なんかあやしいやん?」 

「そして対応したひとが、普通の男のひとでしたよ、と言ったのよ。」 

「ますますおかしいぞ。いや、待てよ。反対に繋がるんじゃないか?」

「それが実は杉浦やった。いつ、どこまでが誰、とか決めつけん方がええんやな!」

「そう考えると給料明細、逃げた、男っぽい雰囲気、つじつまが合ってくるわ!」 

「女装バーの壁に杉浦の名前の落書き、杉浦が書いたと確定に近いあの落書きの件とも繋がってるわね!」

「ふと代わる時だってある。まあ逆に言えばそっちの方がかなりありえーるな。さて、情報が揃ってきたぞ。問題はまず、紗里奈をどう引き出すかだ。」 

「ちょっとかわいそうかもしれないですが、気にしている傷を見るとかは。」 

「長袖をめくってみるという手か。」 

「それも、じわじわとかより、パッと激しくやるとかどうや?」 

「俺は杉浦には感情をぶつけてみようと思っている。求めているものをお互い言い合う。逆に紗里奈は情に訴えてみるとか。」 

「そうですね。見ているだろう杉浦に手を残す意味でも、紗里奈の思いを引き出すにしてもいいと思います。」 

「兒玉の取り調べですんなり出てきた。引き出すことは出来る。でも女心……って難しいんだよな。変なところでライバル心があったり、引っかかったり。複雑な乙女心がある。あえて取り調べは男でいこう。」 

「さっすがー!恋多きプレイボーイや!」 

「お前、馬鹿にしてるだろ!」 

「僕、行こっかなー?」  

「兒玉ー!お前、抜ける気満々だなー!」  

「僕、行きます。」 

「どうしたー、尾野君!」 

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