第12話 【SIDEハウリー】小屋
「これは、あまりにも……酷いな」
「本当に、なんでこんなことができるのかしら」
ミシェラが住んでいたという小屋に、ハウリーとシュシュは二人で来ていた。
ミシェラはダギーとお留守番だ。
ハウリーが構いすぎるので、疲れた時には静かな男の方がいいだろうというのはシュシュの言葉だ。
ハウリーは自分がついていてやりたかったが、ミシェラの現状を確認しなければいけないという使命感から譲った。
これはかなり心が広い決断だったと、ハウリーは頷いた。
感謝してほしいと思ったが、ダギーはいつもの感情が見えない表情だった。
そんな気持ちで踏み入れた場所は、外から見た最初の印象通り子供が一人で住む場所ではなかった。
端の方にタライがあり水があるのとトイレらしきものが見える。隣には布団が敷いてあるが、血で汚れておりとてもここで安眠ができるとは思えないものだった。
布団とは離れた場所に、妙に綺麗な書類らしきものが机に置いてあるのが異様に感じる。
「白い髪だからって子供を迫害するだなんて、いったいどういう事なのよ」
あまりの扱いにシュシュが憤っているが、ハウリーも同じ気持ちだった。
ご飯を食べてにこにこしている少女は、ただの何もない子供だった。
こんな扱いを受けていいはずがない。
魔術師団は本来、この村では竜神と呼んでいるらしいドラゴンの調査に来た。
ドラゴンは知能が高く、信仰の対象でもあるので向こうが攻撃してこない限りは様子見である。
竜神の事をドラゴンと呼ぶので、この村は魔術師団の事を歓迎していない。もちろん、滞在中にドラゴンが村へ降りて攻撃をしてきた場合には討伐対象である。
気が乗らないながらも、万が一ドラゴンが出てきても対応ができる第五師団のハウリーたちが調査に派遣された。
しかし、調査中に白い子供が現れたことで状況は変わった。
「ミシェラはどっちにしても、こちらで保護だな」
「それはそうですね。こんな所にこれ以上いる必要なんて全くありません。……それに、あの髪」
「白が出るのなんて、相当な魔力量だ」
そういってハウリーは自分の髪の毛を撫でた。
銀髪の中でひと房の、白い髪の束。
「師団長より白いですね」
からかうようにシュシュが言うと、ハウリーはムッとした。
「私は幼少で魔力のコントロールを学んだから白化が止まったのだ。彼女は真っ白だし、目にも出ている。当然彼女は魔力のコントロールは学んでいないだろう」
「生贄、と呼んでいましたね。……最低だわ」
先程捕まえた村人は、ミシェラの事を生贄にするために生かしてやっている、と言っていた。
咄嗟に殴ってしまったけれど、なおしてやっただけ感謝してもらいたいと。
「回復もさせていた。しかも、直接魔力を流すやりかたで」
「直接魔力って……。そんな事をしたら、回復はするけど魔力回路が痛んで激痛が走るはずです」
「怪我をした私にも魔力での回復を使ってくれた。私を心配させないようにか、何事もないような顔をしていた。ただし、痛むのは間違いない。自分の痛みを隠すのは相当うまいとしか言いようがないな」
ミシェラが使っていた回復は、魔術という術式を介していない乱暴な方法だ。
回復魔術が使えなくても、その方法であれば回復するがもちろん使うものは居ない。
ハウリーも見たのは初めてだ。
身体に相当な負担が来るはずなのに、ミシェラは全くそれを見せなかった。
ハウリーの怪我を治し、楽しそうに笑った彼女の顔が浮かび余計にむかついた。
「魔力はきっと膨大で間違いない。大きなことになるかもしれないな」
「そうですよね。変な風に利用されないようにしたいですね。……でも、不思議だわ。あんな子をドラゴンに与えたら、逆に危ないんじゃないかしら」
「魔力が豊富になって暴れそうではあるが。……そんなところまで考えが及んでいるとは思えない」
「たまたま魔力が満ちて、ドラゴンが満足した時があったのかもしれませんね」
魔術師団がきている中で、魔術師団が興味を示している子供を襲おうという馬鹿だ。
ミシェラの状況を見るため、村長を油断させようと一人で帰らせたが、あんな目に合わせてしまうとは。
間に合って本当に良かった。
ただし、日常的な暴力の気配はした。
同じ目に合わせるのがいいのか? それよりも信仰をつぶすべきか。
心を折らせるには信仰の方がいいかもしれない。
それに、村人たちに自分たち魔術師団を怒らせたのが村長だとわかれば、不信感も募るだろう。
「……ドラゴン、倒しとくか」
ハウリーが結論を出すと、シュシュが慌てる。
「やめてください! いくら師団長でもドラゴンの討伐は危ないですから」
「でも暴れたら倒そうかって話だったし」
「もともと準備はしてきてますけどね!」
「それよりも、ドラゴンが暴れたところで帰るのがいいかな」
「危ない事ばかり言わないでくださいよ本当に」
まったくーと呟くシュシュに、ハウリーの本気は伝わらなかったようだ。
「そうだな気をつけよう
「彼女は見習いとして誰かの下につけるのがいいかもしれませんね」
……誰かに渡せるのだろうか。
自分の中にある妙な執着心を感じ、ハウリーは思うままを口にした。
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