呪われた骨董品
その店はもうずいぶん古い建物だった。
通りすがりの魔法使いは廃墟のような佇まいの店がなぜか気になり足を踏み入れることにした。
中は外見と同じく古びておりボロボロの壁紙が何ヵ所と剥がれている。
いまにも崩れそうな棚には壊れた人形や銅像、煤だらけの陶器がなどが無数に並んでおり、そうとう年期が入っているのがわかる。
ここは廃墟だろうか。
「いらっしゃい」
そんなことを考えていると奥のほうから声がした。振り向くとそこには髭を生やしたしわくちゃだらけの老人がランプを照らしながら立っていた。
「ここはどのようなお店ですか?」
魔法使いが尋ねる。
「見ての通りだよ。いわくつきの骨董店さ」
老人は骨董品をランプで照らしながらこたえる。
「いわくつき?」
「そう。いわくつき。ここにある骨董品は呪われているのだよ」
「呪われている? それはどういうことですか?」
「おやおや、お客さんは興味津々だねえ。どれどれ話して聞かせようかのお」
そういいながら、老人は愉快そうに笑う。その笑顔が魔法使いには不気味でならなかったのだが、好奇心が勝ったために老人の話を聞くことにした。
ここにある骨董品はすべて何百年も前の品物らしい。ようするにこの大陸で大きな戦争が起こったとされる時代のもので、そのとき死んだ人たちが所持していたものばかり。
心半ばで死ぬことになった人間たちの怨念が宿り、身近にあると災いをもたらす代物だそうだ。
「それが本当ならば、ご老人も多くの災いに見舞われたのではないか?」
魔法使いが尋ねると老人が愉快そうに笑う。
「それはそれはいろいろありましたよ。死にかけたことも数知れず」
「ならば、なぜ呪われた品物をこのようにたくさん集めたのだ?」
「それはワシの趣味じゃ。呪われたという響きに弱いものでのお」
趣味?
なんとも変わった老人だと魔法使いはますます興味がわいた。
「では、ご老人、この呪われた骨董品を手にいれた経緯を教えてくれぬか?」
「ほほほほ。ワシも変わり者と呼ばれるが、お主もそうとう変わり者よのう」
その言葉に魔法使いが口許に笑みを浮かべる。
「ならば話してしんぜよ。このおいぼれの大冒険を聞いてくれ」
そういって老人は語り始めた。
それは本当に波乱万丈な冒険の物語だった。もちろん老人ひとりで冒険していたわけではない。多くの仲間たちと共に“呪われた骨董品”を求めて大陸中を旅したのだという。
そのなかで仲間たちを多く失った。
それでも探すのをやめなかった。
やがて、現存する“呪われた骨董品”をすべて回収することに成功する。
「ここにあるのがそのすべてか?」
魔法使いがたずねる。
「いやすべてではない。集めた“呪われた骨董品”はとある人物に頼んで封印してもらったのじゃ。ここにあるのは比較的“呪い”が小さい品々のなかでわしが気に入ったものでのお」
「売り物ではないのですか?」
「当たり前じゃ。だれが他人を不幸にするものをわたすものかい。魔法使いさん。そろそろ出たほうがよいぞ。いつまでとここにいては呪われちまう。さっさと帰りな」
語るだけ語った老人はそのまま奥へと引っ込んでいった。
「そうですね。私も呪われたくありません」
魔法使いもまた店を出ることにした。
それからしばらく歩きふいに店の方を振り返った魔法使いはすでに店がなくなっていることに気づく。
「おやおや、あの店自身が“呪い”だったのかな? それとも幻でもみたのでしょうか? どちらでもいい。楽しい冒険を聞かせてもらって私は気分がよい」
そうつぶやくと魔法使いは再び歩き出した。
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