とある“鍵”と鍵師の話

 その鍵師は世界で名を馳せる男であった。


“鍵師”という職業は、誰でもなれるわけではなく世襲制で代々引き継ぐことが多い。彼もまた代々“鍵師”という家系で生まれた。


 ゆえに彼にとって、“鍵師”という職業は当然なるべき運命なのだ。


 その才能は幼い頃から発揮され、数えきれないほどの鍵を作り出している。その性能は各国の王家さえも絶賛するものであり、世界中から注文が殺到するほどであった。ゆえに彼は世界中を旅をしてあらゆる“扉”や“箱”の鍵を作り出していった。


 そんなある日、鍵師はひとつの“鍵”を生み出した。


 その“鍵”は“神領の鍵”とよばれ、手に入れれば絶大な力を得る“扉”を開くことができるという。それゆえにあらゆる者たちが彼の“鍵”を求めるようになった。


 もちろん鍵師はその“鍵”を決して渡そうとはしない。


 だからといって、その“鍵”を自ら使うわけではなく、ただ大切に持っていたのだ。


 だれかが


「なんのためにその鍵を作ったのか?」


 と尋ねた。


 すると鍵師は、


「これを生み出したのは偶然です。まさか世界を変えるような力をもつとは思いませんでした。だけど、これも私の宿命でしょう。いずれ、この“鍵”を本当に必要とするものが現れるはずです。そのものが現れるまでは決してだれにも渡すつもりはありません」


 そういって、“鍵”を大切に握りしめるのである。


 それからどれほど時が流れたのだろうか。


 鍵師は老いていき、その“鍵”は鍵師の子供へと引き継がれた。その子供も決してその“鍵”だけはだれかに渡そうとはせずに自分の子供へ引き継いだのだ。


 それから何代も何代も“鍵”は親から子へと引き継がれていき、何百年もの時がすぎていった。


 長い時が過ぎて、ついに“鍵”を使うものが現れた。


 それは他人ではなく、鍵師の子孫である鍵師であった。


 鍵師はある一国の王子とともに世界を救うために“鍵”を使ったのである。


 そして“鍵”はその世界を救うとともに消えていった。


 その後、世界を救った鍵師はある国の小さな村で家族とともにひっそりと暮らしている。






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