ともだち

 マリアとアンナが出会ったのは十歳のころだった。


 ある日突然マリアがアンナのクラスに転入してきたのだ。


 マリアはとてもおとなしい性格で、クラスの子達が彼女に気を使って積極的に話しかけたり、遊んであげたりしたが、なかなか馴染むことができなかった。


 なかなか心を開かないマリアに対して親しげに話開けていたクラスメートたちも、まるで彼女がいないかのような扱いをするようになっていった。


 ただアンナだけが彼女を気にかけていた。


 それはアンナとマリアの通学路が同じだったために、自然と一緒に帰ることが多かったからだ。だからといって、マリアが話すということはない。ただアンナが一方的に話をするぐらいなものでそれに相づちを打つぐらいなものだった。そんなマリアをつまらない子だと離れていく人もいるのだが、アンナは嫌いではない。


 言葉は少ないけれど、マリアがちゃんと聞いてくれるとわかっていたからだ。


 楽しい話をすると笑ってくれることにアンナにとっては嬉しいことでとあった。



 そんなある日、いつものように一緒に帰宅しているとマリアが突然泣き出した。


 どうしたのかとアンナが尋ねるとマリアはポツポツと話し始めた。


「私ってここにいていいのかしら? 私はいないほうがいいんじゃいかな」


「どうしてそんなこというのよ。そんなわけないじゃないの」


「だって、皆いうのよ。あんたなんていなくなれって! あんたみたいな暗いやつを見るも不愉快だって」


 そういって泣き出す。


 アンナは呆然とした。知らなかった。そんなことをいうクラスメートがいたことにまったく気づかなかったのだ。


「なによ! それ! そんなこといったのはだれよ! 最悪! 気にしちゃだめだよ。マリアはいていいんだよ。少なくとも私はあなたが必要よ。だから泣かないで」


 アンナがそういうとマリアは嬉しそうに微笑む。

「ありがとう。アンナちゃん」


「大丈夫。私がいるわ。ずっと私がいるから」


 そういってアンナはマリアに手を伸ばす。


 マリアは涙をぬぐいながら、アンナの手をとる。


「行こうか」


「うん」


 二人は笑いながら走り出した。


 それからマリアとアンナはいっそう仲良くなっていった。


 けれど、その数年後中学生に入ったときに亀裂が生じたのだ。ほんの些細なことだったのに、大喧嘩となり口を利かなくなってしまったのだ。やがて中学を卒業するとマリアはどこかへ引っ越していってしまい、マリアとアンナが会うことがなくなった。



 それから15年が経つのだが、アンナは時折彼女のことを思い出す。その度になぜあのように彼女とけんかをしてしまったのか、もう一度彼女に会って謝ることができないかと思い悩み続けている。


だけど、マリアがどこへいってしまったのかわからない。


謝りたい。


またあの日のように仲良くなりたい。


そう思いながらも月日がただ流れていくばかりだった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る