第12話 呪いの姫
従業員を除いた客の数は、800人程。
その4割が術師だから300強って所だ。
その中で10才以下の子供は100人弱。
皆、真剣な表情を浮かべている。
まるで、僕が魔法師団入団の試験を受けた時みたいだ。
この世界風に言うなら受験日って所かな。
土御門家。
陰陽師の一族で、安倍晴明を源流に持つ。
現在の日本の異能社会では、名実ともにトップと言える家だろう。
セリカちゃんが来る前までは、国防も彼等の仕事だったらしい。
でも、セリカちゃんに仕事を奪われて焦ってる。
毎年、優秀な子供を迎え入れる位。
ただし、それに否定的な家は少ない。
殆どの家系の人間はこの試験の突破を子供に期待している。
ここで土御門に認められれば、その子供の家は分家扱い。
しかも、かなり近い縁を得る事になる。
異世界風に言えば、政略結婚に近い意味がある。
けどまぁ、僕はこれに合格するのが目的じゃないし。
でも、要るのに参加しないのも不自然だから。
ちゃちゃっと終わらせるか。
「ふむ、最初の挑戦者はお主か」
土御門家現当主。
白い髭を携えた爺さんが、僕を見て言う。
「名を聞こうか」
「試験の後、優秀だったら憶えて下さい」
「……まぁ、取らぬ者の名を憶えても仕方のない事よな」
そんな会話をしている間に、龍網と僕の間にセッティングがされていく。
テーブルが運ばれてくる。
人の頭より1回り小さい程の白い宝玉が10個。
数珠の様に机に広げられた。
「手を翳し、最大限に魔力を放出せよ」
試験の内容は聞いてなかったけど。
なんだ、ただの魔力測定か。
言われた通り僕は手を置いて、魔力を翳す。
目の前に在る一つ目の宝玉が黒く染まる。
次に、左右に有った宝玉の一部が黒く染まった。
それで、止まった。
「ふむ。使えんな」
そう吐き捨てられて、僕の番は終わった。
僕の魔力量はその宝玉2つ分って事だ。
でもこれで、宝玉の強度は分かったな。
無言で僕は下がる。
これで、仕事に集中できる様になった。
次の奴が、4つ黒く染めた。
その次の奴は6つ。
次の奴なんて7つだ。
マジ、僕才能ねぇな。
まぁいいや。
魔力感知を最大限で使う。
セリカちゃんから聞いた過去の傾向的に、事件が起こるのはこのタイミングだ。
動機は主に2つ。
良い結果を出した子供を攫う事。
もしくは良い結果を出した子供を殺す事。
前者は外部の犯行の可能性が高い。
攫って、自分たちの組織の勢力を拡大しようって事だから。
でも後者は、内部の犯行の可能性が高い。
自分の子供より良い結果を出した子供を殺す。
まぁ、1番になるなら常套手段だ。
さて、妙な動きする奴は……
二階のバルコニーから、俯瞰的に会場を見る事にした。
すると、隣に誰かが近づいて来る。
それは、黒いドレスを着た僕と同じ歳くらいの女の子だった。
「一番最初に行くから、随分自信があるのねって思った。
けど、やっぱり大した事無かったわ」
彼女は、僕に開口一番そう言った。
「初対面だよね?」
黒髪黒目の大和撫子を思わせるビジュアル。
黒いドレスは洋物で、紫色の蝶型の簪を付けている。
「そうよ」
「何か用?」
「可哀想だから慰めてあげようかと思って」
「全然慰めの言葉じゃ無かったんだけど」
「じゃあ頭でも撫でて上げようかしら?」
「もっとお姉さんを希望したいな」
「生意気ね」
「そっちこそ」
随分と自信に満ち溢れた少女だ。
しかし、その理由も納得できる。
見れば分かる。
この少女は恐らく呪術師だ。
そして、内包する呪いの量はこのホテルの誰よりも多い。
「ねぇ、注目株とか知らないの?」
僕がそう聞くと、ドヤ顔で彼女は答える。
「そうね。
実際の所、この儀式は殆どの子にとっては出来レースなのよ」
「まぁ、良くある話だよね」
「格家の当主たちはもう注目株を知ってるの。
今回選ばれる可能性がある家は6つね。
それ以外は、負ける事を理解した上で、でも参加しない訳にも行かないから流れで参加してるだけ」
付き合いって言い方があってるか分からないけど、それに近い感じなのかな。
「ほら、今参加してるのがその6つの内の一つ目」
赤い髪の少年が、宝玉に手を当てる。
瞬間、8つの宝玉が黒く染まる。
9つ目も、少し黒くなっていた。
「へぇ」
「あれは、
長男だから、死ななければ確実に当主ね」
「この試験で合格しても、家督は継げないんじゃないの?」
「それは無いわね。
合格するのは、私だから」
「自信有り気だ」
「分からないの?」
彼女の中の呪いが僕を睨む。
あぁ、分かるよ。
君の能力の高さは。
でも――この勝負に勝つのは君じゃない。
「あれが、水宮家。
あれは雷堂ね……」
と、他にも有力な候補を教えてくれる。
6人の内、5人教えてくれた。
僕の知ってる人は当然一人も居ない。
「それで、6人目は君って訳か」
「えぇ、憶えて置きなさい。
土御門輝夜、それが私の名前」
合格した前提の名前で、彼女は名乗る。
自信満々だね。
でもま、あのお爺さんの前では「
彼女は全ての宝玉をドス黒い黒で染めた。
会場がざわつく。
現状出た人間の中では、1位の成績。
ざわついたのは、他の5つの家の親とその取り巻きだ。
他の5つの家の子供は全員、宝玉を8と少し染めた。
誰が選ばれるのかは微妙な成績だ。
だが、輝夜はそれを全員抜いて10を出した。
満点を見て。
他の家の者共が、まるで狙いを定める様に。
輝夜を見る。
今、僕の守護対象が決定した。
輝夜は親に褒められながら、僕をチラリと見た。
また、ドヤ顔してるし。
でも、その自信の籠った瞳は別に嫌いじゃない。
子供らしくして、英雄みたいだ。
けれど。
君の力は所詮呪いだ。
魔力は後天的に増える事は無い。
だが、呪力は呪われた量に比例して増えて行く。
――嫌われ怖れられる程、その呪力は増して行く。
君に呪術師としての才能がある事は認めよう。
でも、人間という種族には、そんなに大きな呪いを耐えきる力は備わって居ない。
君の心はいつか死ぬ。
それは、君を支えるプライドが折れた時。
君がトップから転落した時だ。
そしてその時は、もう傍まで近づいている。
「あれ、貴方も参加してたんだ」
「やぁ、久しぶり」
僕は知っている。
「ダンス教えてくれてありがと。
褒められちゃった」
この勝負に勝つのは、哀沢輝夜じゃない。
この勝負に勝つのは……
黄金に輝く魔力を持った彼女だ。
「瑠美……だったよね」
「うん」
「君は行かないの?」
「私は最後でいい。
緊張するし、それに私は皆と違ってただ使えるってだけだから。
修行とかもした事ないし。
絶対選ばれないから」
前世の勇者すら越える。
極大の魔力。
僕の目を魅了して仕方ないそれを持ちながら。
けれど、放出が仕方が分からないから、その才能に僕以外は気が付いていない。
けれど今宵。
あの宝玉の御前で、その才能は晒される事になる。
「そう言えば、君の家族は?」
「お母様は一緒に来てるよ。
お父様は……居ないから」
そう言った彼女の視線を追う。
すると壁際でグラスを握り込み、落ち込んでいる様にも見える母親らしき女性が居た。
止まってないから、彼女も術の心得があるのだろう。
「そっか」
「残念だったね。
一番最初だったのに」
「まぁ、分かってた事だから」
「それでさ、さっき話してた子だれ?」
「あぁ、輝夜ちゃんって名前だって。
初めて会ったんだけど」
「へぇ、あぁいう子が好きなんだ」
「何言ってんの?」
「別に」
そう言って母親の元に帰っていく。
何しに来たんだろ。
「さて、僕もそろそろ仕事をしよう」
今回の仕事は、未然に事件を防ぐ事。
事件を発生させない事だ。
後手に回る訳には行かない。
「取り合えず怪しい奴が30人くらいいる。
適当に処理して行くか」
殺しはしないから、もし間違ってても許してくれ。
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