第10話 機械学習


 夏休みが終わり学校が再開された。

 けれど、僕の生活に大した変化はない。


「今度東京にお出かけするらしいから、お洋服買っておきましょうね」


 母さんと妹の楓華、弟の春渡。

 3人を連れて買い物に来る余裕もある。

 因みに、例のパーティーの招待状はセリカちゃんの事務所に言った3日後には届いた。


 手の早い探偵だ。


 招待状は実際に天羽家の親戚から送られてた。

 しかも相手は父さんの働く会社の重役。

 これじゃ、父さんも断る事はできない。


 これも全部、計算なんだろうな。


「ねぇにいに、これ似合う?」


 そう言って服を自分の身体に当てて見せて来る妹。

 まだ4才なのに。

 ちゃんと喋れるし、おしゃれも分かる。


 天才だ。


「楓華はなんでも似合うね。

 こっちとかもいいんじゃない?」


「んー、これも可愛いー」


 そう言って試着室に入っていくのを見送る。

 今度は春渡も話しかけて来る。


「兄ちゃん、俺あんまり外好きじゃない」


 そう言って僕の腕を握って来る。

 可愛い。


「服とか良く分かんないし」


「あぁ、じゃあゲームセンターでも行く?

 一緒にあれやろう」


「ゾンビ殺す奴?」


「それそれ」


「やる」


 春渡は頭が良い。

 だって、4才でゾンビ殺せるんだぜ?

 天才だろ、どう考えても。


 将来はあれだな、天才スナイパー。

 いや、危ない事はして欲しくないから、科学者とかいいかも。

 一人でコツコツやるの好きみたいだし。

 ゲームやってるのよく見る。


「母さん、春渡の服も僕が選んでおいたから」


 籠に入れた服を渡して、母さんに予定を伝える。


「ちょっと近くのゲームコーナー行ってくるね」


「2人で大丈夫?」


「大丈夫だよ心配しないで。

 僕、お兄ちゃんだから。

 それに、これもあるからね」


 つい先日貰ったスマホを見せると、母さんは許可を出してくれた。



『ステージクリア』


 の文字を見ながら、春渡が呟く。


「兄ちゃん強すぎ……」


「協力プレイなんだからどっちが強いとか無いよ」


「いや、スコア全然違うし……」


 そんな事を話していると、いきなり肩を掴まれた。


「おい、終わったならさっさと変われよガキ」


 何処かの高校の制服を着た2人組。

 ガラの悪そうな顔つきの男だ。


 肩を回され、視線が合う。


「なんですか?」


「並んでんの、オレ等。

 さっさと変われ」


「200円で2プレイだから、まだ残ってるんですけど」


 そう反論してみると、もう一人の男がゲームの筐体を蹴って言った。


「知らねぇよ」


 怯える様に春渡が僕の後ろに隠れる。


「兄ちゃん……」


 春渡が、怖がるような声で言う。

 不安そうな表情で言う。

 泣きそうな顔をして。


「あぁ、ごめん」


 精神干渉系支配術・睡眠スリープ


「僕さ、お前等より弟の方が大事なんだよね」


 膝を折った男たちの耳元で、そう呟くと。


「「うっ……」」


 白目を剥いて、男たちが気絶した。


「……何したの?」


 不安そうに春渡が僕の服を掴むから。


 僕は笑って嘘をついた。


「何もしてないよ。

 でも、他の人には内緒ね。

 約束、春渡は守れるかな」


 そう言って頭を撫でると、春渡は元気に返事をした。


「うん、内緒にする!

 兄ちゃんかっこいい」


 ただ卑怯なだけだよ。

 魔術が無いと何もできない。

 でも、そんなズルい力を些細な自分の目的の為に使う。

 そんな、卑怯な人間だ。


「店員さん、この人たち寝ちゃってるみたいなんですけど」


 そう言って、店員に学生たちを医務室まで運んでもらって、僕等はゲームを再開した。


 ゾンビシューティング以外のゲームも幾つかやったけど。


「対戦系全部負けた……」


「いやいや、全部惜しかったよ。

 もうちょっとで負けそうだった」


「なんか、手ぇ抜いてる感じしたけどね」


「そんな事ないよ」


 買い物を終えた母さんと楓華に合流した。

 似たタイミングで、父さんも仕事を終えてやって来た。


 今日は外食だ。

 リビングで皆で机を囲むのも好きだけど。

 ……こういうのも好きだな。




 ◆




「何か良い事でもありましたか?」


 探偵事務所の上にある部屋。

 僕用の部屋が一つと、隣はキキョウの部屋だ。

 セリカに頼んで部屋を貰った。


 送り迎えはキキョウ。

 片道30分だから、学校の日はそんなに長くは居れない。


 でも、この設備がある。

 それだけで、進歩の幅は大きくなった。

 そう確信している。


 家で、魔術や科学の設備を揃える訳には行かない。

 それに、ここならキキョウが居るから宅配も大丈夫だ。


「レストランのハンバーグが美味しかったってだけだよ」


 キーボードを叩きながら、画面を睨んでそう答える。


 なんで、こんなにムズイんだよ。

 プログラムコードってどう書くんだ。

 つうか、なんでプログラムコードに種類がこんなあるんだよ。


 一個にしろや。


 バグった……

 データ飛んだ……


 発熱がやばい。

 あぁ、色々やばい。

 魔術始めたての頃くらい失敗する。


 めっちゃ楽しい……


「好きなんですか?

 私作れますよ」


 何の話だっけ。

 あ、ハンバーグだ。


「うーん、別に」


「貴方に子供らしさを期待した私が馬鹿でした。

 あと、タイピングが早すぎてキモイです」


 何言ってるんだろう。

 ランドセルかるってるのに。

 どう見ても小学生だろ。


 指小さいのに頑張ってるんだよ。

 褒めろ。


「ていうか、なんで僕の部屋に居るの?」


「監視……?」


 なんでそっちが疑問形なのかな……


「しかし、あれからまだ一週間なのに色々物が増えましたね」


「だって、セリカちゃんのキャッシュカード好きに使っていいって言うんだもん」


 それは使うよ。

 電子機器類に加えて魔術用の素材。

 家族がカードになってるんだ。

 使う事に後ろめたさは欠片も無い。


 それに、準備はできうる限り全てする派だ。

 僕のような凡人は、そうしないとだめだから。

 そうしないと、守りたい物も守れない。


「貴方なら、魔術で電子機器にハッキングとかもできるんですか?」


「まだ無理」


「それは、何れできるという事でしょうか?」


 うーん。


 僕はキーボードを叩く手を一瞬止めて、指を鳴らす。

 瞬間、部屋の電気が消えた。


「これをハッキングって言っていいなら」


 召喚術で魔力を電気に変換。

 ワット数とかを調整して、流し込む。

 消すだけならオーバーヒートさせればいい。

 操作も一応、オンオフ程度ならできる。


 もう一度指を鳴らして、電気を点ける。


 でも、OSは無理。

 どう操作していいか分かんない。

 それにはまず、プログラムコードの勉強が必要。


 というか、そもそもCPUがどういう原理で動いているのかを理解しなきゃいけない。


 思ったより、時間は掛かりそう。

 でも、少しなら分かって来た。

 一つくらいは、次の仕事までに完成させる予定だ。


「パソコン、貴方の時代にもあったんですね」


「いや、僕が元々居た世界にはこんな機械は無かったよ」


「……世界?」


「うん、僕異世界出身だから」


 そう言うと、キキョウは驚いた様な顔をして言った。


「……どうしてそんなに魔術に没頭できるんですか?」


 僕は家族を思い出して、答える。


「見えていない振りをして。

 ただ、逃げてるだけだよ」



 それから数週間後。

 とある一つのアプリケーションの開発が成功した。

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