第5話 黄金魔力
小学校に上がった。
母親が僕のランドセル姿を見て号泣する。
父親もうるうるしていた。
弟と妹。
ホームイズ阿鼻叫喚だね。
それを見て、僕は申し訳なさに苛まれる。
けど、まだ僕の秘密を言う訳には行かない。
家族を悲しませたくないから、なんて……言い訳かな。
小学校になって、放課後に公園とかで遊んでいても怒られないようになった。
一人だと心配されるので、友達と一緒だと言ってある。
小学校に友達は一人も居ないけど。
家での魔術の修練は、見た目に出ない物しかできなかった。
でも、ここでなら多少はそう言った魔術の修練ができる。
例えば、鉄棒やブランコを筋力強化で効率的にやってみたり。
例えば、魔力を浸透させた砂を操って城を作ってみたり。
よく見ればおかしいけど遊びの範疇だ。
詳細に覗く人間も少ないし。
見ても、見間違いだと思う程度の魔術。
これで、魔術を更に効率的に鍛えられる。
公園にある砂、水、風、陽等の環境要素。
それを操る魔術の実験は効果的だった。
いつも一人で遊んでいる根暗な奴、そんな印象をクラスメイトや教師、周りの大人に抱かれる。
その程度のデメリットしか存在しない。
そんな、特別変わった事もない平和な毎日を送っていた。
そんな時。
その子は現れた。
夕暮れ時に、その子は一人で公園に来た。
黒髪が殆どの日本人の中で。
僕と同年代でありながら金髪の少女。
それだけで目立つ。
けれど、それ以上に僕の瞳を魅了したのは。
少女の中に眠る、圧倒的な魔力の奔流だった。
総量で見れば僕の百倍以上。
前世の英雄と比較しても、異常な魔力量。
それをその少女は宿していた。
その子は友達と来ている訳でもなく。
一人でやって来て、一人で何かの練習をしている。
多分、あれはダンスなのだろう。
ここは市の境にある公園。
複数の小学校の子供が混在している。
その子は、僕とは違う小学校の子だろう。
学校で一度も見た事無いし。
「にしても、絶望的に下手だな」
ぽつりと、僕がそう呟く。
それが、聞こえてしまったらしい。
「はぁ?
何よ、あんた!」
腰に手を当て、高圧的にその子はそう言った。
子供の癇癪に付き合うのも馬鹿らしい。
彼女の言葉を無視して、僕は勝手に話す。
「それ、相手が欲しくならない?
社交ダンスってそういう物だし」
一人で練習しても効果半減だ。
暗にそう言って、誘ってみる。
「僕も手伝っていいかい?」
そう問いかけると、彼女は驚いた。
「え……?」
困った顔でそう言う。
「それって、私と踊ってくれるって事?」
「そう。
まぁ、僕も上手い訳じゃないけど。
君の練習台にでも使って」
「いいの?」
何故か、不安気に彼女はそう聞いて来る。
「いいよ」
「じゃあ、お願いするわ」
そう言った彼女に僕は手を差し出した。
彼女がその手を取る。
一応、貴族たちのパーティーに出席した経験も何度かある。
ダンスは憶えさせられた。
この世界のそれとは少し違うだろうけど。
基本的なリズムは似たような物だろう。
それに、この子を放置はできない。
「あのさ」
「なに……」
踊り始めても、彼女は足元を見ながら、たどたどしくそれを続ける。
僕の声も、あんまり聞こえて無さそうだ。
「リズムを取るのに適したやり方を知ってるんだ」
そう言うと、彼女は少しだけ僕と目を合わせてくれた。
「どうするの?」
「任せて、君はただ身を任せてくれればいいから」
「ん……?」
僕は制御術を発動させる。
魔力を少しずつ彼女へ流す。
更に支配術に転じさせる。
僕が絶望的に下手と言ったのは、ダンスの事じゃない。
この子は、魔力を全く制御できていない。
放置すれば、不慮の事故を起こすだろう。
魂の魔力上限と肉体の魔力上限のズレ。
そこから発生する魔力の暴走。
怪我で済めばいいけど、死ぬ事もある。
でも、僕ならそれを未然に防げる。
「なんか、身体がぽかぽかする」
「うん、それに抵抗しないで。
その揺れに合わせて、身体を動かせばいいよ」
波を付けて、魔力を送信する。
そこから、彼女の魔力へ干渉していく。
魔力の循環経路をゆっくりと辿らせ、その身体に魔力の制御の方法を感覚的に理解させていく。
同時に身体を動かす事で、魔力操作と身体操作の紐づけも行っていく。
ダンスっていうのは丁度いい内容だ。
「足が勝手に動く」
そりゃ、僕が魔力を操って君の運動を誘導してるからね。
でも、そんな事は言う訳にはいかない。
「お互いのリズムを合わせるのが大事だよ。
自然に、直観的にやってみて」
「……うん」
青い瞳が僕を射る。
奥底に見える、怪物にしか思えない魔力の深淵。
笑うしかない程馬鹿げた量だ。
「楽しい?」
笑ってる僕を見て、彼女はそう聞いて来る。
「うん、可愛い子と踊るのは楽しいよ」
「うぅ……しょんな事……」
恥ずかしそうに赤面させた顔を流し見する。
魔力操作を続行した。
何度も揺らして、魔力を操るという感覚を直観的に会得させていく。
1時間程で、彼女の魔力の揺らぎはかなり落ち着いていた。
ちゃんと、身体を循環して定着してる。
「ありがと!
今日だけで凄くうまくなった気がする!」
公園のベンチで隣同士に座り、彼女は嬉しそうにそう言って来た。
「それは良かったね。
でも、なんでダンスなんて?」
「今度、お爺様の家でパーティーがあるの……
その時、お父様とお母様が恥ずかしい思いをしないようにしなきゃだから」
「なるほどね。
役に立てて良かったよ」
この世界にも、貴族的な文化があるのか。
いや、正確には残っているのか。
「褒めてあげるわ」
「どうも」
健気で両親思い。
最近の小学生にしては、かなり珍しい部類かもね。
「後、さっきから凄く体の調子もいいの。
もっと、練習できそう」
わくわく。
きらきら。
そんな擬音が聞こえてきそうな目で、彼女は僕を見た。
マジ……?
「もうちょっと、付き合いなさい!」
「うん……分かったよ……」
諦めた表情で、僕はそう言うしか無かった。
「そう言えば君、名前なんて言うの?」
「私、
「憶えておくよ」
その後、瑠美に3時間程ダンスに付き合わされた。
でも、そのお陰で魔力操作はかなり上手くなったし。
ダンスの方も、良い感じだ。
6歳児がそこまで踊れれば、文句を言う様な大人は居ないだろう。
「そのね……
手伝ってくれて、ありがとう!」
花が咲く様に、子供特有の笑みを彼女は浮かべる。
「お礼。
好きな男の子にはこうしなさいって、お母様が」
ちゅっ。
「え……?」
僕の頬に、彼女は自分の唇を付けた。
「えへ……」
なんというか、相手は子供だ。
別に他意は無いだろうし。
有っても無視するのは確定してる。
だから、適当に流す言葉を紡いだ。
「ありがとう、嬉しいよ」
「うん、またね!」
逃げる様に彼女は走って公園から出て行った。
一体、どこの子だったんだろう。
少し気にはなるけど、調べるほどでもない。
僕は、そのまま家に帰った。
◆
「3年振りですね。
待っていましたよ」
僕の家の前で、僕の帰りを待つ様に。
ピンク色の髪を靡かせて、その女は居た。
前に見た時より、少しだけ大人びた。
僕に向けて拳銃をぶっ放して来た女。
「確か……キキョウさんだっけ?」
「篠乃宮さんから、手紙を預かっています」
そう言って、僕へ便箋を投げ渡した。
それをキャッチして、キキョウを見る。
「僕へのお願い、決まったんだ」
「中身は私も知りません。
でも、開封時には同席しろと。
その様に言われています」
「だったら開けるね」
玄関前で、僕はその手紙を開けた。
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