1-2:白の世界


「美しいに深いでみみちゃん、かぁ。綺麗なお名前だねぇ」


ひょこひょこと跳ねる三つ編みを追いかけるように、美深はその後ろに付いて歩いていた。校舎を含めた全ての建物が白を基調にしているのか、2人を囲む景色は異様な白さが目立っている。校舎まで続く桜並木だけが、鮮やかさを演出していた。


ところで、と美深は思う。つぼみの頭に咲く無数の小さな桜の花は、どのように飾られたものなのだろう、と。それは髪の編み目から伸びるように点在していて、生花のように美しく咲いている。髪飾りと言うには少し違和感があるように思えた。


「あ……あの」


好奇心が抑えられなかった美深は、気まずい沈黙を破るため、と理由を付けて、口を開いた。


「その花飾り……ええと、その、どうなってるの?」

「え?」


不意を突かれたような顔でつぼみが振り返る。質問の意味を噛み砕くかのようにきょとんとしていたつぼみであったが、数瞬後、ぱあっと顔を晴れさせた。


「えへへ、これね、“咲かせてる”のよ」


嬉しそうに彼女は言う。美深は大きく首を傾げて、その意味を咀嚼した。しきれなかったが。


「……えーと、」

「あ、意味分かんないよね」


えっとね、と呟いて、つぼみが右手を差し出して、開く。


「これが私のギフトなの」


つぼみの掌の上に、種のようなものがぱっと出現する。そこからするすると茎が伸び、葉が生え、蕾がついて花開く。美しい白のガーベラがつぼみの手の中に収まった。


「花が……」

「うん。ここの人たちは皆、なにか1つ、えっと、異能力?みたいなのをもらってるの。それを、ギフトって呼んでるんだ」

「それって……私も?」

「うん、きっと。でも、それが何なのかは、自分で見付けるしかないんだよね……」

「えっ、それってノーヒントじゃ」

「そんなことないよ。一応……理由もあるみたいだし」

「あ、そうなの」


美深はほっとして、続ける。渡されたガーベラを眺めていた美深は、つぼみが少し視線を逸らしたことには気が付かなかった。


「つぼみ、それって」

『入学おめでとう』


瞬間、2人の間に声が割って入る。


「ありがとうございます」

「……ありがとう、ございます」


見ると、白いスーツに身を包んだ女性が各入口に数名ずつ立っており、胸元に薔薇を付けた新入生たちを中へ誘導している。


『式はもう始まりますよ』

「はーい。えっと、美深ちゃん、後で話すね。入学式は座ってれば大丈夫なはずだから」

「う、うん」

『席の指定はありません。お好きな場所へどうぞ』

「はぁい」

「は、はい」


すたすたと進むつぼみに倣って、美深も建物の中へと歩みを進める。近くにいた長髪の少女も、2人の様子を見て、戸惑いながら入口をくぐったようだった。


戸惑いを覚えているのが自分だけではないことに少し安心して、美深は辺りを見回した。


外観と同様に室内の壁や調度品もほとんどが白で統一されており、一面真っ白な世界はまるで、絵本の世界のようだ。


ここが元いた世界とは違うことを実感し始めた美深の頭に、小さな希望が過る。異世界転生ものの中には、自分のいた世界に帰れるものも多く存在していたではないか、と。


「美深ちゃん?」


つぼみが振り返る。羽根を模した白いセーラー襟が、ふわりと翻った。

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