第6話 桜の下には(お題:花)

 慌ただしい日々は季節を忘れさせる。


「もうそんな時期か」

 微かに聞こえたその声に足を止める。


 人気のない道を抜けると、目の前には満開の桜。


 その下で、少女は歌っていた。


 魅了されて何年になるだろう。

 この時期だけに現れる少女の、他の誰にも聞こえない――おそらくこの世のものではない――その声に。


 哀しく優しく時に激しく。

 目を閉じたまま少女は歌い上げる。


 歌が終わると、目を開けた彼女は僕を見つめ、

 そして哀しげに、自らの足下へ視線を送る。


「素晴らしかったよ」

 微笑みかける。

 いつものように、視線の意味には気づかないふりをして。


 君の望みを叶えたら、

 きっと君は消えてしまうだろう?


 だから、見つけてあげない。


 君は僕だけの歌姫。

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