第5話 小早川時計店2(お題:時)

「…ここは?」

「見ての通り時計屋だよ」

 白髪頭の男が答える。その視線は手元の機械に。


「今これ修理中だから」

「あ、いや、俺は」

 気がついたらここに居ただけで。


「ま、これでも飲め」

「紅茶?」

「潤滑油」

 男は意味ありげに笑う。

 世間話をしながら飲んだそれはやっぱり普通の紅茶だった。


「それ、随分安っぽいですね」

「拾いもんだからな。けど、ちょっとしたことで簡単に捨てちまうのはもったいないだろ?」


 顔を上げた男の目にハッとする。見透かされたようで。

「腹が減ってると妙なことを考える。帰って美味いもんでも食え」

 言われた途端に腹の虫が鳴いた。

「これ請求書な」

「請求書?」


 金額は100円。

 但し書きは、「腹時計修理代として」。

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