第264話 プラン B 始動
いつの間にかエール先生に介護されて寝ていたようだ。
――――まどろみつつもなにか大事なことのようなお馬鹿なことを考えていた気がするが……何を考えていたんだったか?よく覚えていないがかなり爆睡してしまった。気がつけば5日も経っていた。
ものすごく体はスッキリした。頭はまだぼんやりしているが体のどこにも痛みはなくて、むしろ体調が良いとさえ感じる。
「心配しましたよ?」
「今どうなってますか?」
「その、精霊を祀っていることになっています」
「……??」
煽られて精霊を出したのは問題はない。精霊至上主義の国だし……それらを祀る貴族としてむしろ悪くないやり方だそうだ。
いくつかやりすぎという抗議は来ているそうだが「相手は杖を抜いてこちらに向けていた」という点もあって貴族的には問題はない。
お手紙も来ていたが「なんか文句あんのか?あぁん?」とマイルドに調整した文を威圧剥き出しのフルアーマージュリオンが武器を持たずに配達したらしい。壁も扉も無視して。
…………壁を、無視?…………報告がよくはわからないがおかげで同じ家から追加のお手紙は来ていないそうである。まだ眠い。
私が寝込んでしまったが隙を見せるようでよろしくなかった。そこで「精霊を落ち着かせるために精霊を祀っている」ということにエール先生はしてくれていた。
しかし、少し考えないといけないな。
伯父上相手に入念に入念に、単位をも犠牲にして過剰かと思えるほどに準備した。結果はギリギリ、魔導鎧のようなほぼグレーゾーンの道具まで出して倒せた。
相手がこちらを舐めているのも分かったが相手が令嬢だからと私も舐めていた。せいぜいが廊下での邪魔や陰口、発展してもビンタとか靴を隠されたりするぐらいの想定だった。
今までのように受け身で「なにか起きてから対応する」どころか貴族も、令嬢も、何もかも飲み込むような姿勢で行くのだ!
「んー……やるかー…………んぅっ!」
「あの、フリム様?どうかされましたか?」
体を伸ばして、覚悟を決める。
「ちょっとプランBをしようかなと」
「ぷらんびー?」
「はい」
厳密にはプランBではなく、別のプランが有るということである。
――――『企業戦略』というものがある。
企業に今後どのように進んでいくのか、どのようなものに力を注いでいくのか。CEOであったり社長であったり役員が方針を定め、その方針が時代や世のニーズにあっているか利益が出るかを発表する。それを投資家が見極め、資金を出し、新たな事業は加速していく。
有名企業の動きは実に勉強になったものだ。
会社によってはこれと決めたものに力を注ぎ、収益の望めなさそうなものは切り捨てていく。全ての部門を強化するなんてことも出来るがそれは余裕のある企業である。
…………そして今の私には余裕があった。
いくつか、どれも私に利になるであろう作戦を準備していた。
一つは料理の中でも菓子部門を立ち上げて販売することである。うちにある菓子のレシピもずいぶんと増えたし、令嬢の心をつかむのにはぴったりだろう。
それにうちに来たいという貴族師弟も多くなってきたし彼らに作らせることによって雇用の機会も与えられる。『貴族の物は平民や奴隷ではなく貴族が作るほうが望ましい』というよくわからない価値観もあるようだしね。
一つは服飾店の立ち上げである。様々なデザインの服やドレスを披露して、それだけではもったいなかった。どうせなら自分の陣営で使うだけではなく外に売れば良い。
発情貴族からの助けを求めてきた代表のマーニーリアに任せることにしよう。彼女は国で一番と称えられるほどの美人で見栄えもする。新しいドレスの宣伝塔にぴったりだ。うちの派閥の中でも見目麗しい人をここに配属しよう。
一つはマッサージのうまいニャールルたちによるエステである。ボディケアは女性には人気が出るだろう。
特に暇を持て余した貴婦人たちも多くいるみたい。未婚や既婚関係なく味方を増やせるはず。
一つは……これはやらなくてもいい気もするが「謎のカリスマ占い師」としてガニューラを派遣する。ガニューラには様々な秘術もあるし、占いも出来て弁も立つ。それに女性として長く活動していたからか謎に気品のある振る舞いが出来る。
スキンヘッドのガニューラにアイシャドウなどをしてもらい、深く被ったローブで占いをしてもらう。王宮内で貴婦人の相談を聞くだけでも良いし、秘術にある占いをしても良い。時間がある時は服飾、余裕があれば謎の占い師のお仕事である。あと私に秘術のコツを少し教えてもらう。
こちらが『何かを提供する』ことで王宮内での地位を獲得するのだ。
――――……そもそも夜会とか王宮などという「相手の土俵」で戦うこと自体が間違っていた。
初めからこれらは手札として準備はしていたがその手札を使うタイミングを推し量れていなかった。
なにか一つ進めるだけでもどんな反応が来るかわからなかったし、ましてや多くの事業を同時に進めようとすれば無理も来るかもしれなかった。
幸い、エール先生の報告によると私が精霊で威圧したこともあって貴族がビビってシャルルに「リヴァイアス侯爵のやり方はいかがなものか?」と陳情し、レージリア宰相が「なら双方の争いを治めるためにも」と騎士団が私のもとに派遣されることが決まっているそうだ。
私は令嬢から護ってもらえるし、令嬢は私がいきなりなにかしないかと護ってもらえる。お互いに得な提案だったのでありだろう。シャルルからの手紙には「これは罰ではないからな」と含められている。うむ、安全第一とシャルルも分かってるようだ。
流石に武装した騎士がいれば令嬢といえども報復出来ないんじゃないかな?クッションの役割を担ってもらおう。プランBはどれも嫌がらせを受けると考えられるが……警護がしっかりしてくれている間にこちらは地位を確立すれば良い。
準備だけはしていたが城下と違って王宮内では流石に許可がいるはずだ。最高権力者とは事前に相談していたし後は覚悟を決めて推し進めるのみ。
――――……さて、少しは王宮の令嬢たちの私を見る目は変わるものだろうか?
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