第271話 レージリア の 親心


ご機嫌なシャルルが何かを抱えてやってきた。



「よくやった。これは個人的な褒美だ!機を見て国を上げて褒美をやるからな!!」


「……ありがとうございます」



一抱えはある宝飾品の箱を渡された。もちろん受け取りは私じゃ支えられないからジュリオンである。


あけられた箱の宝石や装飾品は凄まじいが……なんだろう?「イケメンな男性から宝飾品をプレゼントされる」って女性としてはドキドキなイベントのひとつな気もするんだが…………どっさり渡されるとなんか違う。しかも「博物館とかに展示されそうな芸術品」を「上司から仕事のお手柄としてのご褒美」としてわたされると更にコレジャナイ感がする。


手にとって見てみると……なんか大きいしキラキラしすぎてて駄菓子屋の玩具のようで、いや、きっと凄く良いものなんだろうけどさ。


一個髪飾りを手に取ったシャルルがアホ毛につけようとしているがベシベシされている。


プレゼントってのは相手が喜ぶものを一つでいいと思うんだよ私。女心がわかっていないなシャルルは。



「これで国も豊かになるだろう……が、なんだか複雑な気分だ」


「というと?」



シャルルは不正ばかりするゴミな部下に頭を悩ませて私に文官を融通するように泣き言を言っていたぐらいだ。


使える人材がどんどん入ってくるので喜んでいるはず……なのに言葉通り複雑そうな顔をしている。



「俺がどうにも出来なかったことをフリムがどうにかしてくれる。俺はお前の後見人なんだがなぁ……」



シャルルは王としてはまだ若いし、当然王様としての経験も浅い。書類整理を手伝っていて分かったが上がってくる政策案も自分や派閥の利益を優先にしたものが多い。……こんな状態でよくやってると思う。


決定権はシャルルにあるし、ちゃんと敬われてもいるが……経験がなさすぎて半ば大臣やレージリア宰相の言いなりとなっている部分はある。経験や実績が無いのだからあるものに任すのは悪いことではない。しかし、それでもその任せた部下には信用もないし、正しくシャルルの意図を汲み取ってそれを実行しているかと言うと微妙だ。


シャルルの下した命で、シャルルの思わぬ結果となり……被害も出る。うまくいかず、まともに働かない部下。だと言うの腐らずに国のことを考えて動いている誠実さを失ってはいない。


自分でもいろいろ改善しようとしたのだろう。変装とかしてたし……。


しかし、だからこそ状況を改善した私に対してなにか思うことがあるのだろう。



「嬉しくはないのですか?」


「嬉しいことは嬉しいのだが……複雑でもある。――――ありがとうな」



アホ毛を潰すように頭を撫でるシャルル。何度もアホ毛に打ち払われているというのにめげないな。



「まだまだ問題は山積みですけどね、これどうぞ」


「それはそうなんだが……やはりうまいな。フリムの作るものは何でもうまい!」


「それはどうも」



ここしばらく怪我人の治療もあったしその怪我人がささっと食べれるものを考えた結果サンドイッチが常備された。


貴族ってやつはわがままで……出されたものぐらい食えと思ったがなんか毒殺されそうになった人もそれなりにいて、食べ物を受け付けないような人もいた。


パンは普通にあるし、そのパンに様々な具材を切って挟んで出した。


肉とマヨネーズやカレー風味の肉、カツ、焼肉のタレ風、唐揚げ、卵、フルーツとクリームなどなど、とにかく食べられるものを考えていく内に種類が増えた。


サンドだけではなく健康に良さそうな茶碗蒸しやプリンなどもたくさん出す。


治療中にお世話するスタッフは治療済みの人だけじゃなくてうちの人間のほうが多いからここにも食べ物はどちらにせよ作らねばならない。


怪我でなくても毒が体に残って衰弱してる人にも効果があることがわかっただけ良いとしよう。種類があればなにかは食べれるものもあるだろう。よくわからないが高級そうな料理を要求してくる我儘貴族もいたがそんな人には人気のない野菜サンドや果物を治療済み貴族によって流し込まれていた。



「あぁ、爺が話したいことがあるそう……だ」


「はい、水です。ゆっくり食べてください」


「う……む、この2つうまいな」



シャルルはカツサンドとたまごサンドが気に入ったようだ。一口サイズのサンドをぱくついている。


個人的には玉子サンドは濃厚でよくできたと思うがカツサンドはソースがもうちょっと甘酸っぱさとコクがほしい。なんというかソースに深みがなくて肉の味が強すぎる。冷めると脂が少しくどい。マスタードもほしいな……そのままでも男性には人気だが。


……それにしても珍しい。近頃はシャルルが夜会に顔を出すためにもレージリア宰相は仕事をかなり受け持っていて見かけていなかった。


更にはクラルス先生がお見合いから逃げるのを阻止なんてこともしているそうで私とはほとんど話してなかった。そのレージリア宰相からの相談とは……文官の問題が解消されつつあることでなにか新たな問題を投げられないか心配である。



「どうかしましたか?」


「少し相談したいことがありましてですな……」



青年……いや、中年となったレージリア宰相は昼も夜もなく働いている。 しかし、ずっと働いているし、そろそろ疲れてきたとかで魔力水が必要なのだろうか?


若干俯いて、何も食べずに言いにくそうにしているレージリア宰相。



「服を、融通してやってほしい」



少し警戒したのだが……してやってほしいということは自分の服ではないのだろう。



「クラルス先生のですか?」


「……うむ、儂の作らせていたのは見た目が古すぎて絶対着ないと嫌がっていての。女性物の衣の流行りとかまるでわからん」



服飾部門は盛況である。かなりのスピードでうちのデザインの服をある程度カスタムして作るが、需要に比べると供給は間に合っていない。


当然の如く貴族は「うちを優先しろ」とか無茶を言ってくるし、派閥の下の人間が予約すればその予約を横取りするようなズルもしてくる。争いを産まないためにもある程度は先着順だけではなく派閥なんかも考慮しないといけない。



「そういえば以前はクラルス先生の結婚に反対していたと聞いていたのですが、なぜ今になって結婚させようとしているのですか?」


「…………だって娘可愛いし……その、老骨の儂より強い男に託したかったんじゃが、そうすると儂強いから皆倒してしまっての?」


「…………」



この無敵宰相、何をしているんだろうか?


クラルス先生との仲は悪くはなさそうだが、クラルス先生がグレてもおかしくはない。



「――――体が若返って歳を実感したのじゃよ。儂はずっと現役でいるつもりじゃが若返って、こう、なんというかの。儂もいつの間にか衰えていたことに気がついたんじゃ」



若返ったことはないしその気持はわからな……いや、私も若返ったのかもしれない。ある意味。



「いつまでだってあの子の父親で、ずっと護ってやれると思っておったんじゃ……この感覚を人に伝えるのは難しいですの」



顎に手を当てて考えているレージリア宰相。



「年老いて、若返り、生まれ変わった気分とでも言いますか。何を言ってるかわからないかもしれませんが……」


「爺、何が言いたい?」


「――――そうですな、あの子の親として、儂がずっと一緒にいてやれるわけじゃない。儂が生きてるうちに……娘が選んだ人に託すのもあの子の幸せなんじゃないか。そう思いましての」



腰が痛んで動けないこともあったレージリア宰相だが、ずっと体は健康なつもりで――――きっとその日常が続くと思っていたのかもしれない。


人は中々変わらない面もある。


だけど病気、恋愛、結婚、出産、昇進、事故、健康診断、誰かの死……いや、大きな出来事ばかりではない。本やテレビ、スマホを見ていたり、軽く躓いただけなど……その出来事の大小は関係がなく、その人にとってなにかのきっかけで人は変わることがある。


私もそうだった。日常はずっと続くと思っていた。


だけど、死んでしまって……生まれ変わった。そうするとこれまでの自分を見返して、その成功や失敗からより今をどう生きるかを考えるようになった。


日々の生活の選択ですらより効率よく、より自分の思う正しさのために突き進んでいる。



ほんの小さな選択でも、後悔のないように。




「この見合いも実は娘のためでもあるんじゃ……それでの、儂の選ぶ物は駄目らしいが、フリム殿の服なら着たいと耳に挟んでの」


「まぁ良いですけど」


「おぉ、感謝しますぞ!」



親心というのはわからないな。……いや、私も前世の妹が彼氏を連れてきたら「私を倒してから行け!」「結婚なんぞ許さん!!」と言う気持ちが湧いていたかもしれない。うん、結婚は許さん。


それにこの国の貴族って賄賂が当たり前だったりしてモラルの水準が低い。そうすると……男親としては大事な娘の相手に不安を覚えるのも理解できる。


お見合い大会。当人たちはそれなりに交流しているが親世代も色々と思うところがあるのだろう。私には関係ないが。



「そういえばうちのダグリムが宰相のことを気に入っているようですよ?」


「……え?」


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