第272話 悪役 の 策略



「この試験はオベイロスの未来のために行われるものだ。試験の前に精霊に各々の精霊に真実を書くことを監督の前で宣言しなさい。出来ないものは試験を受ける資格はない。帰って良しとする……ただ、ここで良い点が取れれば有能であると国に認められるためシャルトル陛下の婚約者の候補としての格が認められることになる。また男性諸君も国が君たちの有用性を認めれば何かしらの職を与えようというものが出てくることだろう。皆励むが良い」



お見合い参加者を集めて、試験監督らしき騎士が説明してくれた。



「入室前に真実を書くことを誓え。魔法を詠唱するように、精霊に呼びかけるように、だ」

「入室した人から問題を解いても良いですよー!時間に制限はないので好きなだけどうぞー!」



特設会場がわざわざ作られ――――……嫌な予感はした。


風呂トイレ食堂寝室付き。仕事のあるものは一定期間できなくなるから引き継いでおくようにというお達しつき。喧嘩が絶えなかったのでボディチェック付きで簡素な服に着替え、杖と短刀まで預けられる。私の杖は勝手についてくるからそのままだけど。


試験を行ってお見合い大会に来ている貴族のプロファイリングをするのが良いと進言し、草案を出したのは私だが……なにか様子がおかしい。


私が生まれる前にもあったのかもと考えたが他の参加者の困惑を見るにこんなことはこれまでになかったのだろう。



「<フレーミス・タナナ・レーム・ルカリム・リヴァイアスはこの試験をリヴァイアス、ルカリム、オルカス、名前も知らないけど一緒にいてくれている精霊たちに誓って誠心誠意、真実を書いていくことを誓います>」



こちらを睨んでくる参加者に対してちらりと余裕そうに視線を向けておく。


試験の説明を受け、精霊に誓って隣の部屋に入室すると分厚い問題用紙の用意された席についた。


あれからシャルルに相談した結果、数多の問題が出されることが決まったのだろう。貴族院やレージリア宰相、学園の賢者に魔導省も監修した――――分厚すぎる問題。


1日で全て解くわけではなく、長い時間をかけて解いくことになるだろう。


問題は多種多様で……この国の言葉や計算、詩であったり、絵を描いたりと。なんだこれ、聞いたこともない貴族と歴史について……?なんだか問題を作った人の家の事の気がする。


確認だけでげんなりしてきた。問題はダメ問題が多い。薬草とか魔導具とか、いや、ほんとありとあらゆることを問題にしている。



『敵の魔法使いを傭兵が討ち取った。褒美は誰に、いかほど渡すべきか?』『レルドモンド伯爵の武勇について3つ書くこと、優雅に、雄々しい表現で』『レージリア宰相が道の真ん中で動かずにいる。どうするべきか?』『学園に仇敵がいる。どうする?』『レーゲファマスの得意魔法はなにか?』『国に税を納める時、誰に賄賂を渡せば良い?おおよその金額とその人物を書け』『貴族院四席と三席の争いにおいて途中魔導省のあたりから爆炎魔法が放たれた。犯人は誰か?』『決闘でシャルトル陛下の像を壊した愚か者は誰か?』『ライアーム様とシャルトル様、正当な王位継承者はどちらか?』『精霊教の教えで最も重視されるべきことはなにか?』『ウタマイ家一族が歌う前に歌の前に飲むと良いとされるママリアムはケッセ領地産のものだ。またケッセの領地には土のケッセ・ディルディス精霊が踊っていることで知られている。栄えあるケッセ男爵の愛する妻の名前は?』『火の騎士団は現在7つあるが最も力ある騎士団はどこか?』『自領の迷宮から危険な魔獣が出たとする。その魔物は自領の戦力では対応できるかわからない。どうするか?』『王宮で出世するためには金子を有力な貴族に贈ることが必要とされる。その金子を送るべき相手は誰か?』『シャルトル陛下について思うことを書け』『エルフの迷い人、旅人、奴隷、使者がいたとする。それぞれどう対処すべきか?』『魔導省予算について以下から選べ。1.大幅に増額すべき2.無制限に増額すべき3.増額すべき4.現状維持』『無敵宰相レージリアの娘は美人で結婚相手を募集している。美と薬の精霊と名高いクラルリーナスが喜ぶものといえば酒と薬草である。夫に立候補するか?爵位と名前を書け』『竜の国から使者が来たとする。取り次ぐ先は誰か?』『カレー男爵といえば誰か?』『レーム家当主の得意魔法はなにか?』『クーリディアス国がオベイロスの一部となったがその管理は誰が行うのが正しいか?・外国の魔導具も多くあることから魔導省が管理するべき。・貴族による反乱を防ぐことも考え、貴族院による統治こそふさわしい。・小国とは言え他国である。新たな大臣職を作り、管理を任せるべき。・王の直轄として王こそが管理するべき。いずれかから選べ』『オッヴァーディア様について思うことを書け。特に彼女のお菓子について』



…………まずは基礎的な問題のはずだったんだけど、私も受ける側だからとカンニングのような気もして最終的なチェックに関与しなかったのが悪かったのかもしれない。


問題用紙が各科目ごとになっていないし、問題自体も『集めたもの全部出しとけ』とでもしたのか基本の問題に混じってめちゃくちゃな問題が見られる。


しかも、一部宣伝や教養と関係のない問題もある。むしろまともな問題よりもこういう問題のほうが多いかもしれない……いや、問題自体はやはり基礎的な問題のほうが多いはずだが、あまりにも目に付く問題が多い。


問題の厚みが辞書並みである。……これ、絶対一日で終わらないな。


幸いなことに席は私を含めた筆頭婚約者は指定席が用意されていて、ある程度離れている。隣の席に敵対派閥の人が来て「問題に集中しているといきなり殴られる」ということはなさそうだ。いや、この問題の束で殴られたら本気でやばかったかもしれない。



――――こうして、このお見合い大会は多大に精神が削られるものとなった。過去の悪役令嬢フリムちゃんに嫌がらせされてる気分だ。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




休憩時間になると問題用紙はそのままにして説明を受けた大部屋に戻る。すると令嬢たちから悲鳴が上がっていた。



「どういうことですか!?」



それぞれに出された問題が違っていたようである。


同じ部屋で休んでいた試験の説明をした騎士に食って掛かる令嬢。



「問題はそれぞれ出される順は違う。ただこうして話すことを禁じることにする。ただ、試験を受けたものは精霊に誓ったことを忘れるな。心暗いことをする者、精霊に嘘を吐く者に精霊は微笑まん」


「ぐっ?!」


「ここで試験をやめてもいいが試験をやめるということはなにか不都合があるということか?」



あの試験、周りとの席が近かったのはカンニングしても無駄ということだったのか……。


それに試験問題を共有しても精霊に宣言した事もあってこの国の倫理観が皆を縛った。


もしかしたら酷すぎる駄目問題は不正の摘発も兼ねているのかもしれない。シャルルはやるじゃないか。自分たちは回答しないからって無茶苦茶な問題を出されたことに関しては後で絶対に苦情をいれることにするが。


そして監禁……じゃない。隔離生活が始まった。


この試験のためのこの会場、不正対策のためかシンプルな服が用意され、ベッドも皆が見える位置で用意された。学園でも水を調べるのに団体行動していたがこれもこの国なりのやり方なのだろうか……?なぜか前世の体育館で寝た学校行事を思い出す。


仕事はチェックされたものが休憩時間に持ち込まれ、それをこなしていく。



「エール先生、いつもありがとうございます。イリアも」


「いえ、これが私の仕事ですから!」

「うん……あぁいや、はい。試験よりも書類仕事の方が楽だね」



エール先生も一応シャルルの花嫁候補であるから試験を受けている。


イリア書類整理を手伝ってくれるが……かなりやつれている。


1日経って既に空気がピリついていた。問題はストレスになるしこの閉鎖空間がよろしくない。ミリーもミキキシカも……魂が抜けたような燃え尽きた表情をしているし、イリアはかなり苦々しく思っているようだ。この国の教育水準これじゃないからね?


水の量や質のときもこうやって少し隔離されたが不正対策はそこそこされているようだ。騎士団がウロウロしていて問題について話そうとしている子には注意も入っていく。



2日目には喧嘩が起きたようである。杖も短剣も取り上げられてはいるが騎士団がたくさんいるのにもかかわらず魔法を使った取っ組み合いがおきた。素手でも魔法は使える人は結構いるもんね。


……何かの社会実験のようでストレスが凄い。問題がひどすぎるせいもあるのか試験中にいきなり机を叩いた子もいる。ストレスに耐性が無い人も多いのかもしれない。


しかしストレスに耐性がなければ要職にもつけにくいしここういう検査項目もいるかも知れないと草案を出した。まとめてやるように草案を提出した訳では無いが…………バレたら怖いな。


私も揉めている人がいれば悪役令嬢として「あら、あんな問題もわからなかったのですか?」「見苦しいですね」なんて聞こえる声で呟いて通り過ぎる。私もわからない問題が多いのは内緒だ。




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