第268話 花嫁 の 適性


水の刃で軽く服を切られた。


カッとなって転がってた短剣で仮面女を殺しちまいそうになったが果物みてーな髪の誰かに邪魔された。短剣を取り上げられて……どっかに行っちまった。手首がいてぇ。


まぁ今となっちゃ刺さなかったのはそれはそれでいいとは思うのだが…………そこまでするなら普通止めるなりするのが筋だろうに……泥でよく見えなかったがやつは一体何だったんだ?


しっかし、仮面女は意外と強かった。良い拳をしてやがった。最後に頭突きをまともに食らってふらついた。


後一発でこの女を倒せる。そう、思っていたのだが……横槍で全部終わっちまった。



「それ以上暴れるなら手荒に止めざるをえないのですが」


「あァん?!やれるもんならやってみなブベァッ!!???」

「<水よ!>ま、間違えましグブッ?!」



俺も泥が目に入ってよく見えていなかったのだが、仮面女はまだ俺の闇が効いていたのか現れたデカ女に水を叩きつけ、俺と同じく指を弾いて頭に当てられた。お陰で立てなくなった。


そのまま泥だらけで荷物のように運ばれ、目的のフレーミスに会えて、なんでか風呂に入ることとなって――――



髪の色がバレちまった。



ずっと染めてたんだがな。……闇の精霊の加護が俺にはある。年々黒くなってきたこの爪と髪。


だから手袋と髪染めでごまかしてきた。


俺の目的のため、今でもへーかと相性が良いことがバレてはいるが今以上に嫁としての適性があるとバレればへーかの寝所に縄で縛られて投げ込まれかねない。


まぁいつかはバレるものだったのだが……この湯は薬湯か何かだったのか、傷も痒いがすぐに治り、髪の色は真っ黒になってしまった。



「地毛ですか?」


「あぁ、まぁな」


「良い黒髪ですね!艶もあって……なつかし」



フレーミスはおべっかなどではなく純粋に私の髪を褒めていた。


…………夜会での圧倒的とも言える魔力や傲慢で不遜な態度は欠片もない。元々話しかけようと見ていだが家臣たちと接していたときと同じだな。こっちが素の顔か?



「お、おぅ。さわってみっか?」


「では髪を洗いながらで!それとちゃんとお風呂に浸かって傷を治して行ってくださいね!……私がやったって後で言われかねないので」



侍女にされるように後ろから髪を洗われ、染剤と泥が落ちていく。


あまり関わったことはなかったが子供は可愛いものだな。


髪をこんな子供に洗われるのは心配ではあったが小さな手が頭で動いて心地よい。


エールは止めようとしているが「これは当主としてのおもてなしです!」なんて言ってフレーミスも譲らない。俺としても騒ぎを起こしちまったし……いや、信用の証として何をされても良いと動かずにいた。


手を動かしながらも汚してしまった湯をまとめて捨て、新たな湯を足している。


夜会でも見たが桁違いな魔法力である。仮面女が憎らしそうにこちらを見ているが……なぜだ?



「なにか私に用があるのは分かったんで、今聞かせてもらえないですか?」


「あー、ダメだ。今じゃな」


「そうですか」



いつの間にかクラルス様とフィレーネ学園長。仲裁のために来たのかと思ったが湯船で酒を飲んでいる。


誰かと風呂に入ることなんて今までになくて……なんだか恥ずかしいな。



「なんですか?」


「……なんでもねぇ」



こんな状態で聞けるかよ。まぁいつか機会もあるだろうさ。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「良いのかこんな服」


「なにか入れたい意匠などはありますか?あ、どうぞ無料で持っていってください。貴女用の服なので」



風呂を上がると既に豪華な服が用意されていた。


宝石つきで、長い時間をかけて作られるような服。……明らかにフレーミスとは背丈も違うのに仕立て上げられていたことを考えると俺への贈答用だったのかもしれないな。



「いや、貰えるもんにケチは付けねぇけどさ……男もんの服はねぇのか?」



流石に仮面女に薄く水の刃で切られてデカ女に持ち上げられて胸元の破けた服では帰れないが、やはりなれない。……俺も泥ではっきりは見えてなかったが、短剣を取り上げたやつにも胸を見られたのだろうか?女であることはめんどくさいと思っていたはずなのに――――耳まで熱くなってきた。



「どうかしましたか?」


「な、んでも、ねぇ!」



不思議そうにこちらを見てくるフレーミス。怒鳴って悪かった。


ヒラヒラした女の服は性に合わねぇ。一応俺も女ではあるのだが。



「それを私が貴女に渡すときっと色んなところからクレーム……じゃない。苦情が来るかと……」



苦情か……俺を女として認めてないのかとか言いそうだな。うちのカスどもなら。



「そう、だな」


「それに、似合ってますよ!」


「お、おう?」



ドレスなんかいつぶりだろうか。しかし小さな女の子にここまで言われて受け取らねぇようなカスな真似もできねぇ。


髪はバレてしまったしクラルス様に染め剤を頂いてこの場で染めた。



「えーもったいない。黒くて良い髪なのにー」


「フリム様、色々あるのですよ」



まっ黒い髪なんざ、気味悪がられても不思議じゃないのにな。


今でこそへーかが闇の魔法も使えて闇属性の地位も上がったが、昔は気味悪がられたもんだ。


闇は他の属性と違って何が起こるかわかんねぇから……闇を出すぐらいなら簡単だがその先が意味がわからん。なんで闇で夢が見れるのか、なぜ、奴隷の契約ができるのか。


光が外から体を癒やすものだから闇は体の中をどうにかするからじゃないかなんて言われたこともあるが全然わからん。


俺も黒い髪は好きにはなれなかったが……フレーミスは好きなんだろう。染めていく髪をちらちらと見ては「もったいない」なんて漏れ出ている。



「その、なんだ?頭で動いてる精霊様の恩寵もかわいいぞ?」


「可愛くないですから!?」



動く頭の恩寵を褒めたのだが……子供というのは難しいものだ。


しかし、へーかが近くに置くのもちょっと分かるな。欲しくなっちまいそうだ。

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