第267話 泥仕合 ? キャットファイト
「フリム様、先ほど気がついたのですが外で何やら揉めているようです」
プランBをやるとは決めたが許可が必要だろうし、他の仕事にも目を通していた。
まだぽやっとしてる感じはするが危険ならばそんなこと言ってはいられない。
「というと?」
「フリム様の挑発から他の宮が荒れてうるさかったので外の音を聞こえないようにしていたのですが……どうやらすぐ外で女性が二人争っているようです」
「こちらへの攻撃でしょうか?」
「いえ、杖は使わずに掴み合ってるようです」
なんだろう。うちの文官が喧嘩してるのかな?
たまに賄賂を要求してくる貴族とかをどうするとかで「ぶっ殺しに行く」っていう過激派もいるがそれを「ヲイバカやめろぉ!?」って止めようとする穏健派もいて争ってることがある。
なにかしらの喧嘩で杖を出すのはよくあったのだが筆頭家臣ことドゥッガ親分が、仇荒々しい指示を出していた頃に「拳でやれ」って方針を出したからそういう事もたまに起きる。
「見に行ってみましょうか?」
「はい、気をつけてください」
うちの人間だったら恥になるから捕まえてきて欲しい。
ジュリオンにお願いすると……すぐに戻ってきた。
「えぇと……どうしましょうこれ?」
「「…………」」
「えぇ……」
エルストラさんと私をよく睨みつけてきたポヨ令嬢の服の背中を摘んで連れてきたジュリオン。
服がところどころ破けて、泥まみれの二人。
顔は見えないが髪もボサボサでうなだれていて杖も持ってない。ポヨ令嬢なんてブーツが片方脱げている。
ビリィッ
「おっと」
背中の服でつまみ上げていたジュリオンだが、男装のポヨ令嬢の服が大きく破れた。胸が見えそうである。
「とりあえずお風呂入りましょうか?」
「よ、用意しますね」
エール先生もあまりの事態にフリーズしていた。
なんでシャルルの婚約者の中でも有力とされてる二人が争っていたのだろうか?
「えぇっと、いいですよね?このままだと何処にもいけませんし」
「「…………」」
無言でボロボロの二人に聞くと二人共頷いた。
個人用の小さな浴槽ではなく大きめの浴室に案内した。
二人とも水を吸ってボロボロの服を脱ぎにくそうにしていたが私はエルストラさんを、ポヨ令嬢はジュリオンが脱がせようとしていた。
「失礼しますね」
「……自分でやる。構うな」
豪快に服を脱いでいくポヨ令嬢。その目はエルストラさんを睨みつけ、エルストラさんもポヨ令嬢を睨んでいる。
殴り合ったのかお互い顔が腫れているのがわかる。
「……フリム、手が汚れますから」
「じゃあ一緒にお風呂に入れますね」
「……」
この二人を一緒にしておくと何やら危なそうだし、私が間にいればどうにかなるだろう。わざと汚れてお風呂に一緒に入る。他の人だと止めようとして『リヴァイアス侯爵の一派が怪我をさせた』となってしまえばそれこそ問題になりかねない。
二人は何も持っていないが私には後ろをついてくる杖があるし精霊もいる。さらにはジュリオンもいる。一緒にお風呂に入ろう。
「<お湯よ。出ろ>」
ぬくめのお湯を出しておく。
エール先生とジュリオンが着衣のまま湯船の外で控えてもらって……私は普通に脱いで入った。こちらの常識に則ってかけ湯なしで。
「で、何があったんですか二人共?」
「こいつが悪い」「この方が怪しかったので」
「詳しくお願いしてもいいでしょうか?2人共負傷していますし、何らかの責任を私に被せられる可能性もありますから」
お風呂に入っているのは三人だが、後ろでニャールルがクラルス先生とフィレーを連れてきてくれた。
地位のある二人なら証人にもなってくれるだろう。フィレーがうちの酒を持っているところを見るに近くで呑んでいたのかな?
「わたくしは……」
エルストラさんが先に話した。
ポヨ令嬢が私を睨みつけているのは周知の事実だし、この間の夜会で私は思い切り威圧した。
だからポヨ令嬢による闇魔法を使ったお礼参りじゃないかと考えたエルストラさん。
エルストラさん自身も一人だったのは私に対して敵意があるととられると面倒になるかもしれないので護衛や侍女はおいてきたと。水属性の令嬢のいる地域だからすぐ近くに住んでるしね。
「で、ポヨ令嬢はなぜこんなことに?」
「……そいつはライアーム派の手先だろーが。俺は用があってここに来たがそいつは不審にも一人で来た。喧嘩腰でな。だからこーなっちまった」
「…………水宮で水属性の私がひとり歩いていてもおかしくないでしょう。むしろ別の属性の貴女がいることがおかしいでしょう」
「あん?知るかよ」
冷ややかな目で睨みつけるエルストラさんと言葉では切り捨てつつもエルストラさんを睨み返すポヨ令嬢。
エルストラさんは王都では微妙な立場だし、一般的に考えると私は本家ルカリムの敵である。エルストラさんから私を守ろうとしたのかな?
この人がわからない。
「あー、世話かけてすまねぇな。それと俺は睨んでねぇ」
「え?いつもものすごく見てきてますよね?」
「あ?あー……俺は目が悪くてな。睨んでたわけじゃねぇよ。それに目つきもわりぃからよく言われる」
どう考えても睨みつけてきていたのだが……。
それにしても今日はポヨ令嬢に合わせてかけ湯もなしに湯船に入ったので湯がきちゃない。彼女の髪が湯船に浸かって汚れが浮き出てきた。
「そうなんですか?では御要件は?」
「あー、その、なんだ?聞きてぇことがあるんだが……俺と二人で話せるか?」
「おやめくださいフリム様。危険です。それにポヨ大臣に後からなんと言われるか」
話ぐらいなら良いかと思ったのだが、エール先生に止められた。
そもそもこの、私の出した湯船に入っている状況なら私が負けるわけがない。今なら腹を割って話せると思ったのだけど……。
「じじーはかんけーねーよ。……だが、そうだよな。そう見られてもしかたねーか」
自分の手を見て何かを考えているポヨ令嬢。ザバっと湯船に頭までつっこんで「ああああ!」と泡のボゴボゴという音とともに叫びが聞こえる。
一気に湯船が汚れてきた。泥汚れもあるだろうが、何かの魔法か……湯船がみるみる汚くなった。二人共ボロボロだし魔力多めでお湯を作り出したのも汚れが落ちやすい原因かもしれない。
しかし叫ぶとは……なにかストレスなのだろうか?ふと静かになったと思ったら立ち上がったポヨ令嬢。
「ワケは話せねー!いつか信用されるようにする!以上だ!!」
勢いよく湯船から顔を上げた彼女。ビチャリと汚水が彼女からかかって……何かよくわからない宣言をされた。
「髪黒かったんですね。体洗いましょうか?湯船のお湯入れ替えますねー」
「……お、おう。わりぃな」
後にエール先生に彼女への対応はこれで良いのか聞かれた。
数秒固まって考えてしまったが……あれ?いつの間にかポヨ令嬢に対してもいつもの対応をしてしまった気がする。悪役令嬢してたはずだったのに!!?
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