第259話 美人 の 陳情
「こちらの装飾はいかがでしょう?」
「良いですね!髪型はこっちで!」
「はい。ミリア、後ろを向きなさい」
「はぃぃ……」
ディア様との打ち合わせはそこそこ上手くいき、シャルルやレージリア宰相の意見も聞いてくることが決定した。
そこでふとディア様にうちの人間にももう少し良い服を着させるように言われた。
特殊な体質でシャルルの花嫁候補に一応呼ばれたミキキシカやミリーの服についてだ。これまで二人は学園の制服で私の後ろにいてもらったが、一応婚約者候補の中でも最有力である私の取り巻きなのだからと……皮肉ではなくもう少し良い服を着ても良いという「許可」を貰った。文句を言われればディア様の名前を出しても良いそうだ。
……どうせなら皆も着飾らせることにしよう。
この国には暗黙の了解として「身分による服の豪華さ」にある程度段階がある。
身分の低い人間が自分よりも豪華な服を着ていると問題になることがある。羨ましいと思うだけなら問題はないが……この国のモラルはそこまで良いものではない。謎の事件や事故が起きるケースも有る。たかが服なのに。
というわけで以前から前世のデザインをエール先生に丸投げしていた中の……幼児体型の私には似合いそうになかったデザインの服をどんどん作ってもらう。
ミリーにミキキシカ、モーモス、うちの派閥につくと決めた商家出身のクラスメイトのノータに赤貧貴族レーハ。やっときたイリアのドレスもだ。他にもうちの人間の服装は良いものを作ってもらう。
お呼び出しのかかっていたケミールには途中で帰ってもらうことになった。そもそも彼女は海の人魚であるため活動に制限がかかってしまう。環境の違いから怪我や死につながることもありうるため貴族院からの要請は「頑張ったけど無理でした!」と言い訳を作るためにリヴァイアスからの輸送途中で予定通りに帰した。
「こんなにもいい服、本当に貰っても良いのかしら」
「礼だというしの……はぁ」
ずっと死んだ顔で会場の隅にいたクラルス先生と飲んで酔っ払って絡んでいたフィレーにも色々と助けてくれたお礼も兼ねて服を作ろうと提案した。
二人はできるだけ会場にいるように言われているみたいだけど……既に数回逃亡してどこぞのオーガが捕獲してくるのである。しかも全く似合わない超がつくほどのフリフリドレスとなって……可哀想過ぎる。
あまりにも憔悴していたし「ドレスが良くないんじゃないですかねー」とオーガ宰相……じゃなかった。レージリア宰相に言い訳をして会場からこちらにつれてきた。二人もこれまでにないデザインの服を楽しんでいるようである。
やはり新品の服というのは良い。気分転換にもなる。
豪華な材料から作り出される服を私が着ると思えば精神をすり減らされてしまうが、皆に着てもらうのならかなり楽しいし、材料は好きなだけ使ってもらっても良い。
「ガニューラ、すぐに作りなさい」
「はい」
エール先生が冷たい声でガニューラに命じた。
ガニューラは闇の迷宮から財宝を持って帰ってきた。出てきてすぐに私と伯父上の仲を心配していたが既に決着がついたと聞いて驚いていた。
彼は何故か頭がツルツルになっていてそちらにばかり目が行ってしまう。……まぁ反省して働いてくれるなら問題はない。そんなに闇の迷宮はストレスが溜まったのだろうか?少し痩せたようだ。
彼には彼にしかできない仕事を頼んでいる。針と糸を水の魔法で何十本も同時に持って……凄まじいスピードで縫い物をすることが出来る。以前着ていた服は全て自作だったそうだ。
これはタナナ伝統の水魔法を練習する方法であり、幼い頃から練習すれば緻密な動作ができるようになるらしい。繊細な織物を作ることも出来るタナナの資金源の一つだそうだが……なんだか内職っぽい気もする。
私もやってみたが無理だった。生地の一本一本まで感じ取ることまでは出来るが針を動かそうとすると生地をちぎってしまってドレスどころかボロ布が誕生してしまった……要練習である。
エール先生が皆を採寸し、タラリネがたくさんある布や糸を用意し、ガニューラが二人の指示でそれを形にする。
どんどんできていく衣類。ミリーたちが出来上がった服を着ていくのを見るのはとても楽しい。
トルニーやミュードにも新しいデザインの服を着てもらったが……トルニーは王宮にいる間まともな服を着ていることもあってすごく立派に見える。普段は不審者の権化のような石のペストマストに謎の暴漢のようなファッションセンスだからか普通の服を着ているだけで立派に見える。
親分さんよりも背丈もあって肉付きも良いし、所作がとても礼儀正しい。……普段からずっとそうしてほしいものである。まだまだ太っているモーモスもマッチョになったトルニーの横にいれば比較的痩せたように見えるな。
彼らにもちゃんとした服を着せることで私、ひいてはリヴァイアス家の格が上がる。
「癒やされるぅぅ」
すぴーすぴーと寝ているリューちゃんを小突こうとするオルカスを止めるために撫でながらしみじみ思う。――――……やはり平和なのは良い。
少し前までは伯父上との戦いは命の危機があった。今だってライアーム派閥も健在だし、王都にはゴミ貴族もまだまだいるが……やはり直接的に大きな危機が来るとわかっている環境ではなくなったのは気持ちが楽になる。来るとわかっているライアーム息子からの求婚は軽くあしらって、無理そうならシャルルに任せればいい。
遠慮しながらも目を輝かせているミリーは可愛い。ミキキシカは高価そうな衣装に右手と右足が同時に出してしまっていてガッチガチだ。うん、わかるよ。私もそんな気分だったよ。
王宮に出入りする私の近くにいる人数の全員分、それも何種類も服を作るが……なんだろう。エール先生は完璧に綺麗だ。イリアの小麦色の肌にスレンダーな体型のドレスもすごく良い。
大きさが規格外なジュリオンや牛獣人のダグリムはちょっと美しさの基準がわからないが、喜んでるようで何よりである。
「失礼します」
「え?わ、わ」
ニマニマとジュリオンを眺めているとドレスを着たジュリオンの肩に座らされた。私が乗りたいとでも思ったのだろうか?
「どうでしょう?」
「あ、なるほど。良いんじゃないですかね?」
座り心地か。うん、よく見える。
片方の肩を出したデザインのドレスにしたのはそういう理由だったのかな?
「もっとこう、盾になるようなものがあれば良いのですが……」
「それはもう服じゃないのでは?」
この後は面会の予約と書類業務だけだし、楽しめる間に楽しもう。
装飾品なんかは私が選んで渡していくのが良いらしく、皆に手渡ししていく。恐縮されたりもするが……こういったご褒美によって忠誠心も上がるとかで直接手渡しするのが良いらしい。大昔の給料やボーナス支給みたいな考え方だな。
それに「当主からの褒美」はうちで働く他の人も士気が上がるのだとか……今回は特殊なケースな気もするが。
「ほ、ほ、ほ……本当に良いのでありまっスかっ?!」
「ミキキシカ、似合ってますよ」
「大切にするね!」
「ミリー、でも好きに使ってね?それはミリーのためにあげたのもだから、ミリーのためになるならどうなったって良いんだからね?」
「……ん?よくわからないけど大切にする!」
「はい」
私の部下であることから嫌がらせをされることもあるかもしれない。そんなときにあまりにも物に執着してしまうとそれを狙った嫌がらせもありうる。
物よりも命のほうが大切なのだ。だからいざとなったら売ったり、捨てても構わない。……後でエール先生経由で伝えてもらおう。
…………しかし、会社の社長からもらう金一封のようなものだろうか。まぁやる気が上がってくれれば何よりである。
「助けてください!お願いします!!」
「何者かっ!」
のほほんとしていると……トラブルがやってきた。
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