第257話 王妃 の 嗜み
「オッヴァーディア様」
「ディアでいいわよ。貴女は侯爵ですし……何よりお菓子友達でしょう?」
「ありがとうございます、ディア様。私のこともフリムとお呼びください」
たまにこうやって同じやり取りをする。
私にはわからないが王宮の中でもシャルルの近く以外は活動範囲外だったし、私とディア様の関係を知らない人もいることから周囲に私の立場を周りに見せつけるために必要らしい。
「ん……良いのかしら。陛下に嫉妬されそうな気もしますし」
「あ、それはないので大丈夫です」
この国において私の考えるお菓子は画期的であるようだ。
タルトにプリン、ケーキにロールアイス……作ったそれらは今も開発を続けている。
だいたい人に任せているだけなのだがアイデアを伝えるだけで新たな物ができていくのは楽しみである。
かぼちゃプリンや黒ごまプリンがあったのだから、この国の多種多様な果物で代用できるかもしれない。
指示しただけだがなかなか開発はうまくいっているようだ。元はプリンだったはずだが軽く砕いた柔らかめのそら豆のようなものを練り込んだシート状のお菓子なんてよくわからないものも出来ていたりなど……もはや私のアイデアを通り超えていてとても面白い。
その分失敗もしているはずだがうちの人間もそろそろかなりの人数になっていて試食する人に困ることはない。特にうまく出来たものは王宮での私の地位のためにもレシピを蓄えていっている。エール先生曰く令嬢とのやり取りにお菓子は有効らしい。
うちの人間がいくら美味しいと言ってもうちの人間による私へのご機嫌取りの可能性もあるし、たまに確かめるためにもシャルルにも食べさせている。ついでにお菓子好きなオッヴァーディア様と……シャルルに婚姻のためにかとてつもない量の仕事を引き受けて忙しそうにしているレージリア宰相にも。
「ところでどうしたの?お菓子の話をしたいわけじゃなさそうな髪をしていますけど」
「このアホ毛のことは気にしないでください」
勝手に動くこのアホ毛で何がわかるというのだろうか?
ディア様に「令嬢たちに対するアプローチは何が良いのか」を聞いてみるとディア様も困っていた。
彼女はシャルルの前の前の王様が王家の養子にした。
本来であれば嫁として嫁いだ段階でこんなに大きな顔はできない。彼女の場合は事情が特殊すぎる。彼女が嫁いだのは貴族派閥の当主だったがその方は流行病で死亡。彼女は貴族派の旗頭になった。
そしてシャルルの母親やシャルルの兄や姉、兄や姉の母親は皆亡くなってしまっている。病気だったり事故だったり……。 この国における「王家」という家は精霊と人を繋ぐ重要な家であるにも関わらず人がとても少ない。
直系で生きているのはシャルルとライアーム、まだ認められてはいないがライアームの息子と娘のみ。現在女性で王家の教育を受けたのはディア様だけとなる。
「あまり口出しできるような立場ではないのだけど……フリムちゃんは何をすればいいと考えますか?」
「……教育と確認ですね。王妃になるとか以前に彼らの教養がどれほどなのかを確認しないといけません。これから王妃や貴族の当主になるのにはあまりに教育が足りてない方も多くいるはずです」
「そうねぇ」
「ディア様が声をかければ彼らがどんな人間なのか、またそれぞれの適性を調べることも出来ると思われます」
「わかったわ、やりましょう……でもどうすれば良いのか、手伝ってもらえるかしら?」
「はい!」
彼らに苦難を与える悪役令嬢らしいだろうか?……いや、なんか違う気もする。
だけどこのお見合い大会の参加者全員の能力や資質、性格の確認は絶対に必要だろう。誰が王妃になるにしても誰がどこの貴族当主になるにしても!プロファイリングは結婚以外にも役に立つはず!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「それは教育として必要なのでしょうか?」
「以前教わったことなのですけど……」
ディア様と私でどのようなことをすれば良いのかとにかく書き出していっているが難航している。
私は一般常識から貴族としての常識。それに彼ら個人個人の性格を見るために答えの無いような問題に対してどのように解決するのか?彼らの人間性を知ろうと主張した。
しかし、ディア様は詩の書き方や他国との外交方法、皮肉の言い方、皮肉の躱し方、遠回しに「二度とその顔を見せないで」と遠回しに伝える言い回しなど……多岐にわたって教えるべきだと主張してきた。
私が『能力や資質、人間性の確認』を調べたいのに対してディア様は『王族として受けた教育』を全員にするべきと考えている。
「私でも教育を受ければすぐに王家に馴染めたんだから皆できるわよ」
「…………いえ、全体の確認は絶対するにして、全体への教育と特別な教育は分けていくことにしましょう」
エール先生やディア様おつきの方が私にそれはないとディア様の後ろから教えてくれたので回避する。
普通に考えて貴族派をまとめたり、この王宮で安定した地位を獲得して好きに振る舞えるのはきっとこの女性に何かしらの才能があるはずだ。というか教育の内容が酷い。必要だとしても全員にではなく王妃になった人に裏でこっそりするべきである。
私が何をしたいのか図解してディア様に説明する。
フェーズ1が『全体を精査すること』だ。シャルルの相手にふさわしいか以前にどんな人がいてどんな人物かを調べる。人には個性があり、得意な分野や不得意があるのは当たり前だ。
フェーズ2が『明らかにやばいやつは落として篩いにかけていくこと』である。王妃……国母になる人間にはそれ相応の能力が求められるはずだし、様々な試験をクリアしてもらい、それに伴ってディア様によるまともな紳士淑女としてのレッスンをする。
最後にフェーズ3が『最終的に選ばれそうな人物を厳選し「王妃としての教養」を行うこと』である。男性もここまで残ればかなり能力も人格も高い人物になるだろうし、シャルルの部下や国の要職につけるように動けば良い。自分の家の当主になるだけだとしても話の分かるしっかりした人物であれば縁を繋いでおいて損なことはないだろう。
そうして最後にシャルルが出てきて選べば良い。
「でもそれだと誰も残らないか……多く残りすぎるんじゃないかしら?」
「残らなければ今回の催しを第一回として、第二回を開催すればいいでしょうし…………多く、そっかたくさん選んでも良いんだった」
一夫一妻制度じゃなかった。シャルルは王様だし、客観的に考えれば王家に人がいなさすぎることから人を増やす必要もあるはず。
ん、あれ?多すぎると王家的には問題?
「多く選ぶのは問題があったりするのでしょうか?」
「精霊の導きというか喧嘩がね。ほら、高位貴族ともなれば精霊と供にあってもおかしくないから」
ディア様によると喧嘩が派手になるし、精霊の相性が良くないと酷いことになるらしい。
王家の精霊は人の形をしていて特別だ。ある程度は他の精霊も一目置くような部分もあるが必ずしもその限りではない。
大昔に火の大精霊と契約した王家の人間は火の巨人となって国中荒らしたそうだ。その際はリヴァイアスを筆頭としてその王を打ち倒したと歴史に書かれている。……そこから考えるに王家の精霊は「絶対に逆らえない存在」ではない。
結婚に精霊との相性が関わるって面倒だな高位貴族。
子息や令嬢に行う教育を裏から操作するってのは悪役っぽい気がしてきた。わがまま放題してきた貴族にとってはさぞ嫌な行事だろう。これを企画し、裏で考える私はかなりの悪なんじゃないだろうか?
「ふっふっふっふ……」
「フリムちゃん?フリムちゃーん??」
「フリム様はなにか深く考えこんでいるようです」
人間性を知るために『馬車を人が遮った。どうする?』とか『国の新たな政策が実家に不利益をもたらしそうである。しかし国益は出そうである。どうする?』そんな問題をいくつも出してよく調べよう。そして程よくストレスを掛けて私が発案したと教えて私にヘイトを向けさせるなんて良いかもしれない。私を舐めている令嬢方であれば腹が立つだろうし本性が明らかになるかもしれない。いや、隠れてやり過ごすほうが良いか?
…………どうするにしても刺されないようにしないと。
いつの間にか没頭して圧迫面接やビジネスマナー、どう立ち回っても正解のなかった試験の内容何かをこちらに合わせて書き出していくとかなりの時間が経ってしまっていた。いつの間にかディア様の膝に載せられている。
「かわいいわね。うちに欲しいぐらいよ」
「ダメですよ」
そして気がつくとエール先生がカレーうどんを作っていた。
カレールウとうどんの乾麺は持っていたようだし、城下で流行っているカレーをディア様が所望されたようだ。
「あら、私が食べさせてあげましょうか?」
「大丈夫です」
ディア様の膝を降りて席に座り直してカレーうどんを食べる。
私の前には箸が用意されていたので普通に食べる。
「これが流行りの!美味しいわね!!」
「もうちょっと改善したいのですが……」
「ここまでの美味しさなのに!?」
もう少しネギのような野菜がほしいな。ベースが香辛料の香りが強いし、魚から取った出汁が少し喧嘩してほんのりアクっぽい。これはこれで美味しいがもう少し改善が必要だな。
ディア様は美味しい美味しいとドレスにカレーはかかるのも気にせずうどんを食べているところを見るに王宮の人間にも通じる味だということがわかる。これでも良い味なのだが私にはもうあと一歩足りない。………クセもなく、長期保存できて、大量に作れていた前世の食品メーカーってすごかったんだなぁ。
食事のマナーも追加するべきだろうか?いや、カレーうどんを食べるための貴族用マナーってなんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます