第243話 選択肢っ!!


「なっ!!?グォアアアアアア!!!!???」



――――予想外に首を落とされたが正直あまり意味はない。むしろ伯父上が致命的なダメージを受けている。


獣のように唸る伯父上が少し心配になるが……なんか光ってる伯父上の耐久力を考えた上で――――ほぼ力加減無しの全力で地面に叩き潰した。



「ゴァッ?!」


「うぁっ!!?」



結構な一撃だったし、無力化出来たと思ったのだが……まだ刀を振り回す伯父上に驚いて下がらざるをえなかった。


密封された安心安全の鎧の中からの視界と違って破れた首筋の部位から刃物が振り回されたのを見て後ろに引いた。刃物怖い。



しかし、さすがの伯父上もかなりのダメージのようでかなり悶えている。しかし様々な方向に刀を振るい続けていて手が付けられない。


……伯父上は諦めてはいなさそうだ。むしろ見えないはずなのに、いや、自分の領域を使ってか探り探りでこちらを把握して切りかかってくる。


ただ狙いはイマイチだ。魔導鎧の巨体であるリーチを活かして2発3発と安全圏から反撃する。



「ゴフッ!どこっ、だぁ?!」


「頑丈ですね」



魔導鎧にはウェイトもリーチもあってパンチの一発一発が交通事故のような音がするのに全くひるまない。


膝への袈裟斬り。避けられずに当たると同時に頭に拳で鉄槌を落とすがギリギリで避けられ頭部を掠った。


見えていないはずなのに、そのまま胴に向かってくるりと回転して切りつけられた。


後ろに回られたので前に大きく飛んで転がって逃げる。魔導鎧の尻を切りつけようとしていた伯父上はそのまま地面を切っていた。



――――よくもあのダメージで動けるものだ。



頭は切り落とされたがそもそもそこに私はいない。四メートルを超える巨体の中で自分が何処に乗るかを考える必要があった。そこで頭は大きめに作ってその中に乗るという案はあった。しかし体育座り状態でも狭くて厳しかったし杖が大きくて邪魔……何より揺れる。


では、何処が良いのか?人体の重心は臍の辺りにあると前世の体育で逆上がりするのに学んだ記憶があった。


次はその位置にしてみたのだけど……足の可動域が近い。金属で作った大腿骨部分と伸縮するゴムや金属板を張り合わせた複雑な外骨格があって……そのすぐ上ともなればとにかく揺れる。いや、何処に乗っても揺れるがそこでは駄目な理由があった。


魔導鎧は戦闘を考えて作られているため当然激しく動くことを想定している。なのに試験段階で折れたり割れたり弾けたりした金属製のバネと骨組みが近くにあるのだ。

歩くだけで自爆する可能性もあるし危なすぎる。


武器を持ってそれを使うというコンセプトがあるが腰というのは意外と稼働させて使うことになる。


乗るのならやっぱり頭か胸郭の中でと考え……人間で当たる肋骨内に席を作ることになった。


安全や秘密道具のために背中側は色々ゴチャゴチャしている。……マントも使おうとしていたが動かすと引っかかったりして使いにくくなったので不採用。


周りの確認のためのレンズや魔導具もたくさんつけられているため、頭部はそもそも必要なくなった。しかし必要がないのに皆当たり前のように形だけは作るのだ。


私としては別に頭自体無くても良いが、私以外の皆「人型なんだから頭は必要」と言い張った。


近接戦闘が得意なジュリオンは「視線は対人戦闘で重要」だと主張するし、エール先生は「頭がないと兵が『首が落とされた』と困惑しかねない」と言っていたのでとりあえず形だけ作った。


食べ物でも詰めようかと思ったが搭乗している胸郭部にそういうスペースはあるし、試しに頭の部分に食べ物をいれると砕けたパンくずが頭に落ちてきて邪魔だったので不採用。


何か機能がほしいなと頭頂部にメンテナンス用のペンチや金槌、ナイフを収納してみた。胸郭と頭部の間に金属板を挟んで完全に行き来をなくして刃物が落ちてくることも防ぐ。腕を水の魔法で動かす都合上「物を収納し、それを取り出す」という精密な作業は難しいし定位置に作業工具があるのは理にかなってると思うんだ……。


しかし、外から見て「頭にナイフや工具を自分でぶっ刺す」のは見た目が猟奇的だとして盛大に却下された。物を収納するのに頭は使えると思ったのだが……。



考えに考えたが……要は「頭に何を詰めて」「何に役立てるか」が大事なわけだ。



戦闘で使うか、行軍で使うか、今回のみ使うか。まだまだ開発中で定まってないのも悪いが結果として前世の知識から考えに考え抜いて……頭部には「赤い染料」と「激辛香辛料」を入れた。


もしも海や山で遭難した時なんかに真っ赤な染料が一気に噴出されれば見つけてもらいやすくなると……赤やオレンジの塗料が前世で使われていたはず。それに魔獣が来た時には刺激臭で退治できるかもしれない。


背中に内蔵されている着火の魔道具を使って染料と香辛料を包む紙を燃やせば狼煙にもなる。私がいるのは胴体だから香辛料も問題もなく活動できる…………でも、まさか煙の出るトーテムヘッドくんからもアイデアが思い浮かぶとは思いもしなかった。アイデア段階で頭を爆弾にしようとしたどこぞの賢者がいたがそれは他の賢者たちによって止められていた。



そうしてできた遭難&害獣撃退用の頭部。切り落とされた途端に大きな頭部から噴出したそれらを伯父上はもろに頭から被っていた。



「こゴファッ!!?なんいンヴェフォッフォ!!?」



香辛料と塗料が頭からかかって激しくむせている伯父上。


距離を取ったタイミングで水で流そうとしたようだが目や喉にも入ったのか体を引きつらせるほどに激しく悶えている。これは勝負アリだろうか?



主審のいるはずの席を見るとリヴァイアスとルカリムの戦いによって吹き飛んでいた。というか……あれ?周りを見ると私と伯父上たち以外誰もいない。頭上のリヴァイアスたちは雲を切り裂いて遠く空の彼方で戦っている。



「フリムっ!!」


「なんです?伯父上?これ明らかに私の勝利なのですが」



こちらは「攻撃魔法を使えば勝ててましたよ?」と余裕たっぷりに答えるがそれまでの余裕さはない。


伯父上には切った場所を爆発させる魔法を使える。この鎧は基本的に内部から水で動かしているため……ここからの攻撃は致命傷になりかねない。



「このっ!!ク……ッソ?!いや、良いっ!良い魔導具っだっ!なぁ!」


「そうですね。良い物を作ってもらいました。まだ開発途中ですが全ての水魔法使いが使えるようになればいいなと考えています」


「なっゴホ!……に!?」



あまり見えていなかったのか狙いを大きく外した斬撃。魔導鎧の手で掴んだ。


引き抜こうとされたが、ゴムと関節に食い込んだのか刀は動かず、伯父上も刀を振るうのはやめてくれた。


目も激しく涙を流しているし、きっとまだまだ耐えられないほどに痛むだろうに――――戦意は衰えていないようだ。



「ですから伯父上、伯父上は水の属性魔法使いのために長になったと言うのなら、これ以上ライアーム派閥につかず、シャルトル陛下にもつかず……私についてくれませんか?」


「ゲッフゲフ……んん!」


「リヴァイアスは良いところですよ?海に面していますし、海洋国家と言われるクーリディアスもあって水属性の人間にとっては住み良い環境だと思います。中央の争いを避けられる。きっと皆で生きるのに良い選択肢だと思われます」



刀を掴まれて動けない状態で自分の顔に水を当てている伯父上。


きっと武器を取っている今の状態ならボコボコに出来る。……そうするべきかもしれない。だが、単純に痛めつけたいわけでも勝敗を競いたいわけではない。


争いを止める『説得』がしたい。


競技で勝って、安全性を高めるだけでも良かったが……伯父上はムカつきはするが話ができない人ではないのだろう。出来るのなら手を尽くしたい。



「誰かの過去を嘆くのなら、不幸をこれ以上起こさないためなら――――私に協力してほしいです」


「そっの価値が、グフンっ!フリムっ!ゴホッ、お前にあるのか!?」


「あるかどうかはわかりません。ただ、私はできるだけ人が死なないような道を模索してみたいです」


「かなえ、られんかもしれんぞ!おまえがそうした結果、より多くの人が死ぬかもしれん!!」


「そうですね。そうかもしれません」



よく甘いと言われる。


もしもこちらの世界で普通のゴミ貴族や、パキスのように育てばきっと私ももっと攻撃的な考え方が「常識」であると認識していたはずだ。



「この世の過去を、今を知らぬから儂を勧誘などするのだ!本気で仲間のためを想うのであれば討ち取っておけば良い!今なら誰にも気が付かれんだろう!!」


「……そうなのかもしれませんね」


「そうだ!だから今フリムは危機的な状況に陥っている!それでも集団の長のつもりか!!?覚悟が足りん!!」


「私は……私なりのやり方で皆の長となっています。甘すぎると良く言われます。自分でもそう思うことはあります」



ギレーネの扱いだってそうだった。


彼女は私や私の仲間を攻撃して、さらなる被害を防ぐためとは言え一度恩赦を与えたようなものなのにまた裏切った。


孤児院には怪我人も出たし、うまく行っていなかったら学園は壊滅的被害に陥っていただろう。もちろん子供もたくさん死んで。


それにクーリディアスとボルッソファミリーについてもだ。捕まえた非戦闘員に隷属の魔法をかけなかったとはいっても少なからず問題になっていることもあったと報告にあったし、ボルッソがあれだけのことをしても生き残っていることから事情を知る家臣からは「甘すぎる」と見られている部分があるとわかっている。


ガニューラだって何を考えているのか全くわからない。



「それでも私は、人はできるだけ死なないほうがいいと考えます。どうしようもない場合にはそういった手段も取るかもしれませんが」



それでも前世の倫理観のある私には……この選択は将来後悔することになったとしても――――何処かで『間違ってない』という確信もあるのだ。


敵であれば今までにも殺したことはある。しかし可能な範囲であればこの『甘さ』は大切なものだと思う。


人は過ちを犯す生き物だ。間違うこともあるし絶対に許されないこともある。


それでも機会を与えることは間違っていないはずだ。人は悔い改めて成長することもある。それはパキスやモーモス、ギレーネで学んだ。


その数故に誰かが何かをしでかすと思っていたボルッソファミリーだって本当に真面目に働いてくれている。



「ならば」


「伯父上、私と伯父上はこうして話し合えています。ならばまだその時ではありません」


「…………愚かだの」



自分でも愚かだとわかっている。


だけど、今までの選択でもっと私が冷酷に全員殺していたとしよう。


するときっと私は――――……良心の呵責で今のような気持ちではいられなかったはずだ。


きっと自分の関わったことで誰かが死ねば、気分が悪くなる。



「そうですね」


「いま儂に殺される可能性もあるな」


「そうかもしれませんね。やられる気はありませんが」



この世界では私の選択は愚かかもしれない。集団の長として間違っているかもしれない。それでも私の手の届く範囲で可能であるのなら……エゴともわかっているが、その上で私は私の生き方を貫きたい。


一度死んだ経験があるからこそ、前世の優しさを忘れたくないのだ。



「ならば儂に見せてみよ。その価値があるのかを」


「はい」



自分が正しいかどうかは分からない。それでも自分の力で可能なのならば――――頑張ってみようと思う。


伯父上の刀を一度手放し、お互いに距離を取って向かい合った。

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