第172話 イリーアン姫……。
「微妙ですね」
「さ、最高に美味しいです!」
「硬いままが良いのに」
「とても独特な風味ですが、いや、奴隷に食べさせるのにはちょうどいいでしょう」
「エール先生以外引っ込んでてください」
食料がいっぱい手に入ったは良いが食べ方が良くわからないものも多い。
しかしとにかく米だ。いくつかの品種が手に入ったし料理しなければならない。
炊飯器のような便利なものはないし米は料理の仕方が難しい。品種で全然扱い方が違う。海外では一度茹でて茹で汁を捨ててもう一度茹でたりとかしないと美味しくなかったりとかテレビで見たはず、もち米だって蒸すわけだから蒸したり茹でたり炊いたりと……たくさんある品種ごとに様々な手をつくしてみた。
もちろん失敗も多い。茹で時間が足りなかったり苦味が出てしまったり……そういうものは潰してライスペーパーや餅のように出来ないかと試したりもした。米っぽいは米っぽいがやはり日本ほど品種改良された米でもないし長年の技術の積み重ねによって美味しく炊ける炊飯器が無いのが原因かもしれない。精米機の中ってどうなってたんだろう?美味しいご飯食べたい。
品種が違うからか味は似て非なるものではあるが理想を追い求めて試行錯誤しているうちに味見を申し出る人は多くいたが……正直な感想を求めれば失敗したものでも「天上の美味」とかふざけた回答が返ってくる。食におべっかは必要ないというのに。
幼女ボデーな私には食べ切れないが、昆布とかも獲って来てもらってご飯を炊くのにも少しは美味しく作れたと思う。満足するほどではなかったがこれならカレーライスに使っても良いかもしれない。
領において食品の選択肢が増えるのは良いことだ。他にも捨てられていた魚のあらや骨、蟹や海老のからも加熱してスープの出汁を作ってフードロスを減らす。完全に味を出し終わったものは細かく砕いて肥料にしたり家畜の餌に出来ないのか実験してもらう。
隷属兵の扱いなんて「飯なしでいいだろう」と言う風潮だが私はそうは思わない。人権のない世界で、戦争の協定や最低限のルールもないのだから私のほうがおかしいのだが食べられないのは辛いから餓えないように務める。お腹いっぱいとはいかないかもしれないけど餓死はさせない。
幸いにして海は豊漁だし、食料が届くからむしろ過剰気味ではある。今のうちに食料は加工して保存食にしておくのだ。
「フリム様、そろそろ領内の視察があります」
「はい。イリアさんの服の用意はできましたか?」
「もちろん、本人は嫌がっていましたが」
「楽しみです」
お米の味の追求をもっとしたかったが時間も限られているし仕事をしなければならない。
イリアさんは王族だし貴賓待遇だ。彼女を伴って領内を回ることで隷属兵の不満を解消、やる気を出させるのだ。
彼女は軍の人には慕われているし彼女の取り扱いを非道なことをしていないと隷属兵にアピールすることで反乱や抵抗を抑止、命令ではなく自発的に素直に働いてくれることを期待する。
「イリアさーん入りますよー!」
「これ恥ずかしいんだが!?僕には似合わないよっ!!?」
海猫族の女性陣に彼女の服を任せていたが普通にドレスは似合っていた。
若く、水も弾きそうな小麦色の肌。男らしい貴族の服とは印象がまるで違ってドレス姿は可愛らしいとはっきりわかる。
「そちらの国でどうかはしりませんがこちらの国では女性は女物が当たり前ですし『貴人にドレスの一つも渡さなかった』と後で追求されても面倒ですからね。とってもかわいいじゃないですか」
「似合ってない!可愛くないからっ!!?」
「さぁいきましょうね。兵士の人たちがどうなってるのか気になってるのでしょう?」
「うぅ……こんなはずかしめを…………い、行くから!でも下に履き物をさせてくれっ?!」
「似合ってますし大丈夫ですよ!さぁさぁ行きますよ!!」
胸元と足のあたりを押さえているが何が恥ずかしいのだろうか?
調査によればクーリディアスでも女性はスカートが当たり前のはずだけど王族だけ違うのかな?
ズボンを海猫族からもぎ取ろうとしているがスカートにジャージの高校生じゃないんだから……ミニスカートではなく、ロングスカートなのに気にしなくてもいいと思う。
エール先生は何やらクラルス先生と小声で話し合っている。きっと他国の王女である彼女の扱いというのは政治的にデリケートな部分もあるのだろう。シャルルの乳兄弟であるエール先生にもレージリア宰相の娘であるクラルス先生にも難しい問題なのかもしれない。
領内を見て回ると働いている隷属兵は膝をついてこちらに頭を下げてくるし彼女も隷属兵の皆さんの無事が嬉しそうである。恥ずかしそうでもあるが。
「フレーミス様、砦の建設終わりました。次は何を――――」
「アモス、クリータ列島の調査をお願いします。海と空からの報告では島の中で動くなにかがいると言う報告が来ています。おそらくクーリディアスの残党がどこかに隠れて居るのではないかと思いますが……アモス?」
小さな砦をいくつもアモスには作ってもらった。
砦の作成はもっと時間がかかると思っていた。リヴァイアスは大きな領地だし領都から見える範囲だけでも海に面している範囲が広大である。小さな砦が点在していれば攻め込む側は中にどれほどいるかわからないので戦いを躊躇すると思ったのだ。戦闘を行うのにも使えるが隠し通路で逃げることも出来る。
砦は徹底抗戦するような運用は想定していない。領民が逃げ込んで白旗を上げるのにも使えるようにしたし、普段遣いにも便利なように農具や猟具、小舟を中にしまえるように考えておいた。
ちゃんと戦闘にも使えはするがマルチに使えるようにと良い含めて……作るのを急がせた。そもそも巨大な入江状であるし、いくつもある砦を見て敵が戦意喪失してくれれば良いのだけど。
クリータ列島はクーリディアス軍がいた島だが、島にあった物資をこちらに運び込んでもらっていて行き来は何度もしている。
島を拠点に鳥人と海の種族による広範囲の監視もしてもらっているのだが、島の外ではなく島の中に不穏な影があるという報告がある。おそらくはクーリディアスの軍人がどこかに隠れていたのだと推測できる。島に詳しい人間はほとんどいないし戦闘面で頼りになるアモスに命じるのが良いと思う。
ボルッソファミリー達を指揮して建設を終えたアモスは手が空いたはずで、次の仕事を伝えたのだがアモスは私ではなくイリアさんを見て固まっている。
「アモス?アモスさーん」
「フレーミス様が話しているだろうが!この愚弟がっ!!」
「ウガッ?!!」
ゴキンと鈍い音がしたと思ったらジュリオンがアモスの頭にげんこつを落としていた。アモスの立っていた石畳にヒビが入った。
音で周りの視線が集まり、イリアさんが隷属兵の人と話していたのにこちらに寄って来た。
「アモス殿?」
「いたたた、ねーちゃん痛いってば。…………イリーアン姫も壮健そうで何より」
「姫?……あ、その、あの、これはフリム殿のご厚意でっして………………似合いませんか?」
「…………………………トテモ良ク、オ似合イデス」
何も答えないアモスだったがジュリオンがイリーアン姫の後ろで剣に手を添えるとちゃんと答えた。
この姉と弟の力関係が透けて見える。
「そ、そっか、へへ」
日焼けか人種か、褐色の肌でもわかるぐらいに赤くなって照れているイリアさん。……他人の恋愛は見ていて面白いものだ。ちょっと応援したくなる。
アモスはクーリディアスの軍の末端からすると騙し討ちした卑怯者であり、彼を見た瞬間に反逆をしようとでも思っているのか隷属の効果で倒れるものも居るから領都から離していた。砦の作成だって重要な仕事だし……というかボルッソファミリーの建築能力はとんでもないな。
しかし、ふむ……アモスの何が良かったのかは分からないがイリアさんはアモスに気があるようである。
もしかしてクーリディアスの軍に潜入していた際に既にそういう関係だったのかもしれない。手は出していないという報告を受けたが……もう一度確認のためにも話を聞く必要があるのかもしれない。
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