第165話 橋……。


橋や周辺の様子を見るだけになるかもしれないし人数は最小限にするつもりだったのだがベスさんや他の商人も来ることになった。


ボルッソファミリーはボルッソと幼児と妊婦以外は全員ついてくることが決まった。ボルッソはスクリューとベアリングの研究で成果をあげようとした結果、魔力切れで倒れた。噂では「女好きの一般的な駄目貴族」「女好きが過ぎる」と言う程度しか聞いていなかったが家族思いな一面もあるようだ。



全く整備されていない河川の氾濫は日本では考えられない規模かもしれない。川が平地を覆い尽くすような場合もあるし、まずは規模を見てと思ったが……ほんとスマホがほしい。


専門家を現地に派遣して写真撮ってもらって、深さや幅に地盤の強度までを測ってデータで送って欲しい。それを元に工期や工数を算出してもらい、予算を組んで、地元の住民に許可を取って法的手続きに建設会社に説明会に………全部ない!


川について人に聞いても「腰ほどの深さのときもある」「大きさより深いときもある」「広い!」「魚は美味しい」「あっち!」「魚獲ってきましょうか?」「たまにあふれる」などと参考にならない。



行政なのにまともな地図すらないのはきつい。アプリ任せが当たり前で地図から移動速度を計算して時間や金銭の計算なんてしたこともない。せいぜい旅行や出張の時少し考えるぐらいである。


……地図ってどうやって作るんだろう?計器もないが昔の人は歩いて正確な地図を書いたはずだけど高さはどうやって……?嘆きそうになるが地図がなくても大丈夫なはずだ、ほしいけど。


ガタついて気分が悪くなりそうな馬車、いや恐竜のようなものが牽引しているから竜車か。軽快かつ酷く揺れて進む。



「一旦止めてください。<水よ。形作れ>」



威厳を持って座るように言われたが我慢できなかった。


竜車から外に出て屋根の上に水で椅子を作ってそこに座る。



「はしたないですよ?」


「エール先生も座って!」


「もう……」


「私はこの領地を預かるものとしてこの目で見たいのです!進みなさい!!」



エール先生に甘えるように言うと渋々座ってくれた。水で触ってる間は少し水で濡れるが私の水は私の操作ですぐに乾く。


ちょっと濡れる感じはあるがベアリングも板バネもスプリングもゴムでもない竜車の中はバターになりそうなほどに揺れる。王都では大通りや貴族街は道が石で整地されていてもかなりの振動があったが桁違いに揺れる。


早く行くだけなら水の腕に体を掴ませて蜘蛛のように移動したほうが確実に早い。もしくは鳥人トプホーかエール先生に抱えて飛んでもらうかだ。


空飛ぶワイバーンも居るにはいるがまだ慣れてないし事故が怖い。馬の乗馬体験だって細心の注意をしていても落ちることがあるのに空の上から落ちるのは怖すぎる。落下と爆発怖い。



「……面白いですね」


「何がです?」



揺れは水の操作でまともになって……景色を見ると少し面白いものが見えてきた。



「未知に触れてると言いますか……」


「??」



精密な地図もなく、マップアプリでその土地を調べることもなく目で見れる範囲を楽しむ。遠くではワーや三馬鹿が部隊を率いて走り回って安全確保してくれて居るのは心苦しいが仕方ない。


木々も草も土も空気も、私の常識とは異なるものも多い。サイのような生き物も視界にいるがこちらではポピュラーな生き物なのだろう。テレビでやっていたように「太陽の出る方向から木の影に苔が生えやすい方向が決まる」などの自然現象は同じなのだろうか?


見たことのない形式の家がチラホラあったり、畑らしきものに人もいる。


貴族や商人は土下座してくることもあるが亜人の領民の子どもたちが手を振ってきて結構フレンドリーだ。私も手を振ってみると「キャー」と楽しそうに走り去ってしまった。


異文化に触れるというのはやはり楽しい。ものすごく遠くに人よりも大きなイモムシのようなものが居るがそこは見なかったことにしよう。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




川に到着すると結構な距離と流れがあった。


子どもの私にも結構な深さに見える。川幅も200メートルほどだろうか、どのようにするかを話し合って手順を確認していると注意された。



「フレーミス様、気をつけください」


「んだんだ。よそもんなあらっぺぇやづらもいんだ。きぃつけるんだす」



向こう岸ではキャンプしている人もいる。


これから橋をかけるわけだが向こう岸には他領から集まってきた貴族や商人……その護衛たちが待機している。彼らは水かさが減る日もあるから挑戦できるまで待つつもりなのかもしれない。


他領の身元不明の人間なんて危険な存在である。ライアーム派閥の暗殺者が彼らに混じっている可能性も無きにしもあらずだ。私の周りの兵士の警戒も移動中よりもピリついているのを肌で感じる。



「――――まぁ、やるしか無いですね」



本来なら工事の邪魔など想定せず、もっと何ヶ月も計画して専門家に意見を聞き、素晴らしい橋を作るべきだと思う。


しかし今必要なのは食料と戦力であり、そのためには向こう岸の彼らを動かさねばならない。



「<水よ、意のままに動け>」



川を持ち上げ、流れはそのままに川底をむき出しにする。


水は溜めるとどんどん質量が増えるし濁って操作しにくくなるから流れはそのままだ。


少しずつこちらから橋を作っていくのが良いとも思ったが土魔法を使うのにも流石に範囲が広いし時間がかかる。水の流れは作業する子どもたちが危険であるし安全を考えないといけない。



「行け!馬車が通る幅だけでいい!作業に邪魔な大きな岩を撤去して向こう岸の人間に渡らせろ!!」



トプホーに向こう岸の人間には待機してもらうように言った。まずは敵か味方かわからないが食料の運搬のためにいるはずだし渡らせるだけ渡らしてしまおう。


亜人たちは素早く岩をどかし、ボルッソの子どもたちには泳ぎの達者な亜人が子供1人に付き一人はついてもらって簡易的な道を作る。直ぐに馬車が通れる道はできたし子どもたちには戻ってきてもらう、安全優先。


すぐに準備していた貴族や商隊がこちらに向かって押し寄せて……来ない。


恐る恐るゆっくりと歩いてくる。――――……いや、うん。水のドームの下を歩くなんて怖いよね。



「ご領主様におかれましては……」


「挨拶は良い!フレーミス様は大魔法を使っておられる!王命に従い領都に行くが良い!無礼は許す!行け!!」



うん、テロスやアモスの言うように軍は必要だった。私には知らない土地であっても「安全は当たり前」という先入感が残っていたようだ。商隊の人間や貴族の護衛の方々はどう見ても見た目が賊の人もいる。


岸の向こう側の村にいた商隊の人たちが続々とやってくるが大体の人数がこちら側に来ると一旦通行止めだ。工事をするのに私が狙われると川の水の下の人間に水流が降ってくる可能性もあって危険である。


実は結構余裕で話すぐらいはできると思うが威厳を持って魔法を使って見せるのも大事かと思って杖を掲げている。


川の水流を持ち上げる操作は作業員の存在もあって結構気を使う。


砂や不純物もあって海の水よりも操りにくい。川遊びやプールでも「いつの間にか誰も気が付かずに事故に遭う」なんてことはよくあると知っているし、見張りもしっかりしてもらう。


川の水流に向かって縦に伸びた六角形の島をいくつか作り、両側の岸を補強、少し高さを作って――――……その日のうちに橋をかけた。

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