第156話 怒りの王子?
「こ、これが人のやることか?」
「えーと、クーリディアスの王子?ですよね?なにか?」
シャルルが隷属の魔法をかけている中、アモスが立派な服の子供を連れてきた。報告では貴族と非戦闘員への扱いを確保することを条件に降伏してきた。見える位置にはいたのだけど安全上の問題から近寄っては来れなかった。
だが、今はアモスが武器を握った状態でこちらに連れてきてくれた。
「俺はイリーアン・ド・レース・クーリディアス。敗戦の将に勝者の名を聞かせていただいても?」
「フレーミス・タナナ・レーム・ルカリム、最近はリヴァイアスの名もついたところです」
明らかに貴族と思われる人の殆どは船をドラゴンに引っ張らせて逃げ出して誰も残っていない。――この王子以外。
「率直に言わせて頂くが……兵を全て隷属するなど馬鹿げている!」
「では全員殺せと?私はこれこそ一番平和に近い道だと思いますが」
「巫山戯るな!!どこが平和だ!?アモス殿も本当にこんな人物が主なのか!!敗戦の兵とは言え扱いというものがあるだろうがっ!!?」
王子は武装解除していて、アモスに肩を抑えられている。
私のことはジュリオンが抱えているが……なにかアモスの顔色が悪い気がする。私ではなく私の後ろのジュリオンに恐怖しているような?
王子にとって私は兵を全員売りさばこうとしている悪徳商人に見えているかもしれない。
「シャルル、いえ、オベイロス王陛下の隷属がなければ彼らは殺さなければならなかったのですよ」
「なにっ!?」
「――――数が多すぎます。私が全員凍らせて殺すのは容易ですが、彼ら全員を隷属無しでいれば反乱は時間の問題、クーリディアスの国元に送ろうにもまた我らがオベイロス国に侵略しようとする火種となるやもしれません」
「俺が命じれば!」
「王子である貴方が命じれば?王の意向一つで約束は無いものにされるでしょうし、そもそもあなた方は非戦闘員の多くいるリヴァイアスを勧告無しで襲おうとした卑怯者です。「戦だから」「クリータが勝手にやったから」という言い訳は聞きません。うまく行かなかっただけで、もしかしたら子供や無辜の民が傷ついていたかもしれません」
「し、しかし……」
罪悪感に溢れた渋い顔をしている。
この王子、ダメで元々の交渉をしてきているのだろうか?そもそも交渉慣れしていない気がする。
「私は戦争や人が傷つくことを極力望みません。人が生きる以上仕方のないものもありますが」
「そう、だな……すまない。こちらの事情ばかり押し通そうとしてしまった」
「いえ、将とは兵の命を預かるもの。で、あれば気にして当然でしょう」
膝から崩れた、イリーアン・ドレス・クーリディアスさん。
歳も16ほどだろうか?若く見えるし先に他の貴族に見捨てられるあたり、それほど良い待遇ではないのだろうか?
「……イリーアン殿、主についてひとつ言わせていただきたい」
「なんだ?」
座り込んだイリーアンにアモスが話しかけた。
「我が主はこの計画でこう話しました。『もしも計画が失敗して、私が捕まり、クリータとクーリディアスにリヴァイアスが占領されそうなら、私を悪者と吹聴して貴方が長になれるように努力しなさい。貴方になら、いえ、リヴァイアスの前で舞い、人望もあり期待もあった貴方がだからできることです。――――そして、敗北して、この身が捕まることがあればその手で討つように』と」
「はぁっ??!」
「フレーミス様!!?」
「フリム様?!」
「フリムちゃん!!」
「おっとぉー……?」
アモスっ!?今それを言わなく良いだろう!!?ジュリオン、エール先生、クラルス先生も近くで反応した。
うん、花嫁作戦よりも前は彼我の戦力分析も定かではなかったし勝敗はわからなかった。負けた場合は全員オベイロスに逃げ出して領地空っぽ計画も考えていたが……やはり当主である私が安全に近い海の中とはいっても最前線で動いていた以上、負けは充分にありえた。
もしもそうなればリヴァイアスの住人がどれほど酷い目に会うかは分からなかった。
アモスは元々慕われていて人脈もあるし、領地を纏められるだけの実力もある。その道はアモスが望むものではないかも知れないが、アモスが上に立てればリヴァイアスの民の命は守りやすくなったことだろう。
私は処刑される可能性もあったし……長期間の拷問をされるぐらいならアモスによって一突きに殺してほしかった。自分の死を考えるなんて、誰だって嫌だと思うが、リヴァイアスの領民の主になると決めたのだから少しは考えるべきだった。
「なっ!!?……いや、これが王としての器か、はは、負けた負けた!!我が国の誇る守護竜王も負けた!!全部負け!ははははは!!!」
王子が少し泣きそうなまま笑い始めた。今のうちに私は逃げたい。確実に来る説教から……いや、うん。命を粗末にしたかったわけじゃないんだ。
ただ『拷問』や『奴隷』という選択肢が普通にある世界だし、死ぬにしたって何十日もいたぶられた上に殺されるのは避けたかったんだよ。
アモスにやられればアモスがクーリディアスの信用も得られて何千、何万といるリヴァイアスの人が無為に死んだり売られないようにできるかもしれないし……だからエール先生泣きそうな顔をしないでください。私が悪かったです、もしもの場合ですってすいません。
「…………はははは!はぁ、しかし、非戦闘員の保護だけは頼む。頼める立場ではないがな」
「私のできる限りのことは尽くすと約束しましょう。勿論イリーアンさんのこともね」
「……良い王になるよ。あんたは」
「王ではなくて領主なんですが……」
それはそれとしてアモスのことでひと悶着あったがアモスの処遇は後回し、そして私も魔法の手が緩められずにエール先生たちによる私へのお説教も後回し……。
悲しげな視線を向けてきてなにか言いたげなジュリオン達だが、敵軍の最高責任者だった王子との会話には流石に口は挟んでこなかった。話は終わって王子は見張り付きでいてもらい、私は魔法に集中する。
ドラゴンは既に一掃したが別の島への攻撃は続いている。それにこの空間の維持もある……1時間後、シャルルによって普通ぐらいの隷属がかかった兵士たちを一度リヴァイアスに連れてくることが決まった。
竜の死骸は一旦クリータ列島に置いて、過冷却水を大量にかけて凍らせた。
「フリム?どうした?」
「すいません、限界です」
この戦いは準備からして何日もかかった。寝ても覚めても海底の空間だけは維持しないといけなくて、もうこれ以上は限界だった。
クリータ列島にはまだ捕らえきれていない兵士もいるがシャルルと私の精鋭と船を配置して、残りはバリスタや装備、クーリディアス軍の物資もこみでリヴァイアスの領都に全て移動する。
一応限界が来ればこうすることも伝えてはいたが、マズい。
仕事でデスマーチした時以上だ。腕も痛いし、睡眠不足で吐き気もする。
ドラゴン退治で既にかなり限界だったがもうこれ以上は無理だ。お酒を飲んでもないのに過労によって千鳥足でコンビニに栄養ドリンクを買いに行ったときを思い出す。
それにこの体の限界もクリータからの襲撃で大分把握できた。いや、あの体験がなければ「そろそろ限界」というのが分からなかったしある意味いい体験だった。
今度は船はなし、水を足元に配置、空を飛ぶ絨毯のように人を載せて移動する。船はクリータ列島にシャルルたちに残さないといけない。
「なんっだこれ!?」
「今更溺れさせる気か!」
「ふざけっ……うぐ」
いや、暴れる人も多いし腰ぐらいまでは固定して一気に運ぶ。
私が水を操作しているから水中に障害物はどこにもなし。リヴァイアス領都に入って砂浜にまだあった私の小屋に入って、全人員と道具を動かし終えたことを確認して……私は寝た。正直働き過ぎであると思う。
ジュリオンの肩で吐かなかったのは幸いである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アモス、本当に王子なのですか?」
「姉ちゃ……姉上、影武者などではなく本人だと思いますが?」
「いや、そうじゃなく、どう見ても女性でしょう、姫では?」
「え?」
「骨格を見ればわかるでしょうに……」
「はぁ、やっぱり気がついてなかったか」
「――――……せ、責任は取りましょう」
「――愚弟?何を……いえ、クーリディアスの姫君、何をされましたか?」
「俺の、いや、僕の国では王族は姫という制度はなく、みんな王子なんだが……思い切り胸のあたりを持って空を飛んだり、その、小用の際に共に行くかと聞かれたり……」
「すいません、その、いや、あの、知らずに……」
「黙れ愚弟」
「グェッ?!しかし!全く気づかず!男だとばかり思っ――――ゲハァッ???!!」
「……後、槍術で全身触られたな。胸も股も遠慮なく。武装解除だとして三度は触られもしたぞ、全身くまなく、な」
「イリーアン殿ぉぉおおお???!!ペゲフッ?!」
「いや、まぁ胸も元々無いしアモス殿にいやらしい気がないのは知っていたが……俺は言ったよな?アモス殿――――覚えておけって」
「…………」
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