第157話 卵?
「ふぁっつ!!?」
「――――おはようございます。お料理の用意は出来ているので食べましょうね」
「はい」
五日ほど寝て……起きた。エール先生がいて、すぐに料理が運び込まれてきて……食べさせてもらう。肉料理が中心であるが頑丈な幼女ボデーのおかげか苦もなく入っていく。
「あまり心配させないでください」
匙が止まって、本当に心配だったと、心配をかけたとわかる顔をしたエール先生。
「気をつけます……でも、エール先生もシャルルも無事で良かったです!」
「もう…!もう!!」
「えへへ」
暗い話にしたくなかったし確実に説教が来ると思っていたのでにぱーと笑ってごまかすとエール先生には効果が抜群だったようで匙を置いて抱きしめられた。
胸の谷間で子供の特権である役得を恥ずかしながらも感じられたので良しとする。説教に比べればこっちの方が良い。
あんまり無理しないでくださいとたっぷりデザートまで食べさせてもらってお風呂に入れてもらって甘やかされた。
エール先生も宰相とともに閉じ込められていたし、エール先生のために私が頑張ったと思われたのかもしれない……たしかにそれもある。
それにしてもなんか前世の夢を見ていたような気がする。
長い夢で、子供の頃に遊んだ夢や父さん母さんや妹弟がいた気がするが……最後に近所の古いアパートの解体によって台所の悪魔を道路でも見かけるようになった。あの日の思い出、朝、玄関で靴を履こうとして中から出てきて手の甲を……。おのれ、来世になってまででてくるか悪魔め。
ゾワゾワして無意識に頭を叩いた。あ、これは私のアホ毛だった。
それはそれとして何がどうなったのか報告を受ける。
シャルルたちは無事にクーリディアスの残党を捕縛、隷属することに成功した。レージリア宰相は私が寝込む前には完全に回復して最前線に行って、立て籠もる敵に対して容赦なく壁を殴って穴を開けて圧倒的な力を見せつけて活躍したようだ。
少し変な報告は捕らえて隷属させた後、全員を領都に集めようと船を動かすのに手間取ったようで……海はまだ冷えていて海の種族の手助けも借りれず、リヴァイアスから派遣した兵士は皆船が操れるが船の数と操船できる人員の数が合わなかった。オベイロス精鋭は操舵の経験もないのにこれぐらいできるだろうと意地を張って……大航海というわけでもなく船であればそこそこ近い距離なのに二隻難破したとかで騒ぎになったらしい、幸いリヴァイアスの近くだから人的被害はゼロだったそうだが…………なんでそうなった。
クーリディアスの本国から敵の増援はないようだが距離の問題もあるし警戒は続いている。
「負傷者などは少数です。問題はないと言いたいところですが……」
「なにかありましたか?」
「水中を追ってきた竜ですが解体中に体から卵が見つかりました。処遇に困って連日会議が開かれています」
他にも多くの問題を報告されたがもっとも緊急と呼べるものはこれだった。
割ってしまえという意見、生まれるのなら育てようという意見。クーリディアスに高値で送りつけよう!などなど、喧々囂々としているようだ。
守護竜王と呼ばれるあのドラゴンは他のドラゴンに比べてかなり強い個体だったからその期待できるのはわかる。
「……れを殺すのはもったいない。オベイロスの護国の竜にするべきだ」
「いや、水の竜だし、あれに決定打を打ち込んだのはリヴァイアスなんだからリヴァイアスのものだ。」
「リヴァイアスはオベイロスに反意を示すのか!」
「そうだ!献上しろ!!」
「ふざけるな!」
会議用の部屋の前まで移動すると入るまでもなく怒号が飛び交っている。
面倒なことにクラルス先生も薬にしたいと申し出てくるし、レージリア宰相は卵焼きにしようと提案しているそうで……他の問題であれば落とし所やこれからの対処にも前例があるものが多いがこの問題は簡単に決められるものではない。
奇策によって倒すことができたがまともな方法では上位竜は斃すこと自体ことができない存在だ。うまく成長し、制御できれば国防につながるのだから気持ちはわかる。
「そもそも生まれる卵なのか!?」
「海の竜をオベイロスで育てられるわけがないだろう!そもそも生まれるかもわからん卵なんだからクーリディアスに高値で売り渡してしまえば良い!!」
「それで何百年後かに攻められたらどうする売国奴がっ!!」
「じゃあ殺せってのか?!お前こそ新たな生命をなんだと思ってる?!」
「あのー、起きたんで来ましたー」
「近衛には飛竜部隊もいるんだから育てさせればいいだろうが」
「我が国に上位竜はいないっ!精霊教が黙ってるわけがないだろう!?」
「あんな金の亡者共のことなぞ知るか!!?」
「国教だぞ!!?貴様邪教信仰か?!杖を抜け!!」
「焼き殺してくれる!!」
「誰か止めろよ」
「よせ、ウェラッチィは精霊教の熱心な信者だ。こちらまで焼かれかねんぞ……外でやれ!!」
「<水よ!>」
会議室に入っても気が付かれなかったが、なんか杖を抜いて向けあった馬鹿がいたから水の腕を使って捕縛、口にも水の腕を入れて話せないようにして杖も取り上げた。国の偉い精鋭の人のはずだが遠慮はしない。
一瞬で会議室は氷ついて、皆の視線がこちらに集中する。
――――一番奥のシャルル達もこちらに気がついたようだ。
「フリム!起きたのか!!体は大丈夫か?」
一段高い場所の椅子に座っていたシャルル。私をアホ毛の先から足までじっくり見てから体調を心配してきた。
「はい」
「エール、ちゃんと知らせ……独り占めしたくて黙っていたな?」
「何のことでしょう?そんな命令は受けておりませんが?」
「お前な……まぁいい、フリムはどう思う?それとその馬鹿どもはこんな場で杖を抜くようなことをしでかしたんだ。塩でも作ってこい」
しれっとしているエール先生。私にも意見を聞いてきたシャルルに静かになった原因である二人。水の腕を口から外して話せるようにする。
「しかし」
「こいつが」
「爺の特別訓練を「「はい!行ってきます!!!」」
浮かせた杖をとって走り去った二人。うん、喧嘩両成敗だ。レージリア宰相も遅れてついていったのであの二人はこれからお説教か肉体労働か……酷いことになるだろう。
「全く……すまんなフリム、起きたばかりだろうが問題がある。対処に困っているし考えを出してくれ」
問題は大体わかった。
・ドラゴンの卵がある。
・そのドラゴンは上位種で、育てるか捨てるか売るか食べるかなどで議論が起きている。
・何をどうするにしても良い面も悪い面も大量にある。
「シャルルのところで育てれば良いんじゃないですか?こちらで引き取っても中央との関係の悪化するぐらいならその方が良いと思うんですけど」
「それもわかるが簡単にそうも言えん事情があるのだ……」
新情報が出てきた。
・ドラゴンは精霊を殺せる。
・精霊教はドラゴンを殺すことを推奨している。
・現在飛竜の部隊もいるがそれだけでも精霊教は良い顔をしていない。
・そもそも上位竜を育てるだけの環境がオベイロスにあるか不明。
「精霊教は抑えられないのですか?」
「国防につながるし黙らせることはできるだろうが……そもそもうまくいくかもわからんし、うまく育ってもリヴァイアスとの関係の悪化は避けられん」
竜王との戦闘で決定打となったのはバリスタだ。しかし途中戦ったのはオベイロスの精鋭や宰相達が主だが、そもそも脱出のために私が努力したことを獣人たちは見ていた。しかもそもそも捕まった王を助けるために動いていたことを知っているのに最も価値のある……成長すれば国を滅ぼせるかもしれない力を持つ竜の卵を強権で持っていけば確実に怨恨が残る。
「この戦、最大の功労者は間違いなくフリムだ。フリムに決めてもらおう」
「いや、そもそも卵が有精卵か無精卵かを調べて見ませんか?」
「……そうだな」
とらぬ狸の皮算用にもなりかねないし、そもそもの状況把握は大切だと思う。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ところでイリーアン姫、クーリディアスは今後どう動くか聞かせていただいても?」
「ジュリアン殿、イリアでいい。アモス殿も責任を取ると言ってくれたしな」
「本当に馬鹿な弟ですいません」
「いや、こんな女と見られないような者を娶ってくれるとは思っていない。冗談だ」
「イリーアン姫は」
「あ、そっちは本気だ。僕のことはイリアで良い。姫などと呼ばれるなどむず痒くなる」
「では、イリア姫、今後クーリディアスはどう動くでしょうか?」
「んー、そうだな。船も人も失ったし再び戦うことはないだろうな。だが父のことだし無茶を言ってくるかもしれんな……いや、それもできんか?」
「というと?」
「クーリディアスの事情というやつだな。竜王を失ったし……いや、まぁ俺、いや、僕は王子とは言えあまり良い地位ではなくてな。今後どうなるかわからない」
「詳しくお願いできますか?」
「何でも話すさ、将来の姉候補に嘘はつかないよ」
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