第145話 花嫁の到着?


鬱陶しい花嫁衣装で移動しているが大量の贈答品……主に香辛料も届けていくうちに情報が集まってきた。


案内人に「こっちの村で海猫族が問題となったからこっちの道を使ってもいいか?」なんて言えばかなり好きに動くことが出来て……領内の地図や領都の地図、なにより様々な品を運び込むことによって城の内部情報までわかってきた。


もしかしたらシャルル達がどこかで足止めを食らっていたりする可能性もあったのだがそういうこともなく、新しい戦闘の痕跡もどこにも見られなかった。


自分たちが入った砦とは別の土地から入った行進の跡が見つかったため足取りはわかりやすかった。


それぞれの道は今後の情報次第では脱出経路にもなりうるから調べて話し合っている。鳥人の作った地図ともほぼ合致するが、海猫や狐人が通ることで兵の数も漠然とだがわかってきた。


香辛料の届く城、香辛料はそれぞれの適切な保管方法があるといって別の場所に保管させることで鼻の良い獣人によって城の構造と兵の配置すらわかってきた。



それにしても領主が土の属性とは言え色々と陰険な城のようだ。



切り立った崖にある立派な城はあたかも領主がいるようにも見えるがそれは見せかけで本拠地は地面の下。


領主は女遊びと王都への儀礼以外はずっと引き籠もって城や領地を作っている。そこだけ報告を見るととても素晴らしいのだが財政は酷い。領主はよくいる典型的な駄目貴族で遊びで領民の税を上げることもある。「賊からの攻撃で村々を守るため」などと吹聴しているようだが自身の作る商品が売れなかった時や差し出される村の女が好みでなかった時にも税を課す。


先に領都に入ったはずのシャルルは城から出てこない。領民はオベイロス王の紋章であるにも関わらず無反応だった。領民はむしろ王様がいるなんて考えはなく「国の兵士さんが何かしに来た」程度の印象だ。


ここの領主は気分で税金を上げたりするからその部分をどうにかしてほしいと思っているようだが……辺境であればこのようなものか。


軍ともなれば飛空できる人間もいて偵察しているはずなのに、誰も空を飛んでいないのはどういうことだろうか?交渉がうまくいっているのか?


闇属性の狐人も城の調査をしているが迷宮のように複雑で完全には調べきれていない。シャルルたちは入った形跡があるのに何処にもでていないのに誰も見つからない。……どこかに隠されているはずだから全員見つけて助け出さないといけないが……既にシャルルが逃げているかどこか別の場所に連れやられている可能性もある。


作戦通りアモスさんをクリータ列島に送って内部情報を調べてもらっているが妙案だと思う。リヴァイアスの出身で元々の身分もある。クーリディアスの動向を探るのにこれほどの逸材はいないだろう。


ちょうど新しい領主の不興を買って周りの家臣に嵌められてもおかしくない状況。その上何故か全身派手に怪我していたからちょうどよいと刑罰のように海に流した。武装をもたせたものも沈むかどうかで苦しめるように見えただろうか?



「……なにか?」


「いえ、なんでもないです」



竜人に傷をつけるのは至難の業とされるが……ついつい隣の彼女を見てしまった。


牛の獣人もそうだけど純粋な人種と比べると竜人はとてつもない筋力だ。体も大きく、白い布によって更に大きく見える。



「リヴァイアスからの行列だ!!」

「無礼なことはするなよ!!」

「ほんとに獣人だわ」

「振る舞いもあるぞ!」

「花の準備はできてます」



もっと時間があれば……できれば救出までした上で領都に入る前に逃げたかったが仕方ない。


ここまで、視界の端で神官や石を投げようとした人が連れて行かれたりもしたが領都では民からは祝われているようである。急に石を投げられたりもすれば危険だし策自体が駄目になってしまうかもしれない。



「これは祝いの香り袋だ!!お金も入れている!この佳き日の祝いに!!」



ジュリオンさんが大きな体を立ち上がらせて用意していた香り袋をばらまいた。


見上げるほどに体格が大きい。目立ってもらうことも策の一つだ。派手に動いてもらうことで動きやすくなる。



「銀貨だ?!拾え!!拾え!!」

「さすがリヴァイアス!!」

「おぉクリータとリヴァイアスの未来に精霊の導きのあらんことを!」

「にーちゃんそれとって!」

「あぶねーぞ!?」

「それは俺のだ!!」

「よこせっ!!」

「酷い振る舞いはしょっぴくからな!!」



ここまでやるのかと思うが金銭は問題ではない。シャルル達の命の為、いや、戦争の回避ができるかもしれないしいくらでも使えば良い。工作費は後で出させれば何も問題はない。



「ボルッソ・ルーリ・ア・クリータである」


「ジュリオン・ヤム・ナ・ハーです。主が話さないのは古典に則った儀式ゆえご容赦くださいませ」


「ゆ、ゆるす」


「ダグリム・ダダーです。この光り照らす良き日の婚礼楽しみにしていましたわ」


「お、おぉ、俺も楽しみにしていた」



ジュリオンさんとダグリムさんは超がつく巨乳、胸の谷間を見て城の前に現れた領主は顔が緩みまくっている。


ダグリムさんは道中話してみると「俺様、俺様」と無頼でがさつな印象だったからちゃんと話せていることに安心する。


竜人と牛人、どちらも凄まじい胸の大きさであるが……。顔や各所はちゃんと白い布で隠しているが胸の谷間を2人は強調して少しだけ見せるようにしている……見えるだけなのに男って…………。



「今日は旅の疲れもありますので休ませてもらえますか?」


「………………それよりも姫君の顔を見たいのだが?」


「婚礼が終わるまでは私達の顔は見てはなりませぬ。これは『美醜に関わらず嫁ぐ』という古から伝わる伝統です」


「そ、そういうものなのか?」



前に一歩出たジュリオンさん、揺れる胸に目が行ってしまっているボルッソ……領の経済を傾けるほどの女好きという情報は間違い無さそうだ。


政略結婚で美醜が問題になることはあるしそういう事例や余興はあった。。



「勿論、婚礼の儀が終わるまで触れることも許されません」


「そんな?!」


「しかし、そうですね。殿方の逸る気持ちはわかります……姫君は女の私が見てもとても魅力的な方ですよ」



ジュリオンさんが少し小声で艶っぽく声をかけるとボルッソは私達の中の誰がと視線をこちらに泳がせた。



「そ、そうなのか」


「婚礼が終わるまでは我慢してくださいませ。婚礼が終われば我らは姫君の命と精霊の導きに従います。貴殿にはそれまで奥方殿の暴挙が無きようにすることを願います」


「……わかった!」


「大貴族故の面子もあります。時間もかかりますがお焦りにならないよう、お願いしますね」


「うむ!」



理性の吹っ飛んだ殿方というのはこうも扱いやすいのか……。


獣人差別をしているという評判もあるボルッソだから周りの臣下には煙たがられる可能性もあったが。何にせよここで争うことがなくて何よりだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ははっ!これほど強いものは初めてだよ!負けた負けた!!」


「イリーアン殿の槍も二手は届きそうでしたぞ」


「まだ体も万全ではないのにそう言われてもな……俺の槍はどうであった?」


「率直に述べても?」


「勿論だ」


「守りの槍術に偏りすぎですな。王族が故に護衛もいる前提で生き残るための槍を学んだのでしょう。良き師に教わったようですな」


「そこまでわかるのか」


「守りの手は妙手と言ってもいいでしょう。しかし攻撃の手はあまりにも素直」


「貴様っ!!殿下に向かって無礼であろう!!!」


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