第144話 この世は俺様のためにある?


クーリディアスの使者から謝罪の証として置かれた醜い生首。これまでのことを謝罪されると共に脅されたというのはわかる。



――――断るのなら次にこうなるのは俺だと。



……しかし考えてみると悪い話ではない。これからは攻め込まれることはなくなるし、成功すれば見返りは大きい。


クーリディアスは海洋国家で作物が育ちにくいから土地がほしい。そのためにオベイロスを狙う。クリータは役に立てばクーリディアスでも爵位も得られて出世できるし多くの嫁が差し出されることとなる。


秘密基地や砦を作るのが趣味で島ごと砦化したことで大きく評価されたようだ。代々やってることだしなぁ……。


いいな、悪くない。いや、最高じゃないか?開祖は憎しみ合っていたそうだが俺自身は賊に思うところはあってもクーリディアスにはムカつくぐらいで怒り狂うほどではない。断ればこれまで「一貴族の暴走」という形で嫌がらせされていたのが今度は国家単位の軍にクリータは磨り潰される。



オベイロスの事情やリヴァイアスの事情をできる限り話した。



そしてクーリディアスがまず欲しがったのはリヴァイアスの地。


オベイロスの混乱によって領主はいないのに広大な土地に船を多くつけられる港、大きく海ごと囲まれた馬鹿げた城壁。


香辛料や特殊な薬草、迷宮もあれば鉱山もある。豊かな土地……美味しそうに見えることこの上ないだろう。


政治機構こそ崩壊しつつあるが種族が多いだけあって少しつつけば内部崩壊寸前。『全てはオベイロスこそ元凶』と少し吹聴しただけでオベイロスへの忠誠心も無くなった。寝返らせる事も考えるのなら急いではいけない。



大きく事が動いたのは内通者の一報、新たなリヴァイアスの領主の誕生。プゥロはうちの領地の秘境にいた鯰人だった。リヴァイアスの領境に近い山奥の族長、彼は里ごと人質にしていたためなんでも言うことを聞く便利なやつだったが……城壁の開閉装置は破壊できたようだがおそらく捕まったのだろうな。連絡が途絶えてしまった。


内部から混乱させようとしたのだが失敗。だが、人族がリヴァイアスの領地に入れることはわかった。


クーリディアスからは「クリータはオベイロスの一領地」と考えている者もいるからか……クーリディアスはすぐに成果を求めてはいない。何年かけてでもオベイロス攻略をしようとしている。


クーリディアスに連絡はしたが流石に時間が足りなかった。うちで用意していた奴隷共を使って予定では朝までに攻め落としてクーリディアスに差し出すつもりだったが……仕方ない。


連絡してすぐに動けなかったクーリディアスも問題だがクーリディアスも俺もお互いに話し合っての上で隙があれば動くと打ち合わせしていた。


それに精霊の地であるからと失敗については理解をしてもらえた。クーリディアスも長期戦を想定して列島の前線基地化していて戦闘要員がちょうど少なかったのも一因だ。


人が入れないなら入れないで亜人奴隷を集めて攻めればいいと集めてもらっていたし時期が悪かった。


精霊に選ばれた新たな領主は力がすぐに使えないことがあるし、絶好の好機だったが仕方ない。損失もうちで集めた奴隷とうちの中でも俺様に反抗的な奴らばかりだしな。


船を大部分使い切ったのは惜しいが「クーリディアスのために働いた」という実績は示せたし忠誠を証立てられたのだから良い結果だったはずだ。クーリディアスには先に精霊による被害があるとは伝えたが軽く見られていたように思う。


もしも、クーリディアスが先に戦いに行っていたら全滅の可能性もあった。


オベイロスの精霊事情を甘く見ているクーリディアスにとっては精霊による損害は意味不明に見えるだじはず。これで、クーリディアスには現地の事情に詳しい自分はより有用に見えることだろう。


まぁ今頃本国から人を呼び寄せているだろうし、一領地が一国に敵うわけがない。



しかし流石に派手に動いたからか、オベイロスから王が来たのには驚いた。



マーヨニーズ姫、この世で最も美しい姫とも言われるフレーミス。彼女は王を助け、王は彼女を手に入れようと支援している。


そんなに姫君に良いところを見せつけたいのか、まさか本人が来るとは……最高に都合が良い。


可憐な侍女が1人に少数の軍、それと派手な衣の男も一緒に来た。


シャルトル王はマーヨニーズ姫のあまりの美しさから恋で舞い上がっているそうだが他の姫君には興味もなく、むしろ毛嫌いしているという情報もあった。だからこの派手な格好をさせた男が……いや、この軍の男ども全員が愛人なのかもしれないな。


妻共を差し出して王の種が欲しかったがそうも行かなかった。集めた男どもにも興味なし。いや、自分の男どもの前だから強がっただけかもしれない。



――――しかし、やはりこの世は俺のためにあるのかもしれない。



ちょっと演技するとこの中央の馬鹿どもはすぐに騙された。顔と服だけは俺から見ても見目麗しいが……なんて哀れな王だろうか。



「この城は変わった造りだな……まるで迷宮のようだ」


「常に外敵が来ますので少しばかり凝っています。この先から海に出れますのでクリータ列島の悲惨な状況を見てくださいませ……きっとこの領の状況がわかるでしょう」



城を自ら案内し、地図を見せ、疑いがないように見せる。


海に面した崖の先、先端に巨塔を作り、その地下を掘ってこの要塞を作っている。


迷路や数々の罠、行き止まり……クーリディアスからの裏切り対策で新たに自分が作った。この地の精霊と俺が契約している以上、同系統の土の魔法使いが来てもすぐには攻略されはしないがそれでも対策は必要だった。


できればオベイロス掌握のために生かしたまま引き渡すように言われているが……。



「うぉがっ!!!??」

「ぬぅぐっ??!」

「陛下!!陛下ァっ!!!!」



――――皆殺しにしてもいいと言われていたが、運が良かったな。



無言で精霊によってオベイロス国王を地下に落とし、残った者はドラゴン対策の吊り天井で殆どを仕留めたはずだ。


壁の向こうのことはわからんがうまく落とせて、自分が壁の向こうに退避できてほっとしている。毎日作った罠に反抗的な民や家臣をかけたのも楽しかったが相手はオベイロスの正規軍、それも精鋭部隊……震えるほどの歓喜が湧き上がってくる。


エールと呼ばれた女や彼らの装備していた魔導具の数々はもったいないが……腐った肉は掃除がめんどくさいしおそらく全部粉々だ。満潮の時期に外と繋げれば魚が掃除してくれるだろう。



――――いや、魔導具でも使われて生きている可能性もあるから声だけかけておくか。



「杖を捨てるが良い!!シャルトル王の命が惜しくばな!!!」



声をつなげる穴を作って大きく言い渡して穴は塞ぐ。


部屋の中に生き残りがいるかは分からないが他の通路に残った軍の残党は配下に対処させ、自分は落とした王の様子を見に行く。生き残った兵が精鋭であっても多勢に無勢であるしどのような精鋭であってもこの城の中では俺に敵うものはいない。


シャルトル王の落ちた部屋を見ると一応動いているから死んではいないな。運が良い。横に壊れた魔導具らしきものもあるから防御用の何かを持っていたのか?


結構な高さから落としたというのに。



「き、貴様」


「杖を捨てて大人しくしていることですな。生き残った部下を殺させないためにも、ね」



多分全滅しているだろうが、これで少しは希望を持って生きようとしてくれるだろう。部屋ごと位置を変えて正規軍の生き残りがいた場合に備える。


上の護衛共はどんな竜でも殺せるような超重量で押しつぶしたが、魔導具や精霊によって生き残っているかもしれない。王の場所を移すことでもしも生きていたとしても人質として成立する。



精霊と契約している魔導師の領域に無防備に入るなど、なんと愚かな……いや、自分の演技の才能が恐ろしいな。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「凄まじい回復力だな」


「おぉ殿下!お見苦しい姿をお見せしました!!」


「殿下呼びはしなくとも良い。アモスよ。槍を使うのか?」


「はい。これでも領一の使い手として……いえ、過去のこと、お耳汚しをしました」


「聞くところによると槍も一緒に流されてきたのだとか」


「はい、しかし、俺のような不審な者は武具を持つべきではありません。預けております」


「そうか、なにか不安げだな?」


「……手入れもしていないので錆びてないかだけは心配になりました」


「そうか、手配させておこう。それはそれとして俺も槍の使い手として国では讃えられているのだ。一手願おうか?」


「是非に、しかし武人として手は抜きませんぞ?」

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