第143話 クリータ領主?
幼い頃はオベイロスでも辺境、田舎で何も無いクリータなんかに生まれてやるせない思いをしたものだ。
辺境生まれの16男なんて、平民以下の暮らしだった。
醜い顔だからと親にすら蔑まれた自分には馬小屋ぐらしの兄貴が羨ましかったが……それ以下の暮らしが嫌ででもどうしようもなかった。
家族の中の変わり者、土魔法で領地を変えて領内を歩き回っていく母方のばあちゃんに拾われてずっと一緒に自然の中で暮らした。
ばあちゃんは「もしかしたら何代も前に蛙人の血の入った人がいたのかもしれないね」と謝られた。
ばあちゃんは精霊と契約していて本来大切にされる立場なのだが父親の女癖で家によりつくことはない。
ばあちゃんは領地の崖の補修や山の獣を狩る仕事をしていた。小さな岩の小屋を作れるばあちゃんは山の恵が好きで獣なんてなんのその。
斧をもって戦うのが得意でよく一緒に獣を狩った。貴族というよりも亜人のほうが近い暮らし……「山賊は金を持ってることがある」なんて笑いながら賊を拷問する元気なばあちゃんだった。
生き物の殺し方のみならず、礼儀や言葉使いにも詳しいばあちゃん。
「俺もこうやって暮らすかられーぎとかいらないよ?」
「若いうちに覚えておくもんだからね、いつ役に立つかはわからないからしっかり覚えておきな。じゃないと飯抜きだよ」
「はーい」
「それが終わったら次は罠のかけ方だよ」
紳士や淑女の正しい振る舞いを教わった後にすぐに獣の殺し方を詳しく熱心に教えてくれる。ばあちゃんはやはり変わり者だ。
全く貴族らしくはなかったがばあちゃんとの暮らしは楽しかったのはよく覚えている。
ばあちゃんが歳で亡くなって、高位継承者ではないが学校に行って土の魔法に目覚めて……ばあちゃんと同じ岩と茨の精霊と契約できた。それもばあちゃんよりもうまく魔法も使える。
家督争いなんて性に合わなかったし、卒業後は家で引きこもって生活していた。王都で蛙人とか臭い臭いと言われるのは屈辱だった。
王都のように栄えてはいないがクリータはまぁ住みやすかった。親父は金を稼ぐ俺を以前とは全く違う生活をさせてくれて屋敷に部屋をくれた。
「これは……なかなかの逸品ですな」
「いくらになりますか?」
「素晴らしい品ですが、移動中に割れることも考えると……そうですな金貨2枚でどうでしょう?」
「喜んで!!商談成立!!!」
ただ、力の強い精霊と契約するというのは歳をとった親には朗報である。しかし、家督を狙う兄や姉共には我慢できなかったのだろう。
商人に売るための工芸品を目の前で壊されたりもした。
「こんな物が金になるのか?」
「……精霊と契約してるから、かな?」
「作ってるのがこんなカエルじゃぁ高くは売れないだろうなぁ、おっと」
「割らないでください!商品ですよ!?」
「あ?兄に向かって何だその態度は!!」
ただ、やはり兄たちは本当にめんどくさかった。王都に残ることも考えたがこの容姿では腹立たしいことがもあったしやっていける自信もなかった。
緑の筋が不規則に出る白く艶のある艶のある石が出せるようになって工芸品を作って……実家に住みながら実家の人間とは話さずに生活していた。ある時精霊との契約に金稼ぎで目立っていた俺様が邪魔だったのかクソ兄貴共によって襲われた、らしい。
屋敷は燃えたが地下に秘密基地を作っていた自分はそれに気づかずにいて……木で出来ていた領館、そして領都は大きく燃えて家族はみな死んだ。
たまに思う「この世界は俺のためにあるんじゃないか?」……と。
外の暮らしで不便も屈辱も知ったがそれはそれで経験になったし、精霊に認められて、力ある貴族となり、女にも困ることが無くなった。ムカつくほどいた家族も、もういない。
屋敷も古臭かったのを自分で好き放題に作り直せるのは楽しかった。しかし、全部燃えて金がなくなったがそこはたくましく生きる辺境。税を出させれば普通に暮らせるしなんの問題もなかった。商人には俺の魔法で作った品を売れば結構な金になるし、文句を言うものはいない。
楽しく生きていれば良いことも悪いこともあるが……数年もすれば隣の大領地の領主一家が全滅したから好き放題亜人を捕まえて売ることができたのは大きかったな。
できれば領地にしたかったが亜人共は厄介だった。亜人はすばしっこいし数人は強い者がいてなかなか自由には出来ない。
まぁ自由にできないからこそ、人生は楽しいこともある。ただ立場が変わって腹立たしいのは「自分よりも上の人間がいる」ことと「クーリディアスのクソどもがムカつく」ことだ。
国の王には頭を下げないといけない。この俺様が、だ。
クリータ子爵領はオベイロスの中では辺境にあるし爵位も低い。親父は煩いほどに儀礼や作法にうるさかったが……王を含む高位貴族というものは常に殺される危険性もあるし面倒事も多ければ重責もとんでもない。そう知って辺境の子爵で良かったと心底思った。
若くして俺様よりもさらに大きな王位なんてものを得た顔の良い王に頭を下げに行くのも、王都の貴族共に頭を下げて「田舎者が」「礼儀知らずが」と見下されるもムカつく。が……俺の楽園はこいつらの普段の労力があってこそと思えば頭を下げるのもやぶさかではなかった。頭を下げているときだけは殺したいほどにムカついたが。
岩と茨の精霊に認められてから嫁の数も多い。
精霊に認められ魔法力の強いものほど貴族社会ではモテる。容姿は蛙のようだと言われて学生時代はモテなかったが女に困ることはなくなった。皆こぞって差し出してくる。
母親、義母、妻、姉、妹、従姉妹、娘……中央で力を誇りたい貴族共が必死に女を送ってくる。
まぁ、貴族の出の女というのはまともな性格のものはいないし、しがらみもうざったい。仲良くしろと思うが女どもは殺し合うから面倒くさい。だから結局その辺の女を連れてくるのが楽で良い。
平民は立場をわかっているから献身的で愛らしい。
平民の大半は魔法をまともに使えない。しかし貴族の子なら強い魔法を使えるかもしれない。苦しく辛い生活だから戦えるほどの子供が生まれれば生活は明るくなる。旦那がいようとも村のためと俺を熱心に歓待する。
歓待されれば少しぐらいなら税を下げてやっても良い。家臣共は渋い顔をするが村総出の歓待は楽しいからやめられない。
面倒なことは家臣共に任せて俺は世継ぎを作る仕事と住まいの改造、それと売るための調度品を作って楽しむだけでいい。
クーリディアスのクソどもはムカつく。大昔にはクリータと縁があったとかで親父らは交易していたが……政争が起きてから賊を装って攻め込んでくる。
しかし最近、クーリディアスでは新たな王が立ったとかで使者が来た。ここにしつこく攻め込んできていた貴族の首を手に持ち……度肝を抜かれたが、話を聞いてみて納得もした。
――――これからリヴァイアス、ひいてはオベイロスを攻めるから手伝ってほしい、と。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それで?貴様は?」
「リヴァイアス領では竜人族族長でした。アモス・ヤム・ナ・ハーです。尊い方とお見受けするがご尊名伺ってもよろしいでしょうか?どこまで流されたのかはわかりませぬができれば無礼の無いようにしたい」
「ふん、クーリディアス王子イリーアン・ド・レース・クーリディアスである」
「まずはこの身を助けていただき感謝の意を伝えたい」
「よい、竜人族がそう頭を下げるものではない」
「しかし、この身がクーリディアスまで流れるとは……彼の地の作法は寡聞にして詳しくなく」
「気にするな。それにしてもここがクーリディアス、ね。ある意味間違ってはないが」
「は?」
「気にするな。また話を聞かせろ」
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