第142話 辺境の王様?


フリムが心配ではあるが無事にリヴァイアスを離れて軍と合流できた。そのままクリータに移動する。


クリータさえどうにかすればこれで東部の問題はなくなるはずだ。


空を見るにすでにオベイロス王都の水没の危険性はなくなっているようだし、後はリヴァイアスの安寧のためにクリータさえどうにかすれば良い。細々とした問題はあるだろうがそういうのは家臣の仕事である。先送りにしても良い。


戦場となるかもしれないリヴァイアスにフリムを残していくのも不安ではあったがクラルスもいるし空飛ぶ馬車もある。何かあればフリムを連れてリヴァイアスから逃げるようにクラルスに言いつけた。


手っ取り早く、犠牲が少ないからこそ俺も出張っているがそろそろ王都に帰らねば伯父上の動きが怖い。



大精霊リヴァイアスによるオベイロス水没の問題も解決できた……が、やはりできるだけ全ての問題を解決してやりたいものだ。オルダースとフラーナは閑職のように俺のもとに来たが、命をかけて俺に仕えてくれた。時に兄や姉のように……その2人の娘は「生きるため」という理由で頑張っていたようだが、人々に求められ立派に領主となろうとしている。


俺もフリムと似たようなものでどうしようもなく王となった。しかし俺には絶対に信頼ができるオルダース達が近くにいた。当時は重臣共の言っている言葉の意味が全く分からず侮られていた。かなりの失態を重ねていたはずだがオルダース達は見捨てずに側から手助けをしてくれていた。


俺には信頼できる乳兄弟や叔母上、爺にオルダース達がいてくれたからやってこれた。……が、フリムはずっと1人で生きてきた。


それもオルダース達の、俺の家族の娘が、あんなに幼いのに1人でだ。


王都の治安の悪い地域で身寄りもなく、家もない生活をしていたフリムは俺なんぞよりもよっぽど賢いだろう。しかし、フリムには頼れる人はいなかった。



娘や妹のように思っているフリムが心配でたまらない。



俺なんて全部投げ出そうとしたこともあるのに、賢いフリムはしっかりと人々に求められて領主となった。


見たことも聞いたこともない料理を作るし……本当に、やること成すこと驚かされる。――――カラーゲやカレーなどという天界の食べ物に腕を生やす水。頭上の動く毛や……その…………色んな意味で。



「シャルル、どうかしましたか?」


「……いや、何でも無い。さて、クリータの領主はどういうつもりなんだろうな?」



できれば何をしでかすかわからぬ妹分の問題は俺が全て解決してやりたい。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




クリータ領都はリヴァイアス領都より活気がない。亜人は見かけないし、人種の違いかと思ったが……人々の顔がどこか暗く感じる。リヴァイアスではフリムとリヴァイアスの接触によってお祭り騒ぎだったからというのもあるかもしれないがそれにしたって活気がない。


城に入るとすぐにクリータ領主が出迎えてきた。



「このような辺境の地にオベイロス国王が来訪されるなどなんと名誉!なん「挨拶は良い。リヴァイアスとクリータの争いについて聞かせよ」



挨拶は打ち切る。苛立っているとわかるだろう。



「はっ!しかし、リヴァイアスとの争いとはなんのことでしょうか?」



この程度では全く動じないか、笑顔でしらばっくれてきた。



「ついこの間だ。クリータ領の船団によるリヴァイアス襲撃があったそうだが?」


「それは……おそらくクーリディアスによる襲撃でしょう」


「どういうことだ?」


「このクリータはクーリディアスと歴史上仲が悪く、私の代でも何度も嫌がらせを受けています。きっとこの領地から盗んだ船を使ったのでしょう。嘆かわしいですな」


「では政争中と俺が王位を継いでからもリヴァイアスでは奴隷商がここクリータの命令で襲撃していたと聞くが?」


「聞いたこともありませんな」



――――あぁ、いつもの貴族だ。


リヴァイアスではほとんどが亜人で、純粋に近い見た目の人間は皆ひとまとめとされていて会うことは殆どなかった。亀人テロスや何も言わない族長以外は敵意や悪意を隠さず向けてきていて……こういう貴族と話す機会はなかった。


しかし、この男、中央の貴族と違って「何かがおかしい」とはっきりわかる程度にはなにか含みがあるのを隠しきれていない。



「そうか、苦労しているようだな?」


「はい、麗しき王都と違ってこの辺りには他国からの嫌がらせが多くありますゆえ」


「ではどうせだ。こいつらの演習にもちょうどいい。民のためにも賊共を撃滅させる故、その間滞在する」


「かしこまりました。粗末な屋敷ですが部屋を用意しましょう」



口からは嘘、目から醜悪さが既に滲み出ているこの男を仕置きするのはいつでもできるが……あえてのる。


俺の目が辺境に届いていなかったのもある。他国からの侵攻であればこんな領主でもいないと国防に大きく穴が開く。戦時だから民の顔も暗かったのか?



ここの領主は土属性で砦のような城を自分の好きに改造していたようで……とんでもないな。


白に緑の筋が入っている艷やかな壁はとても上品に見える。随所に調度品や美術品……裸婦像があるがこれだけ美しい壁ならなにもない方が上品なのにな。



「常に敵に襲われることのある領地ですゆえ……お気をつけくださいませ」


「いや、この作りは貴殿が?」


「はい、岩と茨の精霊と契約していますから、少し凝ってしまいました」


「……良い出来だな」


「ありがとうございます。ささ、こちらへどうぞ」


「「誰かっ!!」」



先に部屋に入った近衛……だが様子がおかしい。


杖を抜いて前に出るでもなく、その場で固まった。仕方なく部屋の中を見るとずらりと女達がいた。



「我が妻です。どうぞ陛下」



ベッドの周りに薄着の女たちが並んでいる。


どうぞ陛下……の意味がわからずに固まっているとエールが咳払いをしてこちらを見た。なんだか俺を蔑んだ顔で見ている気がする。


あ、そういう意味か。この男、妻をどうぞとは…………。



「……必要ない。女共を下げろ」


「お好みに合いませんでしたか?ではこちらでいかがでしょう」


「…………」



部屋の奥からずらりと出てきた男達、彼らも薄着で、子供から老人まで年齢層も幅広くいる。亜人も何人もいて……意味がわからない。



「ここは辺境、王都からの目もありません。ご存分にお楽しみください」


「…………………ちがう、おとこがいいといういみではない」



頭が痛い。


俺は政争からまともに付き合える女がいないし、周りから色々言われていることは知っているがそういう思われ方もしていたとは。


しかもこの領主、冗談ではなく本気なのだからたちが悪い。



「はー……俺は疲れているから全員下がらせろ」


「もっと獣に近しい者共の見た目がお好みだったでしょうか?これでも王都からの噂を考慮して選びに選びぬい「下がれといった」――――わかりました」



辺境では俺はどんな王と言われているのだろうか?


領主はエールと…………爺のことをよく見た後に退室していった。違う、エールは美形だが乳兄弟だしそう言う事は考えたこともないし、爺は兵の中で唯一豪奢な衣を着ているが愛人ではない。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「アモスっていうのか」


「今どき海に流されるなんてな、あんた何をしたんだ?刑罰にしても鎧や槍まで一緒に流されるなんてなかなかないしな」


「……リヴァイアスの後継者候補の一人だった。新たな領主様に俺は邪魔だったのだろう……それでも家臣となろうとしたのに他の奴らのご機嫌取りか「立派な鎧と槍があればどこでも生きられるでしょう」と嘲笑されて痛めつけられましてな。ぐっ……」


「酷い傷だ。オベイロスの刑罰は残酷だな……サメのエサにならなかったのは幸運だよ、あんた」


「ここがどこで誰様の軍かは知らんが礼が言いたい。指揮官のお方を紹介していただくことは可能だろうか?この竜人族族長アモス・ヤム・ナ・ハー、これも精霊の導きとして力をふるいたい……いや、もう族長ではないか、ただの武人として礼をしたい」


「わかったわかった。だが今は休め、酷い傷だからな」


「飯さえいただければこのような傷すぐにでも……」


「おい、飯だ!持ってきてやれ!」

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