第141話 花嫁行列?


上に連絡を取るとすぐに丁重に送り届けるように厳命された。


もしもこの婚姻が成立すればもうリヴァイアス領との因縁が……なくならないまでも減るはずで、一番影響を受けるであろう自分たちには喜ばしいこととなる。



「しっかり守れよ!!絶対に!絶対に手を出させるな!!!」


「「「「はいっ」」」」


「先に行って伝えてこい!!」



クリータ領都までの村々にはリヴァイアスとの争いで親や夫を亡くした人はいる。完全にこちらが加害者だが末端の兵士の家族には事情がわからない人もいるし……人族至上主義の風潮から亜人の村民に石を投げるようになったものもいる。阿呆な神官共は殺しても良い……こっそりとやれ。


すぐにでも領都に彼女らを送り届けたいところだが……彼女たちの歩みは遅かった。


一歩ずつ一歩ずつ、存在感を見せつけるかのように歩いていく。こちらも準備があるとわかっているからの配慮でもあるとは思うが、大貴族の婚姻では領都から領都に移動するだけで1年を要するような事例もある。


リヴァイアス家はオベイロス王国の中でも高位の貴族であったし、かつては水属性の大家とされ、国で知らない者はいない…………特にその凶暴性は誰もが知るところだ。


それに対してクリータは子爵、歴代で強い精霊の加護もなく、外敵から守りやすい地形故に居着いて成り上がれた辺境の中の木っ端貴族。それもやっと子爵になったばかりで歴史もいつからあるのかわからない程に長いリヴァイアスとは比べようもない。


クリータは遠くのクーリディアスの貴族だったがなにやら仲違いをしてこの国に来たのが祖であり、クーリディアスへの嫌がらせのために島に砦を作ったような陰湿さがある…………半島に船がつけないように浜辺をわざわざなくして崖にしている。漁に出るのも一苦労、交易も少なく、オベイロス国内では貧乏木っ端貴族である。給料も安い。


むしろ通りかかっただけの船も襲うこともあるし貴族というより海賊のほうが近いかもしれんな。


まぁそれでも半島も島々も砦があるだけあって獣や敵兵で民が死ぬことは少ない。最前線とも言えるリヴァイアスとの領境周辺は別だが。


そういった事情もあって領都に近づけばまだ安全だし早く進んでほしいと言いたいが…………なにか言える立場ではない。格上のリヴァイアスが格下のクリータに嫁いで頂けるだけでも幸運なのに誰かが不興を買えばこの縁談がなかったことになるかもしれないからだ。



――――しかし、考えるとリヴァイアスも立場が危ういはずだ。



政争で一度血族が途絶えたし、リヴァイアスと縁を結んだものが現れたとしても王都が「新たな家」と考えるか「爵位も領地も継承した」と考えるかはわからん。こうやって金のかかった行列をわざわざ作って「我が家の力は健在ですよ」と王都や近隣の領に見せつけたいのかもしれない。


そうすれば新興の貴族として男爵や子爵と言った爵位を与えられるよりも伯爵位や……うまくすれば侯爵位を与えられる可能性もある。クリータも王都にとって木っ端貴族とは言え婚姻関係となれば口添えをしなければならなくなるし、ここら周辺に力を見せつけて落ち着かせることができれば、王都に「東の主リヴァイアスの健在」を見せつけられる――――彼女たちにとってはどこをとっても賢い手だ。



「「「にゃー!」」」


「うん、行っていいぞ」



大貴族の面子があるからか、海猫族がリヴァイアスからの贈り物を先に領都に運んでくれている。


海に面しているのに漁もしにくいクリータと違ってリヴァイアスは超がつくほど豊かだ。交易も盛んで、珍しい植物も多い。日持ちする作物や香辛料を作るし、水の名家だけあって酒を多くつくるから船乗りには立ち寄るのにもってこいだろう。


争う意思はないということなのか、戦闘に向いていない海猫族が列をなして大量の贈り物を持っていく。香辛料は銀貨で取引されるし、様々な工芸品や何に使うかわからない渡来品……この婚姻にリヴァイアスの本気が伝わるがもしも彼らの1人でも傷つけば……そう思えば警護の手は緩められない。


空の警備はこの地にはいなかったはずのワイバーンの部隊が巡回しているが……ご当主様はいつそんな高価なものを手に入れたのだろうか?



しかしなんでこんな事になっているのだろうか……何度考えても理不尽すぎて怒りよりも呆れてしまう。


俺は砦の指揮官だったはずなのに姫君らしき方に「此処から城までの道のりは先は任せますね」と言われてしまって城までの道のりに同行することになった。



彼らも一応兵士をつけてくれているが戦えるのは数人の牛人族や犬人族、鹿人族のみである。残りは戦いに向いてない種族が中心で刃引きされた儀仗兵のみ。クリータ周辺では見かけないが別の領地との境で猛威を振るっている狼人や虎人、空の支配者たる竜人族のような強靭な種族は来ていない。


先に行く海猫族は領民に襲われることもあってヒヤヒヤするが素早く石も矢も避けて「何もなかったことにしてくれている」と報告を受けている。彼らはこの婚姻に賛成なのか騒ぎ立てることもない。ひもじい村々にとって彼らの背負う荷は魅力的だろうな。


彼らの持つ荷物は小さく、派手なものではないが領都までの道を往復し、既に帰ってきている者もいることから膨大な数になるだろう。



「にゃー!」

「にゃー!」

「にゃー!」


「ん?なんだ?……手紙?」



受け取ってみるとクリータの紋章……だけじゃないな、城勤めの奴らのものもある。


どれどれ何が書かれているか――――


領主からは……『美人かどうか見ろ、移動を急がせろ』

家老からは……『できる限り遅らせろ。神官が騒いでいて縁談が潰されそうだ』

家臣からは……『贈り物を持ってくる亜人の種族は狐人族でも良いと許可を出した。これでもう少し大きなものも運べるようになったからな』……と。他にもいろんな配慮や苦言について書かれている。



「っ!!……っ!!!!」




――――好き勝手言うなクソ共がぁぁあああああ!!!??




美人かどうかは知らん!


「顔をまず見るのは花婿だけで無礼だ」と顔の確認はさせてもらえない。しかし武装はしていないし、胸元が少し空いている人も多くいて女性の集団ということはわかる。


俺だってすぐにでも領都に到着してもらいたいが領民や兵からの暴発さえなければリヴァイアスの印象は王都にとって良くなるし、更に「大貴族」のリヴァイアスの姫君が嫁げば後にクリータのためにもなるだろうに色ボケ腐れ外道はそれがわかっていない!!


神官共は……厄介だな。親や子をなくした家族にとって神官の人族至上主義はすがりたくなる気持ちもわかる。途中彼女たちが食べるものは俺も毒見しているが明らかに味がおかしいものもあって何度も作り直させることがある。それほどに神官と民の動向はよろしくない。


しかもリヴァイアスの配慮でわざわざ海猫族たちが運んでいるのに、狐人族に許可を出した、か……たしかに彼らも戦闘向きでは無いが戦闘となれば目で追えない素早さの恐ろしい種族だということはわかっているのだろうか?


いや、安全な城でふんぞり返って命令だけしてくるクソどもにはそれがわかっていないだろうなぁ。



「にゃー!」

「にゃー!」


「わかったわかった。……胃が痛いな」



手紙の追加か……うちの兵士にもってこさせてくれよ。え?ウーダの妻から?ウーダの子供に対する爵位継承に一筆署名してもらうための書類を届けてほしい?こっちは……ウーダの愛人?!新しく生まれる子の保証?!



…………もう勘弁してくれ、砦の防衛だけでもきつかったのに、それ以上に厳しい立場になるなんて思っても見なかった……。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「最近寒くねぇか?」


「海の種族もこんなの初めてだって丘に上がってきちまってるよ」


「地元の奴らもリヴァイアサンがお怒りだって怯えちまってるよ」


「見たこともない化け物にやられたって話も聞くぜ?」


「海には色々いるからなぁ……まぁ、ビビってるだけだって」


「……何も起こらなきゃ良いがな」


「あぁ、ん?何だあれ?」


「あ?ゴミ……いや、あれは人か?!」

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