第133話 竜人姉弟?


カレーを食べているとアモスさんが腕を組んでこちらを見ていた。


皆の歓声の中、彼だけこちらに向かって無言で立ち尽くしている。


彼に向かってカレーを差し出す。



「あの、喋れないと皆が困るのでとりあえず食べてください。食べれないものは入ってないそうです」


「……良いのか?」



一応彼はこの領で慕われている人格者らしいし、襲われることは多分無いが周りではアモスさんに警戒しているようだ。


払われずにちゃんと受け取ってくれたカレー。流石に食べ物を粗末にされなかったのは良かった。



「はい」


「では馳走になる……こ、これはっ!!!??」



カレーの海老に食らいついた彼は固まってしまった。周りで歓声を上げている人と同じく感動しているらしい。


それはそれとして、ずっと立ってこちらを見ていたのだからなにか言いたいことがあるのではないだろうか?



「あの、なんでしょう」


「………」



ピクリとも動かなくなったアモスさん。


周りでは「カレーが美味しい」「新たな領主様万歳」といった反応の中、彼だけ時が止まったかのように完全に固まっている。



「あの?」


「………………ハッ!あまりの旨さから死んでいたのかもしれん!」


「それは良かったです。冷めないうちに食べてください」


「うむ!」



カレーは美味しいよね。この国の料理って基本が「精霊様からのお恵みだからそのまま食べよう」みたいな風潮があって、食材に手をあまり加えないから下処理の段階があまりなくてエグみとか臭みを除去しきれていない。


カレーも持ち寄ってもらった肉とか下茹でしてもらっただけで全然違うというのに。


あっという間にがっついて食べきってしまったアモスさん。ちょっと口元についたままで面白い。



「ふぅ……とても美味で素晴らしい料理ですな………」


「ありがとうございます」


「この世のものとは思えぬほどの美味、彼らや姉への扱いを見るに仁君となられましょう……。しかしですな、敵への対処を見るまでは頭を下げるわけには行きませぬ。一度でも主になるべきと人々に求められ、それを承諾したのなら……新たな主が立ったとしてもそれを見定めて然るべき――――まだ頭は下げられませんな」



やはり、彼は彼なりに考えていたようだ。



「なるほど」


「ただ……ホーリー、リットー、トプホーの3人には御温情を賜りたく、主不在で俺を立てようとしてさぞ無礼を働いたでしょう」



誰だろう?ホーリーは犬の人だがその他2人は初耳だ。



「誰ですか?」


「俺に勝手について回っている3人で……おそらくホーリーはなにか言っておられたでしょう」



あー、私の喉を食いちぎろうとしていた犬の人とそれを止めに入った鳥と狐の人だ。


そう言えば今日は姿を見かけないがどうかしたのだろうか?



「彼らは?」


「儀式を台無しにしかねないので牢に入れておきました」


「なるほど……アモスさんに聞きたいのですが、貴方の考える「敵への対処」とはどれほどを求めていますか?」



どこまでの対応を求められるのか……これは聞かないといけない。


現代でも騒音問題や隣人トラブルでも憎しみは湧き上がることはある。それが、姉という身近な人間にあんなに大怪我させられてしまえばブチギレていても仕方ないと思う。


敵が誰かもわからないが彼女はボロボロであった。


シャルルと宰相と相談はしているが面倒なことになっている。もしも隣の……クリータという領地の人間が攻め込んできたとして、戦った後を考えなければならない。勝っても負けてもその地には兵力が減ってしまえば他国の侵略を許しやすい状態を作ってしまう。


うちと戦ったとして、勝利し攻め滅ぼし、占領したとしても……リヴァイアスの兵力が単純にそこに割かれてしまう。クリータは他国との繋がりがあると今は言われているのだからオベイロス全体の問題にもなりかねない。


だから現在はオベイロス中央から武力交渉も可能な人員がクリータに向かっている。


戦闘にならずとも領主の交代も出来るように「これまでに功績を上げていて人格も能力も忠誠心もある人」を国から選んでクリータに向かっているようだ。それでも領主の交代は領地の混乱を招くし、クリータ次第ではうちで占領し統括したほうが良いかもしれないという意見も出ている。


しかし、恨みの残っているうちが占領したとして、リヴァイアス領にするのは結構危険らしい。ただ、その裁量や政治的な部分をアモスさんに理解してもらえるかと言うと――――



「もちろん二度とこのリヴァイアスに杖を向けられぬように根絶やしにしたく」



ですよねー……。


でも、敵兵の中にもリヴァイアスに害をもたらさず、その地を守ろうという人もいると思う。



「なるほど」


「新たな領主として、力あるものとして、規範を示すためにもどうかこの恨みを晴らしていただきたガホッ??!」



空から何かが降ってきた。アモスさんの顔面に、空から降ってきてかかとをねじ込んだ。蹴りの名前は知らないが正しくミサイルキックだと思う。


巨漢であるアモスさんよりも更に大きい……角や羽に尻尾を見るにアモスさんの姉のジュリオンさんだ。



「アホ弟が!すいませんフレーミス様!!」


「ジュリオンさん、かな?怪我はもう良いんですか?」


「はい、すっかり良く「姉ちゃん!?そんなに良くなって」おだまり!フレーミス様になんて無礼なことを言ってるのですか!貴方は将とし「しかし、力強い領主の姿を見せていただくのも」だまりなさい!領主が戦う前に兵が戦うのは当たり前でしょうがっ!!「グルル」グルォオオオオオン!!」



おぉ、まだ簡素な服であるが全身治ったようだ。


初めて顔を見たがクール系の美形である。アモスさんのドラゴンフェイスと違って顔の作りは完璧に人間、宰相と同じで耳の先が少し尖ってる……ぴっちりビジネススーツの秘書とか似合いそうだ。いや、角や尻尾に翼、それと巨大な身長と胸があるから無理かとアホな考えが脳裏をよぎった。


彼女は元々共通語が話せていたようだが唸るように弟の折檻を始めてしまった。


ドガンドガンと交通事故のような音と衝撃が辺りに響き……石畳を軽く割ってアモスさんをボコボコにしている。



「……その、ジュリオンさん?」


「グルルォ」


「そこまでにしましょう。きっとアモスさんはジュリオンさんのことを大事に思っていてそう考えたのでしょう。殺しちゃ駄目です」


「ルルル」



ジュリオンさんは「寛大なるフレーミス様に感謝しなさい愚弟」と残して尻尾で追撃してからアモスさんの頭を持って私に頭を下げた。



「あのまま死ぬしかなかったこの身を癒やしてくださってありがとうございます。今後この身は貴女様と共にあることをお許しくださいませ。……それとこの愚弟が失礼しました」


「でも、ねぇちゃオゴッ」


「………」



アモスさんは顔の半分が石畳に埋まった。


竜人というのは怪力なのだろう、石畳がまるで柔らかい泥のようだ。



「ジュリオンさん、体調は大丈夫ですか?」


「はい、フレーミス様の命の水にて生き返りました。素直になれないこの愚弟も頭を下げているのでどうか共々っ!!」



メギギとジュリオンさんの手のひら、アモスさんの頭から骨が軋む音が聞こえる。



「えっと、その、これからお願いしますね」


「――――幾久しく御身のそばに」



膝をついて体を小さくして頭を下げてもなお私よりも大きい。手を取られ更に下げられた頭に載せられた。撫でろということだろうか?


…………あれだけウヒャウヒャ言っていた人とは思えずに「とりあえずもう少し経過観察するべき」とか言ってしまいそうだったが戸惑って思わず「お願いします」と言ってしまった。アモスさんピクリとも動かないけど死んでないよね?



とりあえずカレーを上げるとジュリオンさんは火を吹いて喜んでいた。今のうちにアモスさんに水を上げておこう、頭からなにか漏れてるけど冷や汗とかだと信じたい。



アモスさんの舎弟らしきホーリーさんたちにもカレーは届けてもらう……そしてまだのびているアモスさんはジュリオンさんに連れて行かれた。姉弟喧嘩は姉のほうが強いようだ、2人共ものすごく大きいし家とか壊れないと良いな。

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